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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
137/140

強敵!雷神ヴォルト!

 その光景を目にしたプレイヤー達は、まず己の目を疑った。

 彼らの目に映っていたのは、凄まじい衝撃で大きく抉り取られ、巨大なクレーターが出来上がった荒野のフィールド。

 そして、そのクレーターの中心でうつ伏せに倒れた、おっさんの姿であった。


「そ、そんな馬鹿な……」

「おっさんが、やられた……だと……?それも、たったの一撃で……!?」

「もうだめだぁ、おしまいだぁ……」


 トッププレイヤーであり、ギルドの最高戦力である無敵のおっさんが倒れ伏す絶望的な光景を前に、【C】のギルドメンバー達は戦慄した。

 そして、そんな彼らを冷めた目で見下ろすのは一人の男……否、一柱の神!


「ふむ……所詮はこの程度であったか。つまらんな」


 そう呟くその男の名はヴォルト。七柱神が一、【雷神】ヴォルト。


 時間を数分ほど巻き戻そう。

 襲来した雷神機ライトニング・ギアを撃退し、防衛に成功したギルド【C】に所属するプレイヤー達は勝利に沸いていた。

 

「皆さん、お疲れ様でした!防衛は成功です。それでは早速ですが、論功行賞およびドロップ品の分配を始めたいと思います!」

「「「「「「「「イエーーーーーーーーーイ!!!」」」」」」」」


 ギルドマスター・クックの宣言に、拳を突き上げて歓声を上げるメンバー一同。彼らに向かって、続けてクックは宣言した。


「で・す・が、その前に!敵を城門前まで連れてきた挙句に変身させて、城壁に多大な被害をもたらしてくれやがった!ジークさんと魔導技師チームの皆さんに!罰ゲェーーーム!!のお時間でぇーす!」

「「「「「「「「イヤッフウウウウウウウゥ!!!」」」」」」」」


 異常なテンションで盛り上がる一同。それに対して、青ざめた顔でガックリと項垂れるのは、話題に上がった魔導技師チームの面々。そう、先程の戦いで、一歩間違えば拠点が陥落しかねないレベルのうっかりをやらかした戦犯共である。


「お、俺は悪くねぇ!ジークさんがやれって言ったんだ!俺はワルクヌェー!」

「許して……許してクレメンス……」

「堪忍や……ロボの誘惑には勝てんかったんや……」


 各々好き勝手に言い訳を口にし、許しを乞う彼らであったが、クックはそんな彼らの言葉を聞き流すと、小さな箱を取り出した。


「あぁ~?聞こえんなぁ!と言う訳で、レッツくじ引きタイム!」


 そう、クックが手にしたその箱の中には、罰ゲームの内容が書かれたくじが大量に入れられている。その中からランダムに引いた内容が、これから実装されるのだ。

 ちなみに、その内容はギルドメンバーがそれぞれ考えて書いた物である。

 そして変態揃いの【C】のメンバーには、自分が受ける時の事を考えて日和った内容の罰ゲームを書いた者など居ない。その内容の過酷さは推して知るべしである。


 そして、いよいよクックが籤を引き、罰ゲームの内容が決定されようとした、その時だった。突如、轟音と共に幾つもの落雷が発生し、彼らの前に一人の男が、空から降り立ったのは。

 長身痩躯のその男はくたびれた白衣を着用し、くすんだ色の金髪は無造作に伸び、目元が隠れている。まるで何日も家に帰っていない研究者のような容姿であった。

 その場に居た者達は、反射的に現れた男に目を向ける。そして……


「さあ行くぜ!まず一枚目、ドロー!激辛麻婆一気飲み!二枚目ドロー!おっさんの全力ケツバット!三枚目ドロー!モンスターカード!ドロー!モンスターカード!」


 何事もなかったかのように連続で籤を引くクックと喝采を上げるギルドメンバー達、そしてその内容を聞いて悲鳴を上げる罰ゲーム対象者達の姿がそこにあった。


「おい。おい貴様等。なぜ吾輩を無視するのだ。もうちょっとこう、何か反応する事とかないのか。おい」


 そんなプレイヤー達に対してツッコミを入れる男だったが、当然のように彼の発言は無視された。籤引きはいよいよ佳境に入っており、固唾を飲んで見守るプレイヤー達は突然現れた謎の人物に関わっている暇など無いのだ。


「えー、それでは名残惜しいですが、いよいよジークさんの罰ゲームを決定する、最後の籤引きになります!」

「待ちな……!」


 そして、いよいよ最後の籤を引かんと勢いよく箱の中に手を突っ込もうとするクックだったが、それを止める者が居た。その人物は誰であろう、罰ゲームの対象者であるジークその人であった。


