7.謎のおっさん、牛を狩る(1)
おっさんは冒険の準備を終えて作業場を出ると、待ち合わせていたフレンド――ナナとアーニャの二人娘と合流した。
ナナは露出度が高く、動きやすそうなカウガール風の衣装に、アーニャは体にぴったりとフィットした黒いシスター服に着替えていた。変態裁縫師の作品だ。
三人はパーティーを組むと、それぞれの乗り物に乗って荒野へと向かった。
おっさんが乗るのは超高性能なオリハルコン製魔導バイク、グリンブルスティ。
ナナとアーニャは、おっさんとその仲間達が開発・生産した、廉価版の魔導スクーターに乗っていた。小型でスピードはそれほどでもないが小回りが効き、コストパフォーマンスに優れた品だ。カラーはナナが乗るスクーターは水色、アーニャの物は桃色だ。
おっさんは二人に合わせてスピードを調節しながら走る。
三人は横一列に並びながら、狩場を目指した。
「おう、ところで最近の調子はどうだい」
道中の暇潰しにおっさんが尋ねると、ナナは待ってましたとばかりに平坦な胸を張って答えた。
「ふふーん、なんと二人で中級ダンジョンをクリアしちゃったわよ。それから、あたしの双剣スキルが【双迅剣】に進化したわ!」
「私は鈍器スキルが【豪打】に、回復魔法が【治癒魔法】に進化しました」
ナナの双剣スキルはよりスピードと手数に特化したスキルに進化し、アーニャの鈍器スキルは一撃の威力を重視した進化だ。回復魔法→治癒魔法は順当に上位互換となる。
「いいねぇ。なかなか頑張ってんじゃねぇか」
「そう言うおっちゃんは?」
満足そうに笑うおっさんにナナが聞き返す。
「俺か?前に会った時から変わったのは……まず生産だが【調合】を新規習得して、料理が【上級料理】、商売が【豪商】に進化したな。それから戦闘関連は……【投擲】と【暗殺】を覚えて、【剣】を覚えて【両手剣】に進化させたな。後は格闘が【CQC】になって、ダッシュとアクロバットが【軽業】に統合進化、隠密が【密偵】に進化したぜ。色々覚えたはいいが、スキル枠の拡張に必要な経験値もガンガン増えて困ったもんだ」
「お、おぉぅ……流石おっちゃん……」
「元々持ってたの、ほとんど二次スキルに進化してるじゃないですか……」
おっさんの進化具合に驚き、まだまだ追いつくには遠いと感じた二人だった。
普段、街にいる時はダラダラと適当に過ごしているように見えるおっさんだが、スキル上げや経験値稼ぎなど、やる事はしっかりとやっているのだ。
◆
果てしなく広がる荒野は、幾つかのエリアに分かれている。
現在、前線で戦うプレイヤー達は第三エリアの探索に着手している所だ。
ちなみに、おっさんとカズヤの二人は既に第五エリアまで手を伸ばしていたりするのだが、それを知るのは極一部のプレイヤーのみである。
さて、三人が今回やってきたのは第三エリアだ。
荒野においては貴重な水源である河が流れ、その河のほとりには当然ながら集落が出来ており、NPCの村人達が生活をしていた。
周辺にはわずかながら草木が生え、麦や野菜を植えた畑も見つけられた。
そんな、荒野では恵まれた環境にある村であったが、そこに住まう民たちは様々な悩みを抱えていた。
水や食糧を狙う盗賊たちの襲撃。
それから、荒野に棲息する魔物による襲撃だ。
村人NPCと話をしてみれば、そういった悩みを打ち明けられると共に、それらを撃退・討伐するクエストを受注する事が可能である。
貧しい村のため報酬は決して多くはないが、そのぶん経験値や名声値は多めに得る事ができる。
三人は魔物の討伐クエストを請け負った。
クエストの内容は以下の通りである。
――――――――――――――――――――――――――――
【暴れ牛の討伐】
最近、凶暴な牛型モンスターの数が増えてきている。
村人や家畜が襲われたり、畑が荒らされて困っている。
