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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
135/140

イグニス防衛戦!(前編)


『緊急警報発令。大陸西部エリア8・イグニスの上空に大規模な転移門が出現しました。該当地域を治めるギルドは防衛戦の準備をお願いします』


 突然発生したそのシステムメッセージを聞き、ギルド【C】のメンバーは作業の手を止めた。

 直近のアップデート【雷神機襲来!】にて発表された、防衛戦が始まるのだ。


「遂に来たか」

「よりによって我々を最初のターゲットに選ぶとは……嘗められたものだ」

「ククク、愚かな……」


 ギルドメンバー達は不敵な笑みを浮かべながら、ギルドマスターからの指示を待つ。


「緊急召集命令、コード【B-1】。現在ログインしている各チームリーダーとおっさんは、直ちに会議室に集合願います。城の外にいるメンバーは、いつでも帰還できるよう準備をお願いします。生産中のメンバーはそのまま作業を続行しつつ、緊急事態に備えて下さい。ギルドショップ担当メンバーはNPC店員に業務の引き継ぎを。営業チームはイグニス防衛隊、ドワーフ自警団、イグナッツァ神殿騎士団に連絡をお願いします。倉庫管理担当メンバーは、弾薬庫と薬品庫を開けて、いつでも取り出せるよう準備をお願いします」


 ギルドチャットにより、メンバー全員にギルドマスターからの指示が飛び、それに従って彼らは一斉に動き出した。

 ちなみにコード【B-1】は、種別が「防衛行動」、優先度が「高」を意味する。



  ◆



 それから数時間後。

 総出で防衛の準備を行ない、街を囲む城壁の強化、矢倉や防護壁、トラップの設置といった準備を終えた【C】のギルドメンバー一同は、イグニスの東門付近に集結していた。

 転移門が出現したのは、街から数キロメートル東に離れた場所の上空だ。敵がそこから出現するならば、最も近い東門から街に侵入しようとするだろう。

 他の出入り口にもNPCの兵士やガーディアンゴーレム、トラップ等を配置しているが、プレイヤーキャラクターを中心とした戦力の大半は、この東門に集中させてある。


「それはいいんだがよ……何で外に出てるのが俺一人なんだ?」


 城壁の上にいるギルドメンバー達を、ただでさえ鋭い目を細めて睨みながら、そう問い詰めるのはいつも通りのボサボサの黒髪に無精髭、煙草を咥えた人相の悪い中年男。右肩から先が機械化されている。ご存知謎のおっさんだ。その服装はいつもの白いツナギではなく、戦闘用の黒いライダースーツと、セットのグローブ・ブーツを着用している。

 そのおっさんだが、彼はたった一人で城門の前に立っていた。それ以外のギルドメンバーはと言うと、おっさんの視線の先、すなわち城壁の上に百名以上のギルドメンバーが並んでいる。


「おいてめえら、ふざけてんのか。降りてこい」


 おっさんはそう言って、彼らに向かって手招きするが……


「いや、俺らほら、か弱い生産職人だから……」

「自分達はここから銃とかで援護しますんで……」

「もうおっさん一人でいいんじゃないかな」


 等と、頑として下に降りる事を拒否し、城壁の上から動かない。


 何故このように、おっさん一人がまるで罰ゲームのように城壁の外に放り出されているのか?その理由は、それが最も犠牲が少なく勝利するための作戦であるからだ。

 このギルド【C】は既に読者の皆様もご存知の通り、生産や商売に特化したギルドだ。勿論、職人でありながら戦えるメンバーも一定以上は在籍しているものの、やはり戦闘に特化したプレイヤーと比較すれば、その戦闘能力はやや見劣りする。

 そこで彼らは、どうすれば犠牲や損害を最小限に抑えて勝利できるかを考え、以下のような結論に至った。


 Q1:敵が街に侵入する為の条件は?

 A1:城壁を破壊するか、城門を突破する


 Q2:城壁を壊させないためにはどうすればいいか

 A2:城壁の外をトラップで埋め尽くし、ギルメン全員を城壁の上に配置。

    全員で射撃・砲撃を行ない、城壁に辿り着けなくすればいい。


 Q3:そうすると肝心の城門が手薄になるのでは?

