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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
30/140

10.謎のおっさん、牛を狩る(4)

 PK達が、巨大牛が、怒涛の勢いでおっさんにトドメを刺そうと迫る!おっさんは未だスタン状態で身動きが取れず、それが解除されるよりも、敵がおっさんに最後の攻撃を加えるほうが早い事は明らかであった。

 だが、それを阻止すべくナナとアーニャが動く。


「やらせるかぁ!」


 おっさんを攻撃しようとする大剣使いの一撃を、双剣を交差させて受け止める。

 山賊達はナナとアーニャの奮戦により、また巨大牛の突進に巻き込まれ、その数を大きく減らして潰走を始めていた。残るはPK集団、残り六人とフィールドボスのみだ。


「うぜぇんだよ、雑魚が!」


 PKは一旦距離を取り、大剣を構え直してナナと対峙した。同様に他の五人もナナを包囲し、攻撃の構えを取る。一斉攻撃でナナを素早く排除した後に、おっさんにトドメを刺すつもりなのだ。

 ナナは油断なく双剣を構えて、PK達と対峙した。


「このっ……よくもっ!」


 一方アーニャは、おっさんが自分をかばって危機に陥った事で自己嫌悪に陥りかけていた。だが、今は落ち込んでいる暇などありはしない。

 彼女は悲しみを怒りで塗り潰し、両手で棘付きバットを握りしめると、巨大牛の頭を全力で殴りつけた。それなりのダメージを与えるが、ボスモンスターの膨大なHPに比べると僅かな物だ。

 しかし、その一撃を受けて巨大牛のターゲットが、アーニャへと変わった。

 巨大牛がわずらわしそうに頭を振り、強烈な頭突きで反撃する。アーニャはそれを武器で受け止めるものの、重い攻撃を受けて彼女の体が押し戻される。

 だが、アーニャは怯む事なく即座に無詠唱の回復魔法【インスタントヒール】を使い、HPを回復させた後に、巨大牛を殴り返すのだった。


「チッ……さっさとくたばりやがれ!」


 PK達が焦れったそうに叫びながら、武器を振り回す。

 ナナは【ダッシュ】や【アクロバット】スキルを駆使してそれらを回避しながら、囲まれないように立ち回る。

 幾つか被弾しながらも、隙を見つけて素早く斬りかかり、そして即座に離脱。持ち前の素早さを活かしながら、上手く戦っていた。

 こんな状況でもナナは冷静に、自分の持ち味を活かしていた。

 ナナはPK達と戦いながら、おっさんの言葉を思い出す。


  ◆


『いいかナナ、双剣はとにかくその手数の多さと、それによって生まれる火力が売りだ。だが反面、ひどく扱いが難しいデリケートな武器で、防御力は最低レベル。攻撃だけに集中しすぎると、手痛い反撃を食らうから気をつけな』


 いつだったか、ナナがおっさんに言われた言葉だ。


『でも、敵を素早く倒せれば、受けるダメージも少なくて済むんじゃないの?攻撃は最大の防御って言うじゃん』


 それに対し、ナナはそう返した。おっさんは苦笑しながら、


『確かにそれも真理ではある……だが、大勢の敵に囲まれたり、敵がとんでもなく攻撃力の高いボスだったならどうだ?ノーガードで殴り合って勝てると思うかい?』


『むー……じゃあ、どうすればいいのさ?』


『お前の最大の長所……つまり、スピードを活かせばいいのさ。速さで攪乱して、冷静に敵の隙を作れ。そして、隙を見つけたら素早く懐に入り、素早く攻撃して、そして素早く離れる』


『素早いって事は、つまり安全に攻撃できるチャンスを多く作れるって事だ。馬鹿正直に正面から殴り合ったり、闇雲に連続で攻撃する事にこだわったり、欲張って一発の威力に頼る必要はねぇのさ』


 おっさんはそう言ってニヤリと笑い、人差し指を立てる。


『よく覚えとけよナナ。頭は常にクールに……』


 そして、その指でナナの額を軽く突っつく。


『そして、ハートは常に熱く、だ』


 次に、その指でナナの心臓……つまり、慎ましやかな左胸を軽く突っついた。


『って、こらー!セクハラオヤジ!』


『ガハハ、悪い悪い。それはそうとナナ、早速頭がクールじゃなくなってんぞ!ほれ、そういう時は深呼吸でもして一旦クールダウンするこった』


 顔を真っ赤にして、ナナがぶんぶんと拳を振り回す。

 おっさんはそれを避け、逃げながらゲラゲラと笑うのだった。


  ◆


(オーケー、頭はクールだ。敵の動きはバッチリ見えてる)


