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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
22/140

3.謎のおっさん、新人を迎える

 VRMMORPG「アルカディア」。

 これまで千人のβテスターと、初回生産ソフトウェアを入手できたプレイヤー一万人によってプレイされてきたこのゲームは、本日めでたく第二次生産分が発売され、新たに二万人のプレイヤーを迎え入れた。


 それに先駆けて、新規プレイヤーの為にゲームを紹介する目的でプロモーションビデオが用意され、数日前に公式サイトに掲載された。肝心のその内容だが、前半は様々な武器を使うプレイヤー達がそれぞれに戦う様子が、次々と切り替わっていく。

 その中には盾でボスの攻撃を受け止め、魔剣を振るって反撃するシリウス、召喚魔法で敵を足止めし、大魔法で広範囲を焼き払うエンジェ、テイミングしたモンスターと共に駆け、魔法剣の二刀流で敵の群れを薙ぎ倒すカズヤ、多数のPKを大鎌を振り回して斬殺するレッドといった、トッププレイヤー達の姿があった。

 まるでアクションゲームのようなド派手な動きで戦い、敵を蹴散らす彼らの姿が、見る者達を興奮させる内容だ。


 そして後半は職人たちの出番だ。

 鍛冶や裁縫、木工に料理、調合に魔法工学……職人PCが苦心して作り出したレシピと技術。それを用いて彼らが商品を生み出す場面が流れた。


 おっさんの出番はその終盤だった。

 黄金に輝くオリハルコンのバイクを乗りこなし、猛スピードで荒野を駆けるツナギ姿のナイスミドル。彼は左手で器用にバイクを操作しながら、右手で銃剣の付いた、黒い雷を纏った大型拳銃から銃弾を次々とブッ放して敵を薙ぎ倒していく。

 突然世界観が変わって何事かとビビる視聴者たち。主に新規組。

 更にその時に画面に流れるアオリ文が、


「君の発想と工夫で作り出せる、オンリーワンのアイテムや戦術!」

「君のアイディアが新たな力になる!究極の自由度を体感せよ!」


 といったもので、既存プレイヤー達は「おっさんの発想が相変わらずおかしいww」「究極の自由……つまりおっさんの事ですねわかります」「運営絶対狙っただろwww」と笑いながら動画にコメントを書き込んでいった。

 よく訓練された先行プレイヤー達は、早くもおっさんの奇行に慣れつつある。


 その一方で新規プレイヤーの反応は、おっさんの使う装備や彼の動きにドン引きする者、笑い転げる者、彼の作り出したアイテムを見て目を輝かせる者、対抗意識を燃やす者、混乱し恐怖してオッサン・リアリティ・ショックを発症する者と様々だった。



  ◆



 さて、という訳で本日、めでたく二万人のご新規さん達がアルカディアへと降り立った。始まりの町である城塞都市ダナン、特に中央広場付近は新規プレイヤーの群れでたいへん混雑していた。彼らの多くは物珍しそうに街並みを眺めたり、慣れない手つきでシステムウィンドウを操作したりしている。そんな初々しい姿を見て、ほっこりする先行プレイヤー達の姿もちらほらとあった。


 今回はそんな新規プレイヤーの中から、一人の少女に注目してみよう。その少女は髪は薄い茶色の髪で、髪型はポニーテール。やや小柄な活発そうな少女だ。

 服装は、胸にさらしを巻き、その上から半袖の革のベストを着用しており、へそがチラリと見えている格好だ。下半身は厚手の革ズボンにブーツを履き、手には作業用の革手袋をはめている。

 腰のベルトには工具の入ったポーチを下げており、背中に大きなハンマーを背負っている。そのような服装や持ち物を見れば、彼女が生産職人を志している事が見てとれるだろう。事実、彼女は初期スキルとして【鍛冶】や【魔法工学】といった生産スキルをメインに習得していた。


 ユウは女性ながら、子供の頃から機械いじりや物づくりが好きだった。そんな彼女は自由度が極めて高く、アイディアと技術次第で様々な一品物のアイテムを作りだせるこのゲームに惹かれ、そして先日ようやくソフトを入手できたのだ。