どうか奴らを退治して貰いたい。
依頼内容
牛型モンスターの討伐
報酬
討伐数により変化
――――――――――――――――――――――――――――
村から少し進むと、暴れ牛が棲息するエリアへと辿り着いた。
茶色い毛の、大きく湾曲した巨大な角が特徴的な、巨大な牛型モンスターがフィールドを闊歩している。
体が大きく、攻撃力・防御力ともに高いが知能は低く、動きは短調だ。スピードの乗った突進には注意が必要だが、落ち着いて対処すれば問題ない敵だ。
(行くぞ)
おっさんは口に出さずに、ハンドサインで合図をする。それに頷くナナとアーニャ。三人は【ハイディング】と【スニーキング】を発動し、敵から姿を隠すと共に足音を消した。
その状態で素早く暴れ牛へと近づいていく。
最初に手を出したのはナナだ。
暴れ牛の背後で双剣のアーツを発動。無防備な背中へと向けて、両手の剣を突き出した。それと同時に、ハイディングの効果によって隠れていた彼女が姿をあらわす。
ナナの使用する双剣は、以前の物とは形状・性能共に大きく異なっていた。それは柄とナックルガードが一体化され、拳の先から真っ直ぐに刃が伸びている。それが左右一対。
ジャマダハルと呼ばれる特殊な形状の剣を元に、おっさんが作り上げた新たな双剣だ。
勿論ただのジャマダハル風の双剣ではない。色々と新機能が盛り込まれているが、今はまだそれを語るべきではないだろう。
強烈な刺突攻撃を背後から受けて、暴れ牛は怒ってナナの方へと振り向こうとする。そうして暴れ牛が体を回転させようとした瞬間。
まさに今振り向こうとした方向から、突然の衝撃。
先回りしていたアーニャが、暴れ牛の頭に両手で握った鈍器を叩きつけたのだ。
自慢の角をへし折られ、暴れ牛は大きく仰け反る。
彼女の使う鈍器もまた、おっさんの新作だ。炎鉄を素材に作られた、真紅の鈍器。その形状は野球やソフトボールで使うバットそのものである。
ただ一点、随所に棘が生えている事を除けばごく普通の金属バットであった。
軽くて扱いやすく、片手・両手どちらでも使える。打撃は勿論、棘による刺突ダメージ、炎鉄製ゆえの火属性の追加ダメージまで狙える逸品だ。
そして最後の一人、おっさんも今まさに暴れ牛に襲いかかろうとしていた。
どこから行くのか。側面か。はたまた背後か。
どちらも否である。上から来るぞ、気をつけろ!
おっさんは高く跳び上がり、暴れ牛の背中に向かって急降下する。
おっさんの手に握られているのは両手剣だ。
それもただの両手剣ではない。柄と刃の間に嵌め込まれた魔石エンジン。柄から剣先まで全て機械製であり、刀身はチェーン状に繋がれた小さな刃が高速で回転し、ギュィィィィィィィィン……と音を立てていた。
試作型チェーンソーブレード。
それがおっさんが使っている武器の名称だ。
おっさんは暴れ牛の背中へと降下すると、その高速回転する刃を垂直に叩きつけた。
「オラァ!真っ二つだ!」
両手剣のアーツ【バイセクション】が発動し、チェーンソー状の巨大な刃が振り下ろされた。それは暴れ牛の巨体をおっさんの宣言通り、真っ二つに切り裂いたのだった。
その後も彼らは、順調に暴れ牛を狩っていった。それなりの強さを持つモンスターではあるが、連携の取れたパーティーならば容易に倒せる程度の相手である。彼らの敵ではなかった。
だが、ナナやアーニャ、そしておっさんも気付いてはいなかった。
彼らの前に、大きな危機が迫りつつある事を……。
(続く)
お久しぶりです。
多忙で執筆時間がなかなか取れず、間が空きました。
更に何日か全く時間が取れなかった時期があり、久しぶりに書こうとしたらなんだかスランプ気味でして(苦笑)
そんなわけでリハビリも兼ねてオーソドックス?な狩り話でした。
多分2~3分割。