 油断なく構え、軽快なステップを踏みながら、ナナは呼吸を整える。こんな状況でも、彼女は冷静に、少しずつ、だが確実に敵にダメージを与え続けていた。

 反面、PK達は焦っていた。早くしないとおっさんが復活する。そのため、ただでさえ雑な攻撃はより大振りになり

 おっさんが有力なPKを始末していた事も大きい。カインやブルーノを相手にするのは、ナナにはまだ厳しかっただろう。


(欲張るな。安全第一。一発の威力には頼らない。冷静に、自分の持ち味を活かして戦うんだ。チャンスは必ず来る。今はとにかく速く。もっと、もっと速く!)


 双剣を構え、ナナは荒野を駆ける。


  ◆


「はぁっ……はぁっ……!」


 肩で息をしながら、アーニャは棘バットを振るい続けた。

 巨大牛は疲労もダメージも感じていないかのように走り回り、突進を繰り返す。その動きは単純ながら、巨体とスピード、その両方を兼ね備えているため意外と回避が難しい。

 直撃を避け、回復魔法も駆使しながら、なんとかアーニャは耐えていた。


「うぁっ……!」


 巨大牛が大きく前足を持ち上げ、叩きつけるように振り下ろす。巨大モンスター特有の攻撃アーツ、【ストンプ】だ。

 アーニャは何とかガードしながら後ろに跳ぶが、発生した衝撃波によって吹き飛ばされた。それだけでアーニャのHPがごっそりと減る。


「ふぇぇ……うぅ……負けません……っ!」


 泣きそうになるのを堪え、折れそうな心を奮い立たせて叫ぶ。鈍器を構え、回復魔法を唱え、MPポーションを使う。

 アーニャは気が弱く、内向的な少女だ。だが彼女の芯は外見からは想像できないほどに強い。一度戦うと決めた以上、どんな強敵が相手だろうと退くつもりはなかった。


(正面から戦ったんじゃ勝てない……何とか突破口を見つけないと……)


 鈍器を正眼に構え、アーニャは目を凝らして、フィールドボスの動きを観察する。


(敵の動きをよく見極めて、反撃する……!)


 そうしながらアーニャもまた、おっさんの言葉を思い出す。


  ◆


『アーニャ、お前は回復や支援魔法を使う後衛だが、盾役や、鈍器を使うアタッカーとしての仕事もそれなりにこなせるオールラウンダーだ。取れる選択肢が多い分、どう立ち回るか……判断力が要求される』


『判断力、ですか?』


『おうよ。出来る事が多いのは良い事だが、お前の体は一つしかねぇからな。攻撃に防御に回復に、全部同時には出来ねぇだろう?だから、今この時に何を優先して動くべきかをしっかり判断する必要がある』


 おっさんの言葉に、アーニャが頷く。


『仲間がピンチなら回復や防御を優先、逆に盾役や回復が間に合ってるようなら攻撃優先、っていう感じに考えればいいでしょうか』


『大雑把に言や、そんな所だな。そういった判断力を養うためには……とにかく落ち着いて、戦場全体をよく観察するこった。敵の動き、味方の状態、そういったあらゆる情報を見逃さずに、臨機応変に対応する事を忘れるなよ』


  ◆


(落ち着いて、相手の動きをよく見て……)