 彼女はリアルな町並みや、現実の肉体とほとんど変わらず動かせるアバターに感動しつつ、わくわくしながら作業場へと向かう。


「よーし、頑張って凄い剣とか作っちゃうぞー!」


 今回、新規プレイヤーが大勢増えるという事でアップデートが行なわれ、作業場も増築された。それによってより多くの職人を収容できるようになったその建物の前に、ユウは立っていた

 多少出遅れはしたが、必ず職人としてトッププレイヤーに登り詰めてやる。気合を入れながらそう決意し、彼女は作業場の扉をゆっくりと開いてゆく。

 ここから彼女の、輝かしい職人人生が幕を開け――


「ガハハ、どうだ!遂に完成したぜ、この【魔力弾カートリッジ】がなぁ!こいつは従来の弾丸とは異なり、魔力の塊を魔導銃から発射できるようになるシロモノよ。これで物理が効きにくい敵にも問題無く戦えるっつー寸法だぁ!」

「おおっ!って事は、遂に念願のビームライフルが作れるんだな!」

「ヒューッ!さっすがおっさんだぜ!俺たちに作れない物を平然と作り上げやがる!」

「そこにシビれる!」

「あこがれるゥ!」


 扉を開けたユウが目にした物は、メカメカしい形状のライフルを持ってはしゃぐおっさんと、彼を囲んで囃し立てる職人達の姿であった。

 おっさんはそのライフルを構えると、壁に立てかけてあった的に向けて引鉄を引く。すると、銃口からは青白い魔力の塊が次々と発射され、狙い違わず的に命中する。


「そして驚くのはまだ早ぇ!こいつを……こうだ!」

「「「「「おおっ!?」」」」」


 おっさんが素早くライフルを振るう。

 すると「ジャキンッ!」という音と共に、ライフルの銃身が真ん中から折り畳まれた。そして、短くなった銃身の先から「ブオンッ……」と効果音と共に光線が伸びる。

 その光は1メートル程も伸びると、細長い刀身の形を成した。


「見たか、これぞ試作型の第二世代魔導銃剣!これまでの銃に銃剣くっ付けただけの物と違って、銃モードと剣モードを自由に切り替え可能になったんだぜ」

「びびび、ビームサーベルだぁー!」

「キタ━━(゜∀゜)━━!!!」

「浪漫武器きたわぁ」

「これは売れる!」


 それを見て職人達が大騒ぎする。

 だがおっさんは今ひとつ納得いっていない様子だ。


「とは言え変形に時間がかかるし、どうしても現状の技術じゃ大型化せざるを得ねぇ。おまけにまだ未完成の技術だからな、威力がイマイチだし魔力効率も悪くて消費が激しい。つまりコスパが悪すぎて、まだまだ実用にゃ程遠いがな」


「いやいや、しかし改良の余地は十分あるだろう?」

「魔力効率を改善できれば、防御力の高い相手にはかなり有効だろうな」

「何よりビーム兵器には浪漫がある」

「この魔導ジェネレータ、出力は維持したまま小型化できないか」

「魔力伝達路を並列化する事で効率を……」


 新作のビーム兵器を囲んで話し合う職人達。

 彼らは以前おっさんと共に魔導バイクを作成した魔法工学者マジッククラフター達だ。彼らもまた、おっさんに負けず劣らず珍妙な新兵器の開発に余念がない立派な変態技術者たちだ。


「次は俺の番だな!クロスボウに連射機構を取り付けてみたぜ。更に薬液を事前にセットしておく事で、装填されたボルトに自動的に薬が塗られるって寸法よ!攻撃力は低いが、毒矢や麻痺矢を連射できるのは便利だぜぇ?」

「なら俺はこいつだ!見て貰おうか、この突撃銃アサルトライフルタイプの魔導銃を!これまでに無い速度で銃弾を連射できるぜ!命中精度が少々アレだけどな!」

「おっと、驚くのは俺の新作を見てからにしてもらおうか……」


 様々な武器防具を取り出しながら、意見を出し合う職人達。時に罵り合い、時にお互いを褒め称えながら、彼らは出し合った意見を元に、更なる魔改造を行なっていく。


「やだ……何これ……」


 そんな彼ら見て、ユウは一歩目にして早くも心が折れかけた。職人トッププレイヤーへの道は、長く険しく、そして狂気に満ちている。

 頑張れユウ。負けるなユウ。彼女の明日はどっちだ。


2017/6/22 加筆修正

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