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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
131/140

35.女体化テロリスト(1)

「おっさーん、抽出と解析終わったぞー」


 爆発でとっ散らかった工房内を片付け、発生したガスの元となった薬品を瓶に詰め終えた男が、そう声をかけた。

 彼が声をかけたのは、今やアワレにも幼女と化してしまったおっさんだ。おっさんはソファーにどっかりと腰かけ、頭の上にヴォーパルを乗せたままココナッツ・ミルクをストローで飲んでいた。


「ご苦労」


 幼女と化しても相変わらずのふてぶてしい態度で、おっさんは薬品の入った瓶を男から受け取った。瓶は二つあり、それぞれ赤色と青色のポーションが入っているようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【TSポーション】


 種別 薬

 品質 ★×10


 【効果】

 服用、または浴びた者に【状態異常:性転換】を付与。

 一時的に異性に変身する。ステータスへの補正は無い。

 効果時間は24時間。

――――――――――――――――――――――――――――――

 【子供化ポーション】


 種別 薬

 品質 ★×10


 【効果】

 服用、または浴びた者に【状態異常:子供化】を付与。

 一時的に年齢を大きく引き下げ、全ステータスにマイナス補正。

 効果時間は24時間。

――――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど。この二つの薬の効果のせいで、俺は今こうなってる訳かい」


 おっさんは二つの薬品を観察し、その効果を確認すると、諦めたように溜め息を吐いた。そしてソファーから億劫そうに立ち上がると、工房の外に向かって歩き出す。


「おっさん、何処行くんだ?」

「どうせ放っときゃ24時間後には元に戻るんだろ?折角だからこの恰好で遊んで来らぁ。それとこの薬は貰っていくぜ?」

「ああ、それは別にいいけどよ、まだ残ってるし。おっさん子供化のせいでステータスが酷い事になってるだろ?大丈夫なのか?」

「あー平気平気、俺を誰だと思ってやがる。それに……どうやら此処に居たほうが危険そうだしな」


 そう言い残して、おっさんは去っていった。

 男はおっさんの言葉の意味がわからず首を傾げるが、それからおよそ三十秒後。


「おっさんが幼女化したと聞いて!おっさんは何処ですの!?」


 鼻息も荒く、女児用のヒラヒラした服を両手に抱えたアンゼリカが工房のドアをブチ破って入ってきたのを見て、おっさんの危機察知能力パネェと恐れおののく職人達だった。


 そうして、おっさんは素早く自室兼工房へと戻ると、内側からドアに鍵をかけた。


「ちょっ、どちら様!?」


 工房内ではおっさんの直弟子で、ギルドの幹部を務める職人の少女、ユウが鍛冶台で剣を鍛えていた。彼女は突然入ってきた幼女の姿を見て、驚いて作業の手を止める。


「俺だ。この恰好見りゃあ分かるだろうが」

「うぇっ!?師匠……ですよね……。何でそんな姿に……?」


 よくよくその幼女を見てみれば、服装や機械化した右腕、頭の上に乗ったウサギや口に咥えた煙草、そしてぶっきらぼうな口調や尊大な態度など、彼女の師匠たるおっさんとの共通点は随所にある。

