決戦!雷神ヴォルト!
戦いが始まると同時に、おっさんは二挺の魔導銃剣を抜き放ち、奥義を発動させた。
【バレットカーニバル】。おっさんの十八番にして、両手の拳銃からありったけの銃弾を一気に叩き込む大技だ。
開幕早々に得意とする奥義をぶっ放し、ペースを握ろうとしたおっさんの思惑は……
『ヴォルトは【超電磁結界】を発動』
『エリア内の魔導機械が機能を停止する!』
『謎のおっさんは【バレットカーニバル】を発動……失敗!装備使用不可!』
ヴォルトが使用したアビリティ【超電磁結界】により、不発に終わった。
「………………何だと?」
そのアビリティは、あらゆる魔導機械を強制停止させる、雷神のみが持つ権能。それにより、おっさんが装備している魔導銃剣のみならず、エリア内にある全ての魔導機械がその機能を失う。そして、おっさんの右腕……そう、機械仕掛けの義手もまた、その機能を停止する。機械の右手に握られていた魔導銃剣が、音を立てて地面に転がった。
「さて、これで貴様は右腕が使えなくなったワケだが、まだ続けるかね?」
「フン……丁度いいハンデだ。てめえ如き左手だけで十分よ」
「そうか。では次はこちらの番だな!【ライトニング・ジャベリン】!」
ほぼ無詠唱で、電撃属性の魔法が放たれる。対象は単体だが威力はそこそこ高く、弾速が速いため命中率に優れる、使い勝手の良い中級魔法だ。
そしてヴォルトが放つそれは、速度・威力共に通常の物とは桁違い。
「【アンチライトニングフィールド】ッ!」
それに対して、おっさんが使ったのは錬金術【アンチライトニングフィールド】。地面に巨大な錬成陣が描かれ、その範囲内の電撃属性を大幅に減衰させる効果がある。
それは確かに、電撃属性の攻撃を多用する雷神に対して非常に効果的である……と、思われた。しかし、突然錬成陣が消滅し、その効果がかき消される。
「魔導機械……そして錬金術……。それらは全て、我が眷属たる機械人が生み出した技術である」
ヴォルトが語る。その表情には、失望と侮蔑がありありと浮かんでいた。
「そんな物がよぉ!創造主である俺様になぁ!通じる訳が無ぇだろうがこの間抜けがァ!」
【ライトニング・ジャベリン】がおっさんに命中する。咄嗟に直撃は避け、更に今回、雷神機と戦うために電撃耐性の高いアイテムを装備していた事で、ダメージは最小限に抑える事ができた。
だが、そこで僅かな……そして致命的な隙が生まれてしまった。その隙に、ヴォルトは次なる攻撃の準備を完了させる。
「死ぬがいい!【ライトニング・フォース】!!」
ヴォルトが巨大な雷弾を放つ。
高速で飛来するそれを、おっさんは回避する。だが避けたはずの雷弾が、背後から再びおっさんに向かって襲いかかった。
「冥途の土産に教えてやろう!その雷弾は命中するまで貴様を追尾し続け!更に電撃への耐性を貫通する!どう足掻こうと貴様は助からんわ!」
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【ライトニング・フォース】
種別 魔法/ユニーク/奥義
消費MP 5000
対象 単体
クールタイム 10分
【効果】
分裂しながら対象を追尾する雷弾を放つ。
命中時、対象に電撃:5000%の魔法ダメージを与える。
ダメージ計算時、対象の電撃耐性を75%無視する。
【解説】
雷神ヴォルトのみが使える究極の電撃魔法。神の雷霆。
この攻撃が放たれたら最後、逃れる術は無い。
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「ちぃっ!」
おっさんは必殺の魔法をよく躱し続けたが、分裂しながら高速で動き回り、追尾性能を持つ雷弾に、じわじわと追い詰められていった。
(こいつは無理だな。避けられねえ。このままだともう二、三分が限界ってとこか)
驚異的な予測能力を持つおっさんだからこそ、このままでは先が無い事が読めてしまった。避ける事は不可能で、相殺しようにも魔導銃剣や右腕に仕込まれた魔導砲は使えない。後はじわじわと嬲り殺されるだけだ。
ゆえに、おっさんは賭けに出た。
「……む?いよいよ諦めがついたか?」
否!おっさんの辞書に「諦める」という言葉は存在しない!
