集結!七英傑!
「しかし、おっさんはあの技をどうやって防ぐつもりなんだろうな?」
誰かがそう呟いた。おっさんはヴォルトの必殺技【ライトニング・フォース】を見切ったと宣言した。だが、あの高速・命中するまで自動追尾・超火力と三拍子揃ったチートじみた魔法をどうやって回避するというのだろうか。皆が疑問に思うのも無理はないだろう。
「ブラフじゃねぇの?おっさんなら平気な顔でハッタリかますくらいはしそうなモンだが」
「その可能性はあるが、果たしてこの場面でそれをするかね?」
「仮にブラフだとして、相手が挑発に乗ってきたらそれまでだからな……」
ギルドメンバー達が小声でそう話す傍ら、おっさんとヴォルトは五十メートル程度の距離を空けて相対する。
ヴォルトもまた、先程のおっさんの発言の真偽を測りかねていた。
果たしてブラフか、それとも本当に防ぐ手段があるのか。あったとして、どのように防ぐつもりか。疑問と興味は尽きぬが……
「だが、まあ……撃ってみればわかる事か!」
本当に防がれた場合、おっさんは彼我の距離を一瞬で詰めて逆撃に移るであろう事は明らかだが、好奇心に負けたヴォルトは挑発に乗る事を決意した。
まず彼はアビリティ【殺界】を発動する。これは習得しているアーツまたは魔法一つを対象に、そのクールタイムを強制的にリセットする効果を持つ。ボス戦などで大技を連発する時に役立つアビリティだ。
「再び受けるがいい、【ライトニング・フォース】!」
【殺界】の効果でクールタイムがリセットされた魔法をヴォルトが再び放ち、必殺の雷弾がおっさんに迫る。
それに対しておっさんは、あるアイテムを取り出して装備した。
「あれは……釣竿!?」
そう、おっさんが取り出したのは彼自らが木工スキルで作成した、最高級の釣竿だ。飛来する雷弾を紙一重で躱したおっさんは、左手に握ったその釣竿を振るう。
「がはははは!フィーッシュ!!」
おっさんが釣り針を飛ばした先にいたのは、ヴォルトが召喚していた雷神機!おっさんは雷神機に釣竿を引っ掛けると、なんと左手一本で吊り上げ、手元に引き寄せた。
「あれは……【エネミー・フィッシング】!」
「知っているのかライディーン!?」
「うむ、間違いない。あれこそは【エネミー・フィッシング】。【釣り・極】スキルを30まで上げる事で習得可能な、釣竿専用のアーツだ。効果は見ての通り、釣竿を使って離れた敵を近くに引き寄せるものだ」
「釣竿専用のアーツだと!?そんなのもあるのか!」
おっさんが使ったアーツを、物知りなプレイヤーが解説する。
そしておっさんは、近くに引き寄せた【ライトニング・ギア・ビショップ】の巨体を掴み、合気を使って放り投げ、再び迫り来る【ライトニング・フォース】の雷弾にブチ当てた。
主の最強魔法が直撃し、雷神機が無残に破壊される。そう、おっさんは雷神機を盾にする事で、自分に向けられた攻撃を防いだのだ。
そして、友軍誤射とはいえ命中した事によって、【ライトニング・フォース】の効果が終了する。
「なん……だと……!?そんな手段で……!?」
宣言通り、あっさりと最強の技が防がれた事に動揺するヴォルトに、おっさんは言う。
「どれだけ威力が高かろうが、命中するまで追尾しようが、所詮は単体攻撃。別の対象に当ててやれば、それで終わりよ。最初は面食らったが、一回見ちまえばこの通り、いくらでも対処できらぁ。それと、手下を出しっぱなしにしたのは失敗だったな」
「き、貴様……もし吾輩が雷神機たちを送還していたら、どうするつもりだったのだ!?」
おっさんが雷神機を壁にする事ができたのは、ヴォルトが彼らを待機させていたからである。もしも、それが無かったらどうするかという指摘に、
「そん時ゃ当然、こいつらの誰かを盾にしてたに決まってんじゃねえか」
と、おっさんは後ろに立つ仲間達を指差した。さすがおっさん!勝利の為なら顔色一つ変えずに平然と仲間に犠牲を強いる!なんという外道か!
