イグニス防衛戦!(後編)
遂に姿を現した雷神機!その正体は巨大人型ロボットだった!
力強く大地を踏み固めながら、ズシン、ズシンと重い足音を響かせて鋼の巨人が迫り来る。見よ、威風堂々たるこの姿!
怖いか人間よ、己の非力を嘆くがいい!
そのモンスターの名は【ライトニング・ギア・ポーン】。その名が示す通り、歩兵型の雷神機だ。
「ロボだあああああああああ!!」
「わーい!人型ロボだー!」
「ヒャッハアアアアアアアア!!我慢できねぇ!突撃だぁ!!」
だが、そんな雷神機の姿を見た【C】のギルドメンバー達の反応というと、歓喜の声を上げて城壁から飛び降り、雷神機に向かって全力疾走するという物だった。特にジーク率いる魔導技師チームの喜びようは凄まじく、脇目も振らずにまっしぐらだ。
敵であるプレイヤーが接近してきた事に反応し、雷神機は右手のブレード、あるいは左手のライフルで応戦しようとするが、テンションMAX、有頂天状態の職人達はおっさんが乗り移ったかのような反応速度と動きで攻撃をするりと回避して雷神機の懐に飛び込むと、その勢いのまま全力で抱き付いた。
「うおーやべぇ!本物のロボだぜロボ!生ロボだ!」
「やばい。ロボやばい。超やばい」
「クンカクンカスーハースーハー。どれ、味も見ておこう」
職人達は突如現れた人型ロボを目の前にして、テンションが上がりすぎて表情や言動がやばい事になっていた。ちょっとお見せできない状態だ。目も完全にイってらっしゃる。
「よし、オリハルコンワイヤー用意!縛るぞ!」
「了解!ワイヤー射出!」
「捕縛完了しました!」
「よくやった!A班は全員でこいつを持ち帰るぞ。B班はその間、他の敵からA班を守れ!」
ひとしきり弄り回して満足すると、彼らは雷神機の手足を頑丈なオリハルコンワイヤーで縛り上げ、鹵獲した。そしてワイヤーの末端を力を合わせて引っ張り、自陣へと連行しようとする。
「「「わーっしょい!わーっしょい!」」」
かけ声と共にワイヤーを引く彼らの手によって、ずるずると引きずられていく一体の雷神機。抵抗しようともがく様子を見せるが、オリハルコンワイヤーを引き千切る程の力は無いのか、抵抗むなしく城壁のほうへと連行されていく。
「おーい、城門開けてくれ!こいつを運び込むぞ!」
そして、遂に城門前まで捕らえた雷神機を運び、そのまま搬入しようとしたその時。捕らえられていた雷神機の目がギラリと光を発すると、その体から物々しい駆動音を発し始めた。
「ん?何だこの音は?」
その音に思わず振り向いた瞬間、彼らは見た。
雷神機の体が強烈な光を放ち、その体が音を立てて変形していく姿を。そして、一回り以上大きくなったその巨体が、強靭無比なオリハルコンワイヤーを、ぶちぶちと音を立てて容易に引き千切っていく、恐るべき光景を。
「な、何だ!?」
「変形……だと!?」
一体この時、何が起こったのか。それを説明するシステムメッセージが、一瞬遅れてその場の全プレイヤーに向けて発信された。
『ライトニング・ギア・ポーンが【プロモーション】を使用』
『ライトニング・ギア・ポーンはライトニング・ギア・クイーンに変化した』
そのメッセージが示す通り、これはライトニング・ギア・ポーンの持つ変形進化アビリティによる物であった。
チェスにおいて、最弱の駒である歩兵は敵陣の最奥まで到達する事で、より強力な駒へと昇格する事が可能であるように、この雷神機の歩兵もまた、城壁まで到達する事でアビリティ【プロモーション】を使用し、より強い形態に進化する事が可能になるのだ。
彼らはそれを知らず、ロボットに目が眩んでうっかりその発動条件を満たしてしまったのであった!
拘束から解き放たれ、立ち上がったライトニング・ギア・クイーンが剛腕を振るう。
その一撃で周囲に居たギルドメンバー達を薙ぎ倒すと、クイーンは城壁へとその巨拳を叩きつけた!