 これまでに巨大牛の動きは散々見てきた。冷静になって思い返してみると、サイズやステータスこそ違うものの、基本的な動き方は普通の暴れ牛と共通する部分も多い。


 生半可な攻撃は効かない。ナナやおっさんのように連続で何度も攻撃を当てられるような技術はアーニャには無い。

 ならばどうするか。


「最高のタイミングで、最高の一撃を当てる……それに賭ける!」


 そう決意して、アーニャは棘バットを両手で握り、上段に構えた。


  ◆


「しつけぇんだよォ!雑魚があああああああッ!」


 素早く駆け回り、PK達を翻弄するナナに対し、焦れたPK達が襲いかかる。防御を捨て、攻撃に特化した構えを取り、それぞれの最も得意とするアーツを発動させる。


 だが、焦りゆえか大振りの攻撃。今のナナにとって、そんな攻撃を避けるのは容易い事だ。槍を、双剣を、刀を、斧を、ハンマーを、大剣を、次々と回避するナナ。


「今だ!」


 そして、最大のチャンスが訪れる。

 PK達は隙だらけだ。

 ナナは彼らに向かって、両手の剣を構える。


 ――やられた。これで一人は殺られる。

 PK達はそう考えた。

 だが、それは間違いである。


 ナナが装備する、特殊な形状の双剣。それはおっさんが作った特別製の双剣である事は先に述べた通りである。

 ところで……果たしてあのおっさんが、何の仕掛けも無い、ごく普通の双剣などを作るだろうか?

 賢明な読者の皆様型ならば既にお気づきであるかもしれないが……答えは否である。おっさんは、とある秘密の機能をこの双剣に内蔵させていた。


 ナナはそれを発動させるべく、柄に内蔵されたスイッチを押す。


 ナナの装備している双剣は、柄と篭手が一体になっており、その先から一本の刃がまっすぐに突き出している形状の剣だ。

 その、まっすぐに突き出した刃の左右から、斜め前に向かって更に二本、追加で刃が出現する。篭手に内蔵されていた隠し刃だ。


「ターゲット、ロック……行っけぇぇぇ!」


 更に左右三本ずつ、合計六本の刃が……一斉に、勢いよく射出される。飛び出した刃は六人のPK達に対してそれぞれ一本ずつ飛んで行く。


「なんだそのトンデモ兵器はぁ!?」


 かろうじて飛来した刃を弾き返した大剣使いがそう叫ぶ。

 ちなみにそのトンデモ兵器の詳細は以下の通りである。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【ケルベロスツインズ】


 種別 双剣/暗器/魔導兵器

 品質 ★×9(神器級)

 素材 軽鉄

 製作者 謎のおっさん


 攻撃力+36 AGI+20


 魔導鍛冶によって製作された、機械仕掛けの双剣。

 二本の隠し刃が内蔵されており、暗器としての側面も持つ。

 また刃を高速で射出させる事で、高威力の遠距離攻撃が可能。

 誘導機能付きで、六体まで同時に攻撃する事が可能だ。

 この攻撃は一度使用したら、再使用までには少し時間がかかる。

――――――――――――――――――――――――――――――


 六本の刃が、まるで時間を巻き戻したかのように、ナナの手元に戻っていく。よく見てみれば、それぞれの刃の根元からワイヤーロープが篭手から伸びている。それを巻き戻したのだ。

 そして、刃を戻すと同時にナナは動き出していた。稲妻の如く素早く大剣使いの懐に飛び込むナナ。その手に装着された篭手へと、六本の刃が再び収まる。


「速い……!」


 驚愕しつつも迎え撃つPK。ナナの攻撃に合わせて大剣を振るう。

 だがナナはアーツを発動し、双剣を交差させての斬撃で弾き返す。

 更に、彼女はその中で強引に体を動かし、追撃せんとする。


「これで終わりよ!【風神乱舞】!」


 更に加速しながら繰り出す、追撃の奥義。風を纏いながら、左右の剣が目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り返す。

 それが止まった時、既にPKはHPを全て失い、消滅していた。


『【マルチアクション】スキルの習得条件を満たしました』

『【ダッシュ】スキルの進化条件を満たしました』


 表示されたシステムメッセージを横目で見ながら、ナナは勝利を実感し、静かにガッツポーズを取った。



  ◆



 アーニャはただひたすらに待ち続けた。

 何を?おっさんやナナ、あるいは他の誰かが助けに来てくれるのをか?