「き、貴様等それでいいのか!?こんな事言ってるぞこいつ!?」
ヴォルトは矛先を変え、ギルド【C】の仲間達におっさんの非道っぷりをアピールするが……
「勝利の為なら当然」
「仲間とか利用し合ってナンボなんだよなぁ」
「倫理?道徳?何それ食えんの?」
平然とそう答えるギルドメンバー達!こいつらも既に毒されていたッ!
ちなみにこいつらは全員、先程おっさんの釣竿が仮に自分に向けられていた場合、一切躊躇する事なく隣の仲間を盾にしようとしただろう。
そしてこいつらは、仮に自分がそれをやられたとしても、仲間を恨む事はない。何故ならば、自分もそうするからお互い様!出し抜かれた間抜けが悪!そんな殺伐としたルールの中で動いているからだ、この者達は!
これには流石の雷神ヴォルトもドン引きである!
「こいつらは、この場で滅ぼさねば」
そんな使命感に襲われたヴォルトは、奥の手を出す事にした。恐らくその使命感は正しい。
「集え、我が眷属達よ!」
主の声に応え、雷神機達が一斉に動き出す。それに加えて、新たに多数の雷神機がその場に召喚された。
そして、それらが形を変えながら積み重なり、巨大な一つのシルエットを作っていく。
「合体だ!」
「何ぃ!?変形合体だと!?」
そう、彼らが言う通り、無数の雷神機が形を変え、新たな一体の巨大兵器へと形を変えていく。その様子を、おっさんと仲間達は一切動かずに見守った。当然である。ロボットが変形合体をしている間は攻撃を行なってはならない。日本国憲法にもそう書いてある。
「そして我、合体ッ!」
そして遂に完成した巨大兵器、全高50メートルを超える、まさに移動要塞と呼ぶに相応しいそれの頂にヴォルトが飛び乗り、ブッピガァン!という妙に耳に馴染む効果音と共に下半身が巨大兵器と一体化する。
降臨!轟雷機神ヴォルト!
「あ、これあかん奴や」
「やべぇよやべぇよ……」
【C】のギルドメンバー一同は、そのあまりに巨大なボスモンスターに恐怖した。ノリと勢いで変身を見守ったとは言え、流石にこれほどのデカブツは想定外ッ!
「では、死ぬがよい」
ヴォルトがそう宣言すると、二門の巨大な主砲がおっさん達に向けられた。一発だけでも彼らをまとめて吹き飛ばす事が可能であろう巨砲、それが二つもである。
それを前にしてなお、おっさんは優雅に煙草を吹かしているではないか。おっさんの余裕の態度を見て、ヴォルトが額に青筋を浮かべ、髪がバチバチと耐電しながら逆立つ。
「貴様、何だその態度は。諦めたか?それとも、この姿になった吾輩を相手に、まだ勝てるつもりか?」
「さあな。どっちだと思う?」
「…………どちらでも構わんッ!今すぐ死ねい!」
そして、遂に主砲が放たれる。轟音を上げ、大気を震わせながら放たれた魔導砲の弾が着弾し、冒険者達をまとめて焼き払う……筈であった。
だが次の瞬間、ヴォルトが目にした光景は……
『シリウスが【アラウンドカバー】を使用。シリウスは範囲内の全員を庇った』
『轟雷機神ヴォルトの主砲攻撃。シリウスに102686のダメージ』
『シリウスが【カウンターヒール】を使用。シリウスのHPが51343回復』
『カエデが【クイックヒール】を使用。シリウスのHPを40000回復』
『轟雷機神ヴォルトの主砲攻撃。シリウスに105729のダメージ』
『カエデが【ハイネスヒール】を使用。シリウスのHPが全回復』
大盾を構え仁王立ちする騎士と、彼に付き従う巫女。そして騎士に守られた多くの冒険者達の姿であった。その誰もが無傷であるという、目を疑う光景!メイン盾来た!これで勝つる!
ちなみに上記のシステムメッセージだが、ヴォルトが放った二発の主砲、一発目と二発目の着弾のタイムラグは0.3秒程度であった。
シリウス自身の耐久力は勿論、その僅かな時間の間に回復をねじ込んだ二人の卓越したプレイヤースキルによる、見事な防御だった。
「ナイスタイミング。パーフェクトだ、シリウス」
「感謝の極み」
おっさんの言葉に、紳士的に礼をして返すシリウス。
おっさんはヴォルトが時間をかけて変形合体をしている間に援軍としてシリウスを呼んでおり、必ず間に合い、敵の攻撃を防ぎきるであろうと確信していた為、余裕の態度を崩さなかったのだ。
「ええい、ならばこれはどうだ!」
ヴォルトが合計十六門の副砲と、無数の機銃をおっさん達に向ける。だが、その瞬間!
