11.謎のおっさん、牛を狩る(5)
「おう、ナイスファイト」
「遅いよおっちゃん!もう大丈夫なの?」
「おうよ。この通りピンピンしてるぜ」
おっさんはまず、近くにいたナナと合流した。
PK達との死闘を繰り広げた後だが、彼女も元気そうである。
「後はあのデカブツだけだな」
そう呟くおっさんの視線の先には巨大牛。
そして、それと戦うアーニャの姿。
巨大牛の体当たりをかわしながらカウンターの一撃を繰り出し、完全に回避しきれずに負ったダメージは即座に回復魔法で治療しながら戦っている。
「スタイル的にはシリウスとカエデの中間くらいか……?まあ、技術的にはあいつらに比べりゃまだまだだが、なかなか面白くなりそうだな」
おっさんはアーニャの戦闘をそう評しつつ、合流すべく足を進めた。
「よう、ご苦労さん」
「ふぇっ!?あっ、ご無事でしたか!?」
「あたぼうよ。あれくらい屁でもねぇっての」
アーニャの頭を片手で撫でながら、おっさんは油断なく巨大牛を見据えた。もう片方の手には数本の投げナイフが握られている。
「良い戦いだったぜ二人共。ナナのスピードを活かした連撃も、アーニャのカウンターもそれぞれ良い武器になる。そのまま伸ばしていけよ」
おっさんに褒められて、二人は笑顔になる。
「が、俺に言わせりゃ、まだまだ甘ぇ」
持ち上げられた後に落とされて、二人が軽く凹んだ。
「つーわけで、後は俺に任せとけ。俺が……」
おっさんは巨大牛を睨みつけ、殺気を迸らせる。
その両手には、左右四本ずつ、合計八本の投げナイフ。
「本当の攻撃という物を教えてやる」
静かに呟き、おっさんが走り出す。速く。だがあくまで静かに。足音の一つも立てずに、おっさんは一足跳びに巨大牛に肉薄する。
「【ロックオンシュート・ジェノサイド】&【ペネトレイトスロウ】!」
巨大牛の弱点を的確にロックし、八本の投げナイフが同時に放たれる。それは巨大牛の弱点に深々と突き刺さった。
更に投げ終えた瞬間には、おっさんは次のナイフを構えている。
「デカいって事は、それだけ死角が多いってこった」
巨大牛の視界から消え、死角から死角へと次々と飛び移りながら、おっさんはナイフを投擲し続けた。巨大牛の体に無数のナイフが突き刺さる。
更に、おっさんは投げ放ち、巨大牛の体に刺さったナイフを蹴り、その巨体へと更に押し込む。更にナイフの柄を足場にしながら、巨大牛の体を駆け上がる。そうしながら更にナイフを投げる。そして何十本目かのナイフが突き刺さった時、巨大牛の体が痙攣し、その場に倒れ伏した。
「ようやく効いたか。ボスには効果がイマイチだな」
おっさんが投げていたのはただのナイフではない。その刃にはおっさんが調合した麻痺毒が塗られていたのだ。その効果を受け、巨大牛が麻痺状態になった。
そして倒れた巨大牛の体の上で、おっさん二挺の魔導銃剣を構える。
「【バレットカーニバル】!」
無防備なフィールドボスに、無慈悲に放たれる数十発の銃弾の連射。
そして、全弾撃ち尽くして攻撃が終わったと思われた瞬間。
「【ストームラッシュ】!」
素早くリロードを行ない、次なる奥義を発動する。次々と左右の魔導銃剣を振るい、斬り、突き刺し、銃弾を連射し続けるおっさん。
そして、それが終わると同時に、巨大牛がよろよろと立ち上がる。その瞳は怒りに燃え、背中で暴れまわるおっさんを振り落とそうと力を込めようとするが……
「いいか、攻撃ってのはな……やるからには徹底的に、相手に防御も、回避も、反撃も、逃走も、降伏も、命乞いも、何もかもする暇さえ与えずに、相手が死ぬまでひたすら繰す物だ。そうすれば勝てる」
おっさんが、新たな奥義を発動する。
「【マルチウェポンデストロイ】ッ!!」
おっさんが左右の魔導銃剣で、銃弾を乱射する。かと思えば、次の瞬間におっさんは投げナイフを十数本まとめて投げ放ち、それと同時にダイナミックな踵落としを放つ。
おっさんが蹴りを放った瞬間、靴底に仕込まれた刃が踵から飛び出し、巨大牛の体を深く抉った。おっさんの安全靴もまた、暗器として魔改造されていたのだ。これはもはや危険靴である。
更に、おっさんの装備がチェーンソー状の大剣へと変わる。おっさんはそれを巨大牛の背中に叩きつけ、高速回転する刃で斬り裂く。
