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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第二部 おっさん荒野を駆ける
20/140

1.謎のおっさん、準備をする

 カズヤと共にダンジョン【火霊窟】をクリアしたおっさんは、それにより新たに開放されたエリア、大陸西部エリアへと転送された。そこは、一面に広がる荒野であった。

 まず最初におっさんは片手でウィンドウを操作し、ミニマップを開いた。

 既存フィールドとはどうやら繋がっているようで、どうやらこの荒野は山道フィールドの先、山を越えた所にあるようだ。

 おっさん達が新エリアを解放した事によって、山道フィールドの行き止まりだった箇所が通れるようになって、この荒野エリアと繋がったようだ。

 それにしても山の向こう側、大陸中央部は肥沃な草原だというのに、山を一つ越えたらご覧の有様である。そこに少し不自然なものを感じながら、おっさんは荒野を探索すべく歩き出した。


 少し歩くと、おっさんは付近に集落を見つけた。大きさは、村としてならばそれなりの規模だ。

 NPCに話を聞くと、どうやらここは荒野の開拓民たちが拓いた村との事で、彼らはここを拠点に荒野を開拓し、その向こう側を目指しているらしい。

 しかし荒野は広く、過酷な環境と強力な魔物のせいで、開拓は遅々として進んでいないようだ。


「ところで、乗り物とかは無ぇのかい?」


 おっさんはNPCに尋ねた。

 村の中には大型の陸生鳥やラクダの姿が見つけられた。恐らく、広い荒野を探索するために使われているのだろうと考えたのだ。


「すまないが我々が所持している騎乗動物の数には限りがあるのでな……自分で捕まえるか、あるいは貴方が我々の開拓にとって有益な存在だと証明できるならば、譲って貰えるかもしれないな」


 ふむ、とおっさんは暫し考え込む。

 この騎乗動物たちは、【テイミング】スキルを持つ者ならば野生のものを自ら捕まえて入手可能なのだろう。そうでなければ、NPCから購入する事もできるようだ。

 ただしNPCから購入する場合は条件として、彼らの発行するクエストを遂行する等して信頼を得なければならないのだろう、とおっさんは推測する。

 その為には、しばらくの間はここに留まって、クエストを行なう必要がありそうだ。


「ありがとよ。参考になったぜ」


 そこまで考えると、おっさんは情報量としてNPCに幾ばくかのゴールドを渡して、その場を立ち去った。


 クエストを行ない、フラグを立てて攻略を進める。

 ごく一般的なRPGの攻略方法であり、普通のプレイヤーはそれに従って、この村の周辺でクエストを行なうのだろう。

 だが、おっさんはそんな事をするつもりは無かった。


 おっさんは拘束・強制される事を何より嫌う。

 やりたくもない面倒なクエストをやらされるのは御免蒙るというわけだ。勿論、気が向けばその限りではないが、今はそういう気分ではなかった。

 そういうのは、やりたい奴が好きにやればいい。おっさんは一人で好き勝手に狩りや生産をするのが好きなのだ。


「プレイヤー共の相手だけでも面倒臭ぇってのにな……」


 目の前で困っている奴が居れば助けるくらいはするが、わざわざ人助けをするほどお人好しではない。最近は妙に他人とつるんだり、助けたりする機会が多かったが、おっさんは割とドライな性格だ。

 対プレイヤーでもそうなので、NPCの信頼を得るために労力を割くつもりなど欠片もなかった。このゲームのNPCは優秀なAIを搭載しているらしく、まるで本物の人間のような反応をするが、おっさんはさほど彼らに興味は無い。

 中には彼らを本物の人間のように扱い、誠実に接する者も居るだろう。


(だが、それはそうしたい奴がそうすればいいだけの話だ)


 あくまで主役はPCであり、NPCはゲームを円滑に進める為の脇役に過ぎない。ゆえに関わるのは最低限でいいし、NPCの都合に付き合って俺の自由なゲームプレイが妨げられるべきではない。

 やや極論ではあるが、おっさんはそのように考えていた。もう皆様ご存知であろうが、つくづく主人公らしからぬ性格の持ち主である。


「さて、それならどうするか……」


 この時点でNPCから乗り物を購入する方針は無しだ。

 では【テイミング】スキルを習得して自ら捕まえるか?


「ありえねえな」


 おっさんは即座にその考えを切って捨てる。

 おっさんは決してテイミングが使えないスキルだとは思っていないが、その場を乗り切るのに必要だからと言って、取りたくもないスキルを取らされるのはますます御免だった。仮にテイミングスキルを習得するとしても、それは興味が沸いた時だ。