「【円空掌】ッ!」
おっさんの左手が円を描き、空を断つ。格闘防御アーツ【円空掌】によるジャストパリィにより、おっさんは【ライトニング・フォース】を弾き飛ばした。
「出た!おっさんのチート円空だ!おっさんはあれで多くのボスモンスターにカウンターを入れて葬り去ってきたんだ!」
「あれこそアルカディア三大チートの一角!相手は死ぬ!」
【ライトニング・フォース】を弾き飛ばしたとはいえ、追尾性能を持つあの雷弾は再びおっさんを襲うだろう。だが、その僅かな猶予があれば十分だ。
「うおおおおおおおッ!!」
大地が罅割れ、陥没する程の力強い踏み込み。おっさんは一瞬で彼我の距離を詰め、ヴォルトに肉薄する。
「何ッ!?」
一瞬で数十メートルの距離を零にし、目の前に現れたおっさんの姿に、ヴォルトが目を見開く。おっさんの左拳が、ヴォルトの鳩尾にそっと添えられた。
無寸頸。またの名をゼロ・インチ・パンチ。零距離で密着した状態から放たれる、一撃必殺の拳打が、ヴォルトに突き刺さる。
だがその瞬間、ヴォルトはその身を雷に変え、一瞬で上空へと移動していた。
「……肝が冷えたぞ。まさか、奥の手を使わせられるとは思わなんだ」
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【ライトニング・ファントム】
種別 アクティブアビリティ/ユニーク/奥義
消費MP 10000
対象 自身
クールタイム 60分
【効果】
発動から10秒間、自身に以下の能力を付与する。
①エリア内のあらゆる場所に一瞬で移動できる
②物理攻撃を100%の確率で回避する
効果終了後、自身のHPを半減させる。
【解説】
雷神ヴォルトの奥義。
雷と同化する事で光速で移動し、あらゆる物理攻撃を無効化する。
ただし神にとっても非常に負担が大きく、乱発は不可能。
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恐るべきヴォルトの奥義!己が身を雷と化す事でおっさんの攻撃をすり抜け、一瞬で距離を離す事に成功したヴォルトはほくそ笑む。
「惜しかったが、まあ……これで終わりだ」
そして、乾坤一擲の一撃を空振ったおっさんの背中に、【ライトニング・フォース】が命中し、その余波で大地に巨大なクレーターが生成される。
その中心部で、おっさんがゆっくりと、前のめりに倒れた。
それと同時に、ヴォルトの【ライトニング・ファントム】の効果が終了し、彼のHPが半減する。奥義の反動による苦痛に顔を顰めるヴォルトだったが、彼はむしろ安堵していた。
(先程の一撃、恐らくまともに受けていたならば、こんなものでは済まなかった筈。場合によっては、あそこで倒れていたのは吾輩だったやもしれぬ)
そう考え、もしもの場合を思って冷や汗を流すヴォルトだったが、すぐに余裕を取り戻すと、倒れるおっさんを見下ろして笑みを浮かべた。
(だが、勝ったのは吾輩だ。惜しかったな人間)
倒れて動かぬ強敵と、その仲間達の絶望する顔を眺めて悦に入るヴォルト。敵の最大戦力を叩き潰し、満足した彼は背を向けて、その場を立ち去ろうとするが……
「おい、どこに行く気だクソ野郎。まだ決着もついてねぇのに逃げる気か?」
その背中にかけられるのは、あの男の声。
振り向いたヴォルトの視線の先には、ゆっくりと立ち上がるおっさんの姿があった。
「貴様、なぜ生きている!?」
「……やっぱ、【食いしばり】って神スキルだわ。そう思わねぇか?」
そう言って、おっさんはふてぶてしい笑みを浮かべるのだった。
「てめえの技はもう見切った。第二ラウンドだ」
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【食いしばり】
種別 パッシブアビリティ
対象 自身
習得条件 【頑健 Lv75】およびVIT10000以上
クールタイム 60分
【効果】
HPが0になった時、30%の確率で発動する。
死亡とデスペナルティを無効化し、自身のHPを1にする。
効果が発動した場合クールタイムが発生する。
【隠し効果】
【Force of Will】習得時、100%の確率で発動する。
この効果は条件を満たしたプレイヤーにのみ開示される。
【解説】
不屈の意志は死をも乗り越える。
効果は安定しないが、発動さえすれば非常に強力。
一度使用した場合、しばらくの間は復活出来ない。
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