更におっさんの攻撃は続く。ブルーノを倒した際に奪ったギロチンアックスを叩きつけ、先端が螺旋状になっており、回転するドリル型短槍を二本同時に突き刺し、ショットガン型魔導銃を至近距離からブッ放し、マシンガン型魔導銃を乱射すると同時に、もう片方の手に握った火炎放射機から炎を噴射し、毒々しい色のギザギザした短剣を突き刺し、爆弾を投げ、両の拳で怒涛のラッシュをかけ、使い捨ての射突型ブレードで必殺の一撃を繰り出す。
巨大牛はと言えば、それらの攻撃を受けて再び倒れ、抵抗すらできずにおっさんの攻撃を無防備状態で受け続けるサンドバッグと化していた。
効果時間中、瞬時に次々と武器を切り替えながら多彩な攻撃を繰り出すことのできる奥義。それがこの【マルチウェポンデストロイ】だ。言ってしまえばそれだけの効果しか無く、また様々な武器を一瞬で切り替えながら操る技術が必要なため、非常に使いにくい技である。が、おっさんが使えばご覧の通りであった。
巨大牛が最後の力を振り絞り、立ち上がろうとする。
だが、おっさんはそれすら許さない。
おっさんの手に握られているのは魔導銃剣。だが、それは普段使っている拳銃型の物ではない。大口径の巨大な長銃の先端に、肉厚の巨大な刃が取り付けられた歪な兵器。色は漆黒で、呪術的な紋様が描かれた、見るからに邪悪で凶悪そうな品だ。
『メメント・モリ』。そう銘を刻まれた魔導銃剣。おっさんの切り札の一つ。
「【デッドエンドシュート】」
先端の巨大な刃を突き入れると共に、その銃口から紅い光が迸り、フィールドボスの体を貫通した。
『(^q^)<………………』
おや、システムメッセージの様子が……?
『( ゜д゜)ハッ!失礼しました。フィールドボス、エルダーバイソンが討伐されました』
『討伐貢献度1位【謎のおっさん】さん。2位【アーニャ】さん。3位【ナナ】さん。以上の方々には討伐報酬・初回撃破報酬と共に特別報酬が支給されます』
システムメッセージと共に、それぞれのアイテム・ストレージにアイテムが支給された。それは大量のゴールドであったり、高品質な装備品や生産素材であったりした。
おっさん達はそれを確認する。
そしてその時、おっさんはそれを目にした。
――――――――――――――――――――――――――――――
【伝説の牛肉】
種別 食材
品質 ★×10(伝説級)
エルダーバイソン討伐のMVP報酬であり、最高品質の牛肉。
非常に希少であり、通常の牛肉とは比べ物にならないほどの味。
――――――――――――――――――――――――――――――
おっさんも初めて目にする、★×10、伝説級のアイテムであった。
おっさんは何とかポーカーフェイスを維持しつつ、ナナとアーニャに背を向ける。
「ま、PK共の邪魔さえ無けりゃあこの程度の相手、楽勝ってなモンよ。
お前らもよく頑張ったな。それじゃお疲れさん……」
おっさんはそう言って、その場を立ち去ろうとするが……
「どこへ行こうというのかね?」
「逃がしませんよ~」
ナナとアーニャが、彼の両腕をがっしりと掴んでロックする。二人はとても良い笑顔をしていた。
ちなみに入手したアイテムの情報は、パーティーメンバーには共有される。おっさんが手に入れた物が何であるかは、彼女達には筒抜けであった。
「おいおいアーニャ、俺の腕に胸が当たってるぜ、はしたないから離れなさい」
「当ててるんですよ~」
アーニャが絶対に離さないとばかりに、おっさんの腕に強く抱きつく。
「おいナナ、腕が極まってて痛いだろうが。あとお前も胸が当たって……んのかこれ?わかんねぇな」
「折ってんのよ」
ナナが凄く良い笑顔で腕に力を込める。
「ええい離せお前ら!お前らだって★×9のは入手してんだろうが!」
「絶対に」
「離しませんっ!」
逃げようとするおっさんを、二人がかりで抑えこもうとする少女達。
そして十数分後、結局根負けして二人に伝説級の牛肉を分け与える事になったおっさんであった。
無敵のおっさんにも勝てない物はあった。
「くそっ、勝ったと思うなよ……」
ナナとアーニャを両脇に抱きかかえながら、おっさんはそう呟いた。
やっと終わりました……ホントなんでこんな長くなったんでしょうね、この話。
次回以降はしばらく1話完結の短い話に戻る予定です。
しかし忙しかったり、間が空いたりしたブランクで更に遅くなったりで、大変お待たせして申し訳ありませんでした。
すいません許して下さいシリウスが何でもしますから!
王子「えっ!?」