 ならばどうするべきか。

 決まっている。今まで通りにすればいいだけの事だ。

 既存の方法で駄目ならば、自ら新しい方法を作り出せば良いのだ。


 おっさんはアイテムストレージから転移の羽……一度行った事のある場所にテレポートする消耗品を取り出し、城塞都市ダナンへと転移した。


 ダナン中央広場へと転移したおっさんは、そこから馴染みの作業場へと足を向けた。

 前線で戦うプレイヤー達は今頃、新たに実装されたフィールドを探して歩き回っているが、職人PC達は相変わらずこの作業場に篭って生産を行なっている。

 おっさんは作業場に入ると素材アイテムを取り出し、魔導工学スキルを使用する。


 取り出した素材は、まずは先程、火霊窟にて入手したオリハルコンに、軽鉄ライトメタル、ミスリル等の軽くて頑丈な金属。

 そして【神魔石】という名の高級な魔石。イフリートのドロップアイテムだ。


「おっさん、また新しい武器でも作るのかい?」

「うおっ、オリハルコンじゃねぇか!また神器を作る気か?」


 おっさんが取り出した高級素材の山を見て、目敏い職人PC達が群がってきた。


「いいや、今回作るのは武器じゃねえ。ちょっと待ってろ」


 そう言って、おっさんは紙と筆記具を取り出して、スラスラと図面を描いていった。完成したそれを、おっさんは集まった職人達に見えるように掲げる。


「待たせたな。こいつを作る」


 職人PC達はその図面を見て、驚いた様子を見せた。


「……ちょっと待て、出来んのかこれ」

「その発想は無かったわー」

「やってみないと何とも言えないけど……」


 口々に言う職人達。それに対しておっさんは言った。


「だが完成して、量産できればコイツは売れるぜ。つーわけで手伝えお前ら。代わりに終わったらこの図面をくれてやる」


「「「乗った」」」


 即座に了承する職人達。彼らとて新たな技術の獲得と商売のチャンスを逃すつもりは無かった。おっさんが言わずとも、話を聞いた時点で手伝う気満々だった。


「オリハルコン外装とエンジンは俺がやらぁ。お前らは細かい部品を頼む」

「うっし、じゃあ俺ライトメタルで駆動系作るわ」

「サスペンションと操作系と足回りは俺が」

「おっさん、これこの間完成したミスリル製の部品なんだが使ってみるか?」


 彼らはお互いにアイディアを出し合いながら、分担して作業を行なった。

 大掛かりな作業に、何事かと他の魔法工学者たちも集まってくる。彼らの中にはトッププレイヤーであり、優れた技術者であるおっさんを慕う者も多い。

 彼らはおっさん達が作り出そうとしている物を聞くと、すぐさま飛びついてきた。それほどに、おっさんが作り出そうとしている物は魅力的だった。


「こいつはやばいぜ……完成したら世界が変わるな!」

「ああ……産業革命だ!」


 そして、いよいよそれは完成した。


 まず目を引くのは輝くオリハルコンの外装。チェーンやホイールには軽く頑丈なライトメタルを使用。内部機構には神魔石とミスリルを贅沢に使用し、凄まじい馬力を生み出す。

 木巨人トレントの樹脂を使って作られたスパイクタイヤもあり、広大な荒野だろうと問題なく踏破できるほどのパワーを持った逸品だ。


 おっさん達が作り出した物は、一台のバイクであった。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【グリンブルスティ】


 種別 乗り物(魔導バイク)

 品質 ★×9(神器級)

 素材 オリハルコン他

 製作者 謎のおっさん


 【解説】

 黄金に輝くオリハルコン製の大型魔導バイク。

 圧倒的なパワーとスピードを持つ。

――――――――――――――――――――――――――――――


 北欧神話における神の乗り物であり、どんな馬よりも速く駆ける黄金に輝く猪。その名を冠した最高級品であり、最初の魔導バイクがここに完成した。


『【魔法工学】の発展アドバンススキル、【魔導技師】の習得条件を満たしました』


 新製品の完成と共にシステムメッセージが流れた。

 おっさんはそれに従い、新たなスキル【魔導技師】を習得した。

 発展アドバンススキルとは、基本ベーシックスキルをある程度上昇させる等の条件を満たす事で発生する物で、基本スキルの性能をより向上させたり、より変わった運用方法が出来るようになったりする。

 今回習得した【魔導技師】スキルは、基本的な魔法工学製品とは異なる物を作った事により習得条件を満たしたようだ。効果は魔法工学による生産効率の向上、より高度な機械の製造、魔導銃などの魔導兵器の扱いに対するプラス補正などだ。


「ありがとよお前ら。約束通り図面はやるから、あとは好きにしな」


 おっさんはそう言うと、バイクに跨った。


「いいのか?これだけの技術、独占すればどれだけの利益を得られるか……」


 生産PC達が口々にそう言うが、おっさんは特に気にせずに言う。


「構わねぇよ。俺一人じゃそうそう量産できるようなモンじゃねぇしな。それにこいつぁ次のエリアで……いや、それ以降も役に立つ、手前味噌だがスゲェ良い物だ。だからお前らの手で普及させてやってくれや」

「おっさん……ああ、任せてくれ!」

「おう、頼んだぜ。それじゃ、ひとっ走り行ってくらぁ!」


 おっさんは彼らを一瞥すると、バイクを起動させ、走り出した。あっという間におっさんの姿が遠ざかり、見えなくなる。


「何だ!?」「ちょっ、バイク!?」「なんだあれ、速ぇぇぇ!」


 すれ違うプレイヤー達が驚きの声を上げる。おっさんはバイクを駆って街の門をくぐり、草原を駆け抜け、険しい山道も容易く踏破し、再び荒野へと舞い戻った。

 バイクはおっさんを乗せ、凄まじいスピードで荒野を走る。それを見た野生の馬が驚いて転倒し、早くも荒野へと辿り着いたプレイヤー達は目を見開き、おっさんの進路に居た不運なモンスターが、バイクにぶつかって轢死した。オリハルコンの堅牢なボディには傷一つ無い。


 こうしておっさんは、誰よりも速く荒野の探索に乗り出した。

 目指すは、地平線まで果てしなく広がる荒野の先。

 バイクの速度と、それによって生まれる心地良い風を感じながら、おっさんは荒野を駆けるのだった。

オリハルコンの使い道を予測できた人は居るのでしょうか(笑)

なお、この後職人達によって急速に魔導バイクが普及し、この世界に革命が起こりました。

こういった新技術が生まれるとPCだけじゃなく、NPCや世界そのものに影響を及ぼす事もあります。

大体おっさんのせい。


あと第二部開始&100万PVを記念して近いうちに何かやろうと思います。

何がいいかなー。

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