「自分の運命は自分で決める……!俺は逃げも隠れもしねえ、その籤、俺に引かせて貰おうか……ッ!」


 眼鏡の奥の目をギラリと光らせ、ジークがそう宣言する。その真摯な瞳を見て、クックは深く頷くと、籤の入った箱を差し出した。


「いいでしょう。その覚悟に最大の敬意を表します」

「ああ……いざ、南無三ッ!」


 箱から手を抜き、勢いよくその手を天に突き上げるジーク。その手に握られた一枚の籤が、陽光を反射してキラリと光る。

 その紙には、このような内容が書かれていた。


『カズヤさんに向かってTSポーションを投げつける』


((((((((あ、あいつ死んだわ))))))))


 その場に居た者達の心が一つになり、あまりのショックにジークの眼鏡が割れた。そのままジークはゆっくりと、その場に倒れ伏した。


「俺は止まんねえからよ……お前らも、止まるんじゃねえぞ……」

「ジーク!しっかりしろジィィィィィィィク!!」

「うわあああああああああああああああ!」

「あああああああああああああああああ!」


 倒れたジークを想い、悲しみの涙を流す仲間達。彼らの脳裏には、ジークと共に過ごした日々の思い出が色鮮やかに浮かんでいた。

 今、皆の心が一つになった。いい話だなー(建前)なんだこの茶番(本音)


「人間共、いい加減こっちを向け。おい聞いてんのか」


 体からバリバリと音を立てて放電しながら、研究者風の男が苛立ったように言う。だがそんな言葉は、一つとなったギルドの仲間達には届かない。


「よし終わり、閉廷!今日はこれにて解散で!」

「お疲れっしたー!」

「おつー」

「私は今日はこれで落ちますね。お疲れ様でしたー」

「おやすみー」


 ガン無視で解散し始めるプレイヤー達の姿に、男の怒りが有頂天に達した。


野郎ぶっ殺してやるヤロウオブクラッシャー!【サンダーストーム】!」


 怒りと共に放たれた魔法は、【元素魔法】スキルに属する、序盤で習得可能な低級の魔法、サンダーストーム。指定した地点を中心としたそれなりの範囲に連続で雷を落とす、電撃属性の範囲魔法だ。

 だが彼の放ったサンダーストームは、そこいらの魔法使いが放つそれとはまるで別物であった。超広範囲に次々と落雷が発生し、その一つ一つが後衛プレイヤーなら一撃死しかねないほどの威力!【魔王】の二つ名を持つトッププレイヤーの魔法使い、エンジェが放つものに匹敵するか、あるいは上回る程の凄まじい攻撃に、流石に暢気なプレイヤー達も臨戦態勢を取る。


「誰だてめえは!?」


 今頃その存在に気付いたかのように、おっさんが誰何する。


「フフフ……誰かと聞かれたならば答えてしんぜよう!我が名は雷神ヴォルト!七柱神が一柱にして、雷と叡智を司る神なり!」


 ようやく訪れた機会に堂々と名乗りを上げるヴォルトに対して、おっさんは問う。


「そうか。ところで誰だてめえは!?何しに来やがった!」

「ヴォルトだと言っておろうが!……なに、我が雷神機を退けた貴様等に少々興味が沸いてな。その力を吾輩が直々に見極めてやろうと、こうして降臨したまでの事よ」


 そう宣言するヴォルトに対し、おっさんは続けて問うた。


「誰だてめえはあああああああああああああ!?」

「ヴォルトだっつってんだろうが、このカス猿がぁ!!さっきからこの俺様を馬鹿にしやがって、余程惨たらしく死にてえようだなぁ、あぁん!?」


 おっさんのからかいに、遂に怒りが限界突破したヴォルトが、その体から雷光を放つ。だらしなく伸ばしていた金髪が天を衝くように逆立ち、隠れていた顔が露わになった。それを見て、おっさんがニヤリと笑いながら言った。


「うっわ、目つき悪ぃなお前。まるで手配書から出てきたような汚ねぇツラだ」

「人の事言える顔かよテメー、殺人鬼みてーな目つきしやがって。おい、山賊が紛れ込んでいるぞ。衛兵よ仕事しろ、さっさとこの猿をつまみ出せ!」

「何だとてめえ、このスーパーサ〇ヤ人もどきが調子に乗ってんじゃねーぞタコが。見逃してやるからさっさと生まれた星に帰りやがれ」

「あ?」

「あ?」


 至近距離で睨み合い、罵倒を交わすおっさんとヴォルト。彼らを見て、周りのプレイヤー達は心の中で呟く。


(似た者同士……)

(同族嫌悪……)


 やがてメンチを切りながらの罵倒合戦も終わり、両者はいよいよ目の前の、気に入らないクソ野郎を排除するべく同時に動き出した。


「「ブッ殺す」」


 戦いが始まり、そして……冒頭の場面に時間が戻る。


「ふむ……所詮はこの程度であったか。つまらんな」


 そこには倒れ伏すおっさんと、それを見下ろすヴォルトの姿があった。

大変お待たせしました。

主人公の敗北という、読者にある種のストレスを与えるイベントを書くにあたり、色々と気を遣う必要があり非常に難産でした。

続きは明日投稿します。

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