 A3:城門の手前にどうやっても倒せないようなバグキャラを配置しろ。


 Q4:以上の答えから、どのような作戦を取るのが最適か答えよ

 A4:城門前におっさんを配置し、その他メンバーは後方から援護すべし



 ほぼ満場一致でこの作戦は受け容れられた。おっさんは最後まで反対していたが、ギルドメンバーがここぞとばかりに


「そっかー、流石のおっさんでも無理かー(チラッ」

「幾らおっさんでも一人で大群を相手にするのは怖いのかー(チラッチラッ」

「ヘイヘーイ、おっさんビビってるー」


 等と煽りはじめ、それに対して売り言葉に買い言葉で


「やってやろうじゃねえか!」


 と言ってしまった為、もはや後に引けない状態になり、今に至る。なお、無謀にもおっさんを煽った彼らはおっさん式殺人コブラツイスト、おっさん式殺人バックドロップ、おっさん式殺人ドロップキック等により撃沈した。

 クソ野郎共が、後で覚えてやがれ。心の中でそんな悪態をつきながら、おっさんはたった一人で城門の前に立ち、モンスターの軍勢が出現するであろう、上空に設置された転移門を睨みつける。


 そしていよいよ、その時は来た。


『これより、防衛戦を開始します』

『Wave1 Start!!』


 そのシステムメッセージと共に、転移門が光り輝き、そこから大量のモンスターが出現し、重力に従って降下していく。

 モンスター達はそれぞれ、地面に降り立つと同時に城壁に向かって走り出し……


「今です!トラップ起動!」

「了解!トラップ起動ォー!!」


 毒針まみれの落とし穴に落とされたり、ワイヤーに引っかかって動けなくなった所に大量の矢が飛来したり、ジャンプ台を踏んで吹き飛ばされた先に設置されていたぶっとい杭に貫かれたり、地雷を踏んで下半身を丸ごと吹っ飛ばされたり、いきなり地面から飛び出してきた拘束具で足を止められた所をギロチンで真っ二つにされたり、突然足元の地面が底なし沼に変わって抵抗虚しく沈んでいったり、その他様々な【C】メンバー謹製デストラップの餌食になり、出現したモンスター達は呆気なく全滅した。


『Wave1 Clear!!』


 クリアタイム僅か7秒という空前絶後の記録を打ち立て、敵の第一陣を全滅させたギルド【C】。だが戦いは、まだまだ始まったばかりである。

 ちなみにおっさんは城壁にもたれ掛かり、雲一つない青空を見上げながら煙草を吸っていた。


『Wave2 Start!!』


 先程と同じように、転移門から大量のモンスターが出現し、城壁に向かってくる。


「魔導キャノン、一斉射撃開始!撃てぇぇぇ!!」

「了解!大魔弾【コキュートス】発射します!」

「同じく大魔弾【タルタロス】発射!」

「大魔弾【ムスペルヘイム】用意、発射!」

「大魔弾【ミストルティン】発射ァ!」

「大魔弾【ブリューナク】発射!」

「大魔弾【ガイア】発射!」

「大魔弾【サンドワインダー】発射!」

「大魔弾【ジャッジメント】発射!」


 城壁に設置された、大魔弾を射出する魔導砲。その無慈悲な一斉射によってモンスターが全滅した。それどころか余波でフィールドの地形が滅茶苦茶にされた。明らかにオーバーキルである。


『Wave2 Clear!!』


 ちなみにおっさんは、やる事がなくて暇なのでギルドの食堂で販売している特盛ラーメンセット(全部乗せ特盛り醤油ラーメンとライス(大)、餃子6個と漬物のセット、お値段1800ゴールド)を食べていた。

 連日大賑わいのギルド食堂の中でも、特に人気メニューの一つである。


『Wave3 Start!!』


 またもや大量のモンスターが出現する。


「よし、ここは俺に任せて貰おうか。丁度新兵器のテストをしたかった所だ」


 そう言い放ったのは、眼鏡を掛けた白衣姿の男。魔導技師のジークだ。今回ギルドメンバー達が防衛のために使用している銃座や魔導キャノンは彼が作った物である。

 銀縁眼鏡を指でクイッと押し上げつつ、ジークが指令を下す。


「いでよアルカナウェポン、【No.10(ナンバーテン) Wheel(ホイール) of(オブ) Fortune(フォーチュン)】ッ!!」


 その言葉と共に、彼の周囲に複数の魔導兵器が出現した。

 その兵器は、直径3メートルほどの巨大な車輪のような見た目をしていた。それらは車輪に組みつけられた魔導ロケットモーターにより高速回転しながら、一斉に敵陣に向かって猛然と走り出した。

 そしてその勢いのまま、それらはモンスター達に体当たり攻撃を開始する。次々とモンスター達を轢き殺しながら縦横無尽にフィールドを駆け回るその兵器は、かつて第二次世界大戦中に開発された、とある兵器に酷似した外見をしていた。


「あっ、あれは……パンジャンドラム!?」


 そう、その兵器の名こそパンジャンドラム。かつてイギリスが開発し、失敗に終わった世界の兵器史に燦然と輝く最高レベルのネタ兵器である。

 大小様々な問題によりまともに運用する事が不可能であり、開発中止されたパンジャンドラムであるが、今回ジークが作ったこのパンジャンドラム、もとい【Wheel of Fortune】は、それらの問題を全てクリアして実用可能な物に仕上がっている。