「う、うわーっ!」
「しまった、城壁がっ!」
拳の一撃で城壁の一部が崩れ、近くに居た者達の体勢が崩れる。その隙に、クイーンは再び拳を高く振りかざす。その視線の先に居るのは、つい先程己を捕獲しようとした無礼者達の首魁。すなわち魔導技師チームのリーダー、ジークであった。
「ちぃっ!」
自分が狙われている事に気付いたジークが、慌てて武器を装備し迎撃の構えを取る。取り出したのは大型のライフル型魔導銃だ。
素早くライフルを展開し、ジークはアビリティ【ロックオンクイック】【フルバースト】【オーバーロード】を発動させる。効果はそれぞれ「敵単体をロックオンし、射撃の命中率とダメージに+補正を加えると共に、次の射撃アーツを準備時間無しで発動する」「弾薬の消費量が増える代わりにダメージを増やす」「武器の耐久値が急激に減る代わりに、攻撃力を大幅に上昇させる」といった内容だ。
それらのアビリティの補助を受け、ジークは目の前の敵に魔導銃の奥義アーツを放つ。
「【デッドエンド・シュート】ッ!!」
強烈な射撃攻撃が、狙い違わずクイーンの頭部に命中した。
「やったか!?」
「流石にあれほどの一撃を受けては、生きてはいられまい!」
「勝ったな、風呂入ってくる」
その様を見て、ギルドメンバー達が囃し立てる。おいやめろ馬鹿。
『ジークが【ロックオンクイック】を使用。ライトニング・ギア・クイーンをロック』
『ジークが【フルバースト】を使用。ジークはフルバースト状態になった』
『ジークが【オーバーロード】を使用。ジークはオーバーロード状態になった』
『ジークが【デッドエンド・シュート】を使用』
『ライトニング・ギア・クイーンに合計26845のダメージ』
「……おいおいマジかよ。あれだけやってダメージだったの26kとか、どんだけ硬ぇんだよ」
普通の敵であればその倍以上のダメージを与えられる攻撃だったが、ライトニング・ギア・クイーンにとっては「ちょっと痛かったかな」程度の攻撃でしかなかったようだ。
クイーンはまるで効いた様子も見せずに、そのままジークに拳を叩き付けようとする。
『ライトニング・ギア・クイーンの攻撃』
(あ、やべぇ。これ死んだか)
回避は不可能、防御しても下手すれば即死。そんな予感をひしひしと感じさせる剛腕が迫る。思わず死を覚悟したジークであったが……
「踏み込みが甘ぇ」
『謎のおっさんが【カバーリング】を使用。ジークをかばった』
『ライトニング・ギア・クイーンの攻撃』
『謎のおっさんが【円空掌】を使用。ジャストパリィ!攻撃を完全に防いだ』
『謎のおっさんが【虎爪脚】を使用。カウンター!ライトニング・ギア・クイーンに18771のダメージ』
絶体絶命のピンチと思われたその時、ジークの前におっさんが立ち塞がった。おっさんは円を描く掌の動きでクイーンの拳を弾いて防ぐと、同時に必殺の蹴りでカウンターを見舞う。
「お、おっさん……悪い、助かったぜ……」
「ったく、何やってんだ馬鹿野郎。さっさと怪我人共連れて下がりやがれ」
ジークにそう指示すると、おっさんは壊れかけの城門の前に立ち塞がり、構えを取った。
「こいつは俺がやる。近接組は斬り込んで、残りの雑魚共を足止めしろ!城壁に近付かれたらまた変形されっぞ!残りの連中は射撃と簡易錬金術で援護!」
「「「「「りょ、了解!!」」」」」
おっさんの指示で、ギルドメンバー一同が慌ただしく動き出す。
「アナライズ完了しました!弱点は衝撃と火炎属性です!逆に切断・刺突・疾風には耐性あり、電撃は完全に無効化されます!」
ユウが敵を解析し、そのデータを全員と共有する。
「【電撃戦】および【疾如風陣】を発動します!一気に敵陣に斬り込んで下さい!」
ギルドマスター・クックが【計略スキル】に分類されるギルドスキル――GvGやギルド単位でのボスレイド、グランドシナリオでのボス戦、そして防衛戦などの一部の大規模戦闘コンテンツでのみ発動可能な、ギルドメンバー全員に強力な強化をかけるスキルである――を発動する。
その効果により、ギルドメンバー全員の移動速度と攻撃速度、スキル発動速度や詠唱速度が飛躍的に上昇し、近接戦闘を行なうメンバーが一気に敵の群れに肉薄する。
「攻め込めーッ!!」
「職人魂を見せてやれ!!」
「俺は攻撃を行なう!!」
「ぶっ潰せぇーッ!!」
「敵の潜水艦を発見!!」
