謎のおっさん、ダンジョンに挑む(2)
「おっと、ありゃあ豪華な宝箱か。ツイてるねぇ」
上級ダンジョンの第二階層を進む、おっさんとカズヤ。彼らはダンジョンをある程度進んだところで、広い部屋へと辿り付いた。そしてその部屋の中央に、大きな宝箱があるのを発見した。
マップで見ると正四角形の形をした部屋で、一辺が100メートル程のなかなか広い部屋である。天井もかなり高い。
部屋の扉は四つあり、四つあるそれぞれの壁の真ん中に一つずつ。
そして部屋の中央に一つだけ、通常の宝箱とは明らかに違う、豪華な装飾がされた宝箱が置いてあった。大きさも、普通の宝箱の倍ほどもある。箱の外見がこうである以上、中身もそれなりの物が期待できそうだ。
「罠は無さそうだな」
「おう……いや待ちな。箱に罠は無ぇが床にあるぜ。宝箱の近くに地雷が埋まってやがらあ」
「……む、盲点だった。どうしても箱に目が行くからな……」
「この仕掛けを考えた奴はろくな奴じゃねえな」
「全くだ。きっと仕事が忙しいとか言いつつ一ヶ月も家に帰ってこないようなロクデナシに違いない」
二人は協力して、宝箱周辺のトラップを解除していった。更に、念の為にと広い部屋全体を見てまわる。何がトリガーとなって罠が発動するかわからないし、用心に越した事はないからだ。
「ここの壁にもあったぞ。箱を開けると毒矢が飛び出してくる」
「そっちもか!こっち側にはモンスターを呼び寄せるアラームが仕掛けてやがったぜ」
そうやって数十個のトラップを解除し、全ての罠が無力化された事を確認すると、いよいよ二人は宝箱を開けようとする。だがその前に、バンッ!という音と共に、扉の一つが開け放たれた。
「ククク……フハハハ……ハーッハッハッハッハ!」
高い声で三段笑いをしながら部屋へと入ってきた闖入者が一人。その人物は体を大きく反らしながらひとしきり高笑いをすると、彼らの方を向いた。
それは中学生くらいの少女であった。背丈はかなり小さく、140cm少々といったところか。顔は整っているが幼さを残し、美しいというよりは可愛いといった形容詞が似合う。
髪は銀髪で、それを頭の左右で結んだロングツインテール。手には、先端に魔石の嵌め込まれた両手杖を所持している。
そして右目に付けた、禍々しい模様の入った黒い眼帯が人目を引く。隠していない左目の、瞳の色は鮮血のような赤色だ。
服装は、黒を基調とした高級そうな服に貴族風のマント。それらに包まれた肢体は折れそうな程に細く、スタイルは年相応で慎ましやかである。発展途上ゆえ、今後の成長に期待したい。
「クックック……我が前に現れた贄の顔を見にきてみれば……おっさんに加えて、我と気高き漆黒の血を分けし、親愛なる兄上ではないか……!ククク……今宵は素晴らしき夜になりそうだ」
大仰なポーズを取りながら開口一番にそう言い放つ銀髪の少女、その頭上に表示されているキャラクターネームは【エンジェ】。彼女こそはおっさんやカズヤと同じく【七英傑】と呼ばれるプレイヤーの一人にして【魔王】の二つ名を持つ、強力な攻撃魔法を得意とするプレイヤーだ。
ちなみに彼女は現実世界においてはカズヤの実の妹であり、14歳の女子中学生である。
((面倒臭ぇのが来やがった))
おっさんとカズヤが同時に心の中で叫ぶ。だが彼らにとっての災難は更に続いた。
直後にエンジェが入ってきた扉とはまた別の扉が音を立てて開く。そしてその奥、薄暗い通路からゆっくりと歩いてくる人物が一人。その人物はフードの奥で口元を吊り上げさせ、笑みを浮かべながら言う。
「おやァ……?これはこれは、龍王と魔王の兄妹に加えておっさんまで居るじゃァありませんか……ヤベェなァ、どいつもこいつも美味そうで、誰から食おうか迷っちまうなァ!ボーナスステージ来たぜコレェ!」
その人物は真っ赤なローブで全身を隠し、そして背中に負うは巨大な大鎌。その姿はまさに死神のようである。
身長は165㎝程度であり、男にしてはやや低く、女にしてはやや高い。顔も体型もフード付きのローブのせいで隠されており、くぐもった声のせいでやはり男か女かも判別がつかない。口調から男であろうと推測されているが、真偽の程は定かではない。
顔どころか年齢も性別も不詳、正体不明の殺人鬼。アルカディア最凶の対人マニアにしてPKK(プレイヤーキラー・キラー。
そのプレイヤーネームは【レッド】。人呼んで赤い死神、殺人鬼レッド。
PKを倒すプレイヤー……と言えば、一見正義の味方のように聞こえるかもしれないが、コイツはそんな立派な物ではない。
単に強敵との戦いが三度の飯より大好きで、PKと戦うのは単に激しい戦闘を求めているからに過ぎない。いざとなれば自分がPKとなる事すら躊躇しないであろう戦闘狂。
そんなレッドが今この場でどう動くかは、火を見るよりも明らかであった。
((更に面倒臭ぇのが来やがった……!!))
謎のおっさん、エンジェ、レッド。βテスター達を震撼させた七英傑の中でも【アカン方の三人】【フリーダム枠】等と分類されている三人が、この場で一堂に会してしまった。このままでは残された常識人枠であるカズヤの胃がストレスでマッハである。
「おうカズヤ、お前の妹だろ。早く何とかしろよ」
「……不本意だが仕方ない。レッドを頼む」
向こうの二人は明らかにやる気になっている為、こうなってはもはや倒すしかないだろう。おっさんとカズヤは素早く分担を決めると二手に分かれた。
おあつらえ向きに広い部屋で、そして勝者の報酬となる豪華な宝箱まで揃っている。
広いフィールドを二つに分け、彼らはそれぞれの相手と対峙した。
「フハハ、兄上が我の相手か……愉しき夜になりそうだ……!」
「面倒だが仕方があるまい。妹と遊んでやるのも兄の役目か」
「ククク……その余裕がいつまで続くか楽しみだ!かつての我と同じだと思うなよ兄上!」
「そうか……ならば見せてみろ、お前の成長とやらをな」
カズヤは実の妹であるエンジェに、二振りの剣を構えて向かい合い、
「よっしゃ、おっさんキター!さあ遊ぼうぜェ!βテストん時の借りを返してやらあ!」
「相変わらずウゼェ餓鬼だ。βテストで俺とカズヤに惨敗した時よりはマシになってるんだろうな?」
「オフコース!あれから俺も相当腕を磨いたからなァ。退屈させねえ自身はあるぜェ?」
「ほーう?なら、せいぜいおっさんを楽しませてみな」
おっさんはいつもの自身に溢れた表情で、レッドを迎え撃つ。
今ここに、決戦の幕が上がった。
(2014/3/1 改稿)