 どんな悪路であろうとスピードを殺す事なく走破するバランス、高感度センサーにより敵をどこまでも追いかけて轢殺する追尾性能、多少の反撃を受けてもビクともしない耐久性、そして……


「よし、今だ!」


 兵器の攻撃によってモンスター達が粗方ダウンした事を確認し、ジークが手元のスイッチを押す。するとフィールドを走り回っていた【Wheel of Fortune】がその場で横転し、猛烈に回転しながら周囲に大量の小型爆弾を撒き散らし始める。そして数秒後、その動作が終わると同時に、【Wheel of Fortune】は一斉に自爆を行なった。

 周囲に散布した小型爆弾も次々と誘爆し、フィールドを埋め尽くすほどの大爆発が巻き起こる。先程の大魔弾の一斉掃射と合わせて、フィールドの地形は目を覆わんばかりの惨状である。


「やっぱりパンジャンドラムじゃねーか!」

「もうやだこの変態技術者……」


 そんなギルドメンバーのツッコミも意に介さず、ジークは新兵器の成果に満足げな笑みを浮かべるのだった。

 ちなみに彼の秘密兵器であるアルカナウェポンシリーズは、タロットの大アルカナの数だけ存在する。こんな変態兵器がまだ残り二十一種類も存在する事に気付いてしまった貴方は1D10/1D100のSANチェックをどうぞ。


『Wave3 Clear!!』


 ちなみにおっさんはその間、七輪でスルメを炙って、食後の酒のつまみにしていた。酒はおっさんやクック率いる料理人達がドワーフに製造法を伝達し、現在はドワーフ自治領で大々的に製造されているイグニス名物の特上芋焼酎【灼熱】だ。炎神イグナッツァの神殿にも奉納されている絶品である。


『Wave4 Start!!』


 またもやモンスターが多数出現する。今度はワイバーンやサンダーバードといった、空を飛ぶ敵が多数を占めている。城壁を飛び越えて、空から街を狙う事を狙った編成のようだ。


「ふん、甘いわぁ!」


 そう一喝して大弓を構え、一度に十本もの矢を同時に放つ老人がいた。木工職人達のリーダーでありギルド最年長の御意見番にして、弓使いとしては最強の一角に位置する男、ゲンジロウだ。

 彼は次々と矢を纏めて放ちながらモンスターの眉間を貫き、撃ち落としていく。そんな中、ゲンジロウはおっさんに声をかけた。


「おい小僧、良いモン飲んどるじゃないか。儂にも一杯よこさんかい」

「へいへい、ほらよ!」


 おっさんはグラスに酒を注ぐと、それをゲンジロウに向かって投げた。乱暴に投げたように見えて、中の酒を一滴も零さぬ絶妙なコントロールだ。ゲンジロウはキャッチしたそれの中身を一気に飲み干す。体の芯まで一気に熱くなるような、強い酒が染み渡る。


「かーっ、効くのう!よっしゃあ、まだまだ続けていくぞい!」


 ゲンジロウはますますペースを上げて、高速で矢を纏めて番え、放つ。適当に乱れ撃っているように見えるそれらは、全て狙い違わずモンスター達の急所を貫いていった。


「俺達も続け!撃ちまくれ!」

「矢が当たって弱った敵からハチの巣にしてやれ!」

「相変わらずゲン爺の弓はとんでもねえな!」

「つーかジジイ元気過ぎだろ……」

「俺ら若者も負けてらんねえだろ。よし、早速ヘッドショットいただきぃ!」


 ゲンジロウの活躍に奮起し、ギルドメンバー達もそれぞれ弓や魔導銃を構えて撃ちまくる。


『Wave4 Clear!!』


 おっさんはそんな様子を見ながら城壁にハンモックを吊るし、昼寝を始めていた。

 あまりの楽勝ムードに、すっかりやる気を無くした様子である。

 それはギルドメンバー達も同じようで、あっさりと死んでいくモンスター達の姿を見て、すっかり油断しきった様子である。

 だが次の瞬間、事態が一変する。


『Wave5……Lightning Gear Attack!!』


 そのメッセージと共に、雲一つ無かった青空は黒く、厚い雲に覆われ始め、その後フィールド全域に大量の雷が降り注いだ。

 そして、その雷が落ちた先に現れたのは……


「なっ……あれは……!」

「人型ロボット……だと!?」


 そう、そこに現れたのは全長3メートル程の、二足歩行する人型の機械兵士の軍団であった。

 その名は【雷神機ライトニング・ギア】。

 本当の戦いは、これから始まる。

大変お待たせしました。

相変わらず色々あって投稿ペースが遅くなっており申し訳ありませんが、そんな拙作でも楽しみに待っている読者の皆様には頭が上がりません。

できる限り面白い物をお届けできるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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