「駄目だ!」「駄目だ!「駄目だ!」「駄目だ!」「駄目だ!」
やかましい叫び声を上げながら、近接組がライトニング・ギア・ポーンの群れに殴りかかり、それを後衛が後ろから援護する。
少し前までのぬるい空気は一変し、戦場は一気に激戦の様相を見せる。
そして、城門の前では一際巨大な雷神機、ライトニング・ギア・クイーンとおっさんが対峙していた。
「さて……出てきて早々で悪ぃが、終わりにさせて貰うぜ!」
そう宣言すると、おっさんは力強く大地を踏み砕き、跳躍する。
普段は滅多に本気を出さず、むしろ敵が格下だと露骨に手を抜いたり遊び始めたりする、慢心癖が玉に瑕のおっさんだが、今日は珍しく最初から飛ばしていく様子だ。
その理由は戦場全体を俯瞰して見ればお分かりになるだろう。確かにギルドメンバー達は攻勢に出ており、士気も高いが、全体の戦況を見れば膠着状態か、やや有利といった様子である。
敵の雷神機も最新のアップデートで追加された、七柱神の配下だけあって相当な強敵である。おっさんや一部の超人プレイヤー達ならともかく、一般のプレイヤーにとっては、そう簡単に勝てる相手ではないという事だ。
そして、放っておけば敵は次々に追加で沸き続け、膠着状態が続けばいずれは押し切られるであろう事は想像に難くない。
ゆえに、おっさんはここで悠長に時間をかける訳にはいかないのであった。
「行くぜオラァ!」
おっさんが跳躍すると共に、その両手両足に紅蓮の炎が宿る。
雷神機の弱点は衝撃属性および火炎属性。ならば、その両方を満たす火炎属性の格闘アーツ……その中でも最強クラスの奥義を放ち、勝負を決める。
「食らいやがれ!秘拳――」
おっさんは空中で炎を纏う手足を縦横無尽に操り、文字通り火の出るような凄まじい勢いで連撃を繰り出した。拳打、掌底、手刀、足刀、貫手、蹴り上げ、一本指、肘打ち、膝蹴り!滞空しながら多種多様な打撃を、正確に一点のみに集中させていく。
「――朱雀ッ!!」
トドメに、炎を両手の掌へと集中させ、極大の炎の塊を零距離で叩き付ける。
これぞ格闘スキルの奥義の中でも最高級の威力と習得難易度を誇る【四神の秘拳】の一、【秘拳・朱雀】である。
その奥義を受けたライトニング・ギア・クイーンのボディに亀裂が入り、全身がバラバラに砕け散ると共に爆発炎上した。
おっさんはその残骸を一瞥すると、激戦を繰り広げる仲間達の元へと足を進めるのだった。
「おう野郎共!このまま一気に片付けるぜ、俺に続け!」
おっさんの言葉に、ギルドメンバー達の士気が天井知らずに上がる。
そしてその勢いのままに、ギルド【C】は襲来する雷神機を全て全滅させ、イグニスの街の防衛に成功するのであった。
そんな、勝利の喜びに沸く彼らを上空から見下ろす者がいた。
「ほう……吾輩の雷神機を退けたか……面白いな。どれ、少し遊んでやるとしようか」
天を覆う暗雲は晴れず、雷鳴は未だ不吉に鳴り続けている。
本当の戦いはまだ始まってもいないという事に、気付いている者は誰もいなかった。
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【秘拳・朱雀】
種別 アーツ/奥義
習得条件 【格闘・神】Lv75
クエスト「拳を極めし者の試練」をクリア
発動条件 素手または格闘武器
消費MP 2000
クールタイム 24時間
【効果】
①自身が対象。対象に以下の効果を与える。
[物理攻撃命中時、魔法攻撃力依存の火炎属性追加ダメージを与える]
②敵単体が対象。
対象に衝撃:100%の物理ダメージを20回与える。その後、
火炎:2500%の魔法ダメージ(物理&魔法攻撃力依存)を与える。
※【秘拳・青龍】から準備時間無しで連携可能。
※【秘拳・白虎】に連携可能。
【解説】
四体の聖獣の名を冠した秘拳の一つ。
一度この技が放たれれば、全てが灰燼に帰す。
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えー、大変長らくお待たせして申し訳ありません(白目)
ちょいと体調的な問題で一時期執筆どころか日常生活にも支障をきたす有様でして。
現在は完治には至りませんがだいぶ改善されましたので、何とか書き続けていきたい所です。
こんな有様ですがよろしければ今後も拙作を宜しくお願いいたします。