 とはいえ、あの殺人的に人相の悪い不良中年が、突然このような可愛らしい幼女と化したという事実が信じられずに、混乱するユウだった。

 そんなユウに、おっさんは先ほど入手した薬を見せつつ事情を説明する。


「……成る程、そんな事が。しかし偶然の産物だとしても、またとんでもない物が出来ましたね」

「おう、そうだな。……よし、完成だ」

「師匠、それ何作ってるんですか?」


 説明をする傍ら、おっさんが魔導工作機で制作していた物が完成したようだ。ユウはそれが何なのかを確認するべく、おっさんの手元を覗き込んだ。


「……って、魔導銃のカートリッジじゃないですか」

「おう、実はさっきの薬を使ってカートリッジを作ってみたのさ」


 おっさんが作っていたのは、魔導銃に装填するためのカートリッジであった。内部に蓄積された魔力を消費して、魔力弾を放つ為に使用される。

 おっさんは腰のホルスターから魔導銃剣を抜き、そのカートリッジを装填した。


「というわけで、ばーん」


 おっさんは魔導銃剣の銃口をユウへと向けると、一切躊躇する事なく引鉄を引いた。子供化弾が発射され、ユウの頭部に命中するかと思われたが、


「【エアリアルシールド】ぉぉ!」


 その寸前に、ユウは腰のベルトに取り付けられたカードホルダーより、一枚のカードを取り出して【簡易錬金術】を発動させた。

 錬金術・エアリアルシールド。自身の周囲に大気の壁を作り、ごく短い時間だが射撃攻撃を完全に無効化できる便利な魔法だ。


「くそっ、読まれてたか」

「そりゃ読めますよ!いかにも何か企んでそうな悪い顔してましたもの!ていうか私を実験台にするのやめましょうよ!ぶっ飛ばしますよ!?」

「ちっ、しゃーねえ。なら他の奴で遊んでくるとすらぁ」


 右手にジェット噴射による加速機構を内蔵した魔導機械式のハンマーを、左手に数枚の錬金術カードをそれぞれ構え、距離を取るユウにつまらなそうな視線を向けた後に、おっさんは窓を開けて飛び降りた。


「あばよ!」


 飛び降りながら、おっさんはアイテムストレージから、金属で出来た小型のリュックサックのような物を取り出して背負った。携行用の飛行ユニットだ。

 ドヒャア!ドヒャア!という音と共に、飛行ユニットのブースターから緑色の光が放たれる。おっさんは急加速しながら、イグニスの街に向かって飛んで行った。


「親方!空から女の子が!」

「何言ってんでぃ馬鹿野郎。くっちゃべってないで手ぇ動かせ」


 たまたまその姿を目撃していたドワーフの若者(NPC)が、壮年のドワーフに拳骨を落とされていた。そんな光景を眼下に見つつ、おっさんが飛んでいった先はドワーフ居住区の中心。

 炎神イグナッツァの神殿である。


 見れば、かの炎神は神殿の外にて、冒険者プレイヤーたちの相手をしているではないか。

 これは好都合。おっさんはほくそ笑んだ。


「ターゲット、ロック……シュート!」


 おっさんはスナイパーライフルを取り出すと、飛行しながら空中で器用に狙いを付けて引鉄を引いた。放たれた弾丸は、狙い通りの場所に向かって飛んだ。


「むっ……殺気!?」


 イグナッツァがそれを察知し、振り返る。だが遅い。おっさんのスナイパーライフルから放たれたTS弾がイグナッツァに命中した。

 すると、何と言う事だろうか!筋骨隆々の偉丈夫であったイグナッツァの体が、みるみるうちに変化していくではないか。

 赤い頭髪や褐色の肌はそのままに、筋肉の鎧で覆われた体は女性らしい丸みを帯びた豊かな体つきに、厳つい顔は絶世の美女へと変わっていく。


「な、何だこれはああああああああ!?」


 一瞬の後、そこには褐色肌のエキゾチックな長身の美女の姿があった。ちなみに、イグナッツァ氏の普段の恰好は、下半身はズボンだが上半身は裸がデフォである。ゆえに今、その豊満な胸部が曝け出されており非常にまずい事になっているが、生憎とこのゲームは全年齢対象(但し、十三歳未満のプレイヤーに対しては制限有り)であり、KENZENである為、先端部は不自然な光によって巧妙に隠されている。猥褻は一切ない。いいね?


「フハハハ、やったぜ」


 それを見届けると、おっさんはブースターの出力を全開にして飛び去った。


「さーて、次はどいつを狙おうかな。クックック」


 高速で空を飛びつつ、邪悪な笑みを浮かべる幼女おっさん

 幼女化した事で落ち込むかと思ったらそんな様子も見せず、むしろ面白い玩具を見つけたと言わんばかりにギラギラと目を輝かせているではないか。

 かくしてアルカディア史に残る、おっさんによる三大テロ事件の一つに数えられる未曽有の大事件が幕を開けたのであった。

お待たせしました。

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