 断じて否である。

 彼女が待っているのは、目の前で好き勝手に暴れ回っている畜生の頭に、最高の一撃をくれてやるチャンス以外にない。


 その時間は十秒にも満たない短い時間ではあったが、彼女にとってはその何十倍もの時間に感じられた。一撃でも直撃を喰らえば死。その状況下でも、ひたすら冷静に相手の動きを見極めようとする。

 そして、遂にその時は訪れた。


 巨大牛が大きく前足を振り上げる。【ストンプ】の予備動作だ。

 そして、そのまま巨大牛はその太い足を地面に叩きつけようとする。


「【ホーリーフェザー】!」


 だがその前に、アーニャの神聖魔法が先に発動。彼女の背中に光の翼が出現し、空に浮かぶ。短時間だが空中に浮かび、一定の高さまでならば空を飛ぶ事も可能になる魔法だ。


 空中に退避しながら、アーニャは両手に力を込める。

 そして、巨大牛の頭に向かって飛びながら、タイミングを測る。


 巨大牛のアーツ【ストンプ】が発動。前足が地面に叩きつけられ、地面が揺れると共に衝撃波が発生する。

 その発動と同時に、アーニャは真上から巨大牛の頭を殴りつけた。


 更に、アーニャの棘バットもナナの双剣同様に、おっさん特製の品。当然ながら隠された機能が搭載されている。

 アーニャの一撃と共に、それが発動した。

 炎鉄製のバットが、ますます赤く濃い色へと変化していく。柄に埋め込まれた魔石が光り輝き、機関部が唸りを上げる。

 赤熱し、燃え上がるバットをアーニャが叩きつけると、その部分に爆発が起きる。

 凄まじい音と共に、巨大牛の角が爆発で根元からへし折れた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【爆殺釘バット】


 種別 鈍器/魔導兵器

 品質 ★×9(神器級)

 素材 炎鉄

 製作者 謎のおっさん


 攻撃力+70 火属性の追加ダメージLv5


 炎鉄製の、赤い金属バット状の鈍器。

 片手・両手どちらでも使え、とても扱いやすい。

 棘による刺突や、火属性の追加ダメージによる攻撃力の高さが魅力。

 また、殴打と共に爆発を起こす必殺の機能も搭載。

 ただし一度使用すると冷却のため、ある程度時間を置く必要がある。

――――――――――――――――――――――――――――――


 ネーミングセンスは兎も角、これもまた凄まじい性能の武器だった。


 完璧なタイミングでのカウンター。弱点属性である火属性の攻撃。更に弱点である頭への攻撃に加えて角の部位破壊。

 それらを受け、巨大牛の巨体がゆっくりと倒れる。


 その頭の上にはヒヨコがくるくると回っているエフェクト。

 スタン状態だ。


 【ホーリーフェザー】の効果が消え、アーニャが地面へと降り立つ。


『【カウンター】スキルの習得条件を満たしました』

『ボスモンスターの部位破壊に成功しました。特別報酬が支給されます』


 システムメッセージを確認しつつ、アーニャは手にした鈍器を、倒れた巨大牛へと向けて、


「これで……借りは返しました!」


 そう、高らかに宣言するのだった。


  ◆


 そして、そこから少し離れた所で。

 おっさんが立ち上がり、ポーションを取り出して、喉へと流し込む。

 くそ不味いが、効果は抜群の回復薬――エリクサーだ。

 飲み終わると、おっさんは顔をしかめる。そして煙草を一本取り出し、火をつける。


「フー……やるじゃねぇか、あいつら」


 自分が戦線復帰するまでに持ちこたえるくらいなら、出来るだろうとおっさんは信じていた。

 だが、彼女達は彼の期待を上回るほどの活躍を見せた。

 彼女達の輝きを目にして、思わずおっさんの頬が緩む。


「もしかしたら、このままあの牛、倒しちまうかもなァ」


 思わずそう口にする。

 それはそれで面白そうだ。ぜひ見てみたいとも思う。

 しかし、おっさんはそれを却下する。


「が、やられっぱなしは性に合わねぇし……何より小娘どもだけに格好良い真似させて、寝てたんじゃ男が廃るってなモンだ」


 装備品や消耗品、弾丸の類をチェックし、所定の場所に収める。

 それからおっさんは、咥えた煙草を吐き捨て、遠くにいる巨大牛を睨む。

 どうやら、ちょうど起き上がった所のようだ。

 PK達との戦いを終えたナナもアーニャと合流し、二人で戦っている。


「それじゃ、おっさんも本気出すとしますかね……!」


 そう呟いて、おっさんが駆け出した。


(続く)

熱が40度を超えて一度は死を覚悟しました。皆様もインフルエンザにはご注意を……


というわけで遅くなって&またまた分割ですみません。次で終わります。

あと今回女の子達が活躍してくれてピンチは終わったので、後はおっさん&二人娘によるフィールドボス処刑大会で終わりです。多分。


(2014/3/5 誤字など修正)

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