「ヒャッハー!」
「Eat this!!」
ヴォルトの巨体を駆け上がりながら、砲台を次々と斬り払い、破壊する二人の影!一人は赤い戦闘服に身を包み、様々な武器を自在に操る赤髪の美女!もう一人は忍装束の小柄な犬耳忍者!レッドとアナスタシアの二名だ!彼女らもまた、おっさんの援軍要請に応えて参戦していた!
レッドが双剣や処刑鎌で片っ端から副砲を真っ二つにし、アナスタシアが手裏剣や苦無の正確無比な投擲で、次々と機銃を破壊していく。
「猪口才な!」
そんな彼女らを範囲魔法で迎撃しようとするヴォルトであったが、魔法が放たれる寸前、どこからか放たれた手裏剣がヴォルトの顔面に突き刺さる。
「【封魔手裏剣】!」
アナスタシアが放った投擲アーツ【封魔手裏剣】だ。命中した敵の詠唱を強制的に中断させ、更に一定時間、魔法を使えなくなる【沈黙】の状態異常を与える妨害性能が高いアーツである。
そして、魔法による邪魔が無くなったところで赤いアイツが本格的に暴れ出す。
「ナイス!さあ、飛ばしていくぜ!」
アビリティ【八艘飛び】を発動させ、巨大兵器の体を次々と飛び移りながら、奥義【マルチウェポンデストロイ】を発動させたレッドが、武器を次々と切り替えながら破壊の限りを尽くす。
「よっしゃ、こっちは全部ブッ壊したぜ!」
「エスケープ!」
目標を破壊し、すぐさま離脱を開始する二名。そこに現れたのは……
「こちらは準備完了だ。いつでも行けるぞ、兄上」
いつの間にか、ヴォルトの足元で魔導杖を構え、魔法の詠唱を完了させている銀髪の少女と、
「よし。レッドとアナスタシアの離脱を確認し次第仕掛けるぞ」
上空にて、白銀の龍を駆り、二振りの長剣を構える灰色の美丈夫。
エンジェとカズヤの兄妹が、【絶技】を発動させる。
絶技とは、先日のアップデートにて実装された新たなシステムである。
二人のプレイヤーが息を合わせて放つ専用の必殺技であり、習得するには二人が力を合わせて理不尽な難易度のクエストをクリアする必要がある。
習得が非常に難しいが、その分威力は既存の奥義を大きく超え、まさしく一撃必殺。それが今、放たれる。
「「天地双龍撃!!」」
カズヤの剣とエンジェの杖から放たれた魔力が激しくぶつかり合い、火花を散らす。その中心に居るヴォルトはたまったものではない。
次第に崩壊していく巨大兵器。だが……
「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
ヴォルト、咆哮す。奥の手まで出しておいて、誰一人倒す事なく一方的に敗北の危機に瀕した事で、遂にその怒りが爆発した。
エンジェとカズヤの兄妹が放った絶技を相殺して余りあるほどの雷撃を放ち、彼らを弾き飛ばしたヴォルト。その彼と合体した巨大兵器が赤熱し、蒸気を吹き出す。
「【マキシマム・オーバーロード】ォォォォォォォッ!!」
発動したのは魔導機械を暴走させ、耐久度を犠牲に限界を超えた性能を発揮させるアビリティ【オーバーロード】の強化版!その効果によって崩壊は更に加速し、このままでは勝手に自壊しかねない状態に陥るものの、その戦闘力は更に跳ね上がる!
「許さんぞ人間共!貴様等まとめてブチ殺してくれる!」
怒れる機械神が動き出す。だが、その前に立ち塞がる一人の男の姿があった。
「よくやった、お前達。後は俺がやる」
その名は、謎のおっさん。珍しく殺る気に満ちた表情で、眼前の巨大兵器を睨み付ける。
「ムカつく見た目しやがって、このデカブツが。大体誰に断ってこの俺を見下ろしてんだ。頭が高ぇんだよこの野郎」
半ば言い掛かりのような罵倒と共に、おっさんが動き出す。
決着の時は近い。
あ、なんか書籍化するってよ(凄い適当な告知)
詳細は後日。