34.謎のおっさん、爆発する
ギルド【C】のメンバーを中心に、アルカディア内には多くの、生産スキルによるモノ作りをメインに活動している者達――通称、職人プレイヤーが存在している。
それは鍛冶師であったり、裁縫師であったり、料理人であったり、魔導技師であったり、木工職人であったりと、実に様々な種類の職人がいるわけだが、今回はそのうちの一つ……【調合】スキルを使う職人、製薬師プレイヤー達に光を当ててみようと思う。
ギルド【C】のギルドキャッスルは、一階は一般向けに公開されており、そこはギルドメンバーが作った多種多様なアイテムを販売するギルドショップが大部分を占めている。毎日のように多くの客が、稀少で高品質なアイテムを求めて訪れる場所だ。
その反面、二階より上はギルド幹部の許可が無ければ、部外者は立ち入り禁止のエリアとなっている。何故か?それは、そこにはギルドメンバーがアイテムを作成する場所……すなわち工房になっているからだ。
ギルド【C】はアイテムの生産・販売に特化した職人のギルドだ。当然のようにトップクラスの職人を何人も抱えており、彼らが研究の末に見つけ出し、作り出した独自の技術を多く所持している。それはギルドで共有している物もあれば、特定の個人だけが持つ物もある。
そうである以上、そんな極秘の知識・技術が使われる、アイテム作りの現場に部外者を立ち入らせる訳にはいかぬのだ。ちなみに侵入者やスパイは見つかり次第、ギルドメンバー総出でボコられた挙句におっさんに引き渡される。
前置きが長くなったが、この日、おっさんはそんな工房の一つへと足を向けていた。頭の上には赤い毛並の丸いウサギ、火兎のヴォーパルが乗っかっている。
「おう、やってるかアホ共。つーか今日も薬品臭ぇなぁ」
ノックもせずに扉を無造作に開け放つと、おっさんは中にいた職人達に声をかけた。その声に反応して、調合壺に向かっていた職人達が振り向く。
ここは調合師たちが薬を作るための工房、調合室だ。内部では製薬師たちが素材を乳鉢ですり潰していたり、薬品の入った壺をかき混ぜたりしている。
「あ、おっさんだ」
「おっさんチーッス」
「きた!実験台きた!これで勝つる!」
「おっさん良い所に来たな!ちょっとこの薬を飲んでみないか?」
「今日は兎も一緒か。バイオニンジン食うか?」
おっさんは薬を薦めてくる男から、紫色の薬品が入った瓶を受け取ると、おもむろに栓を開けて、その中身を目の前の男に頭から浴びせた。男のHPが凄い勢いで減り、様々な状態異常が発生した。
ついでにおっさんの頭の上に乗っているヴォーパルが、毒々しい紫色の人参を差し出してきた男の首を手刀で無慈悲に刎ね飛ばした。
そんな大惨事を横目に見ながら、職人達は平然としている。この程度の事でいちいち驚いているようでは、このギルドで生き残れはしない。
「で、おっさん何の用だ?」
「おう、用件な。実はさっき品質★×10のマンドレイク拾ったから持ってきたんだが……」
「なん……だと……!?」
「ゆずってくれ、たのむ!」
「ころしてでも うばいとる」
「馬鹿やめろ!相手はおっさんだぞ!?」
おっさんがアイテムストレージを操作して、人型の根菜のような植物を取り出すと、職人達が一斉に食いついた。
マンドレイクは非常に稀少な植物素材であり、滅多に手に入らない上に栽培も不可能な、特別な薬の材料だ。そして★×10の最高級の物となると、これまで誰も発見した事がないほどだ。
「おお……本物だ……。おっさん、これ何処で拾った!?」
「それがな?今日ちょいと素材集めをしようと世界樹をよじ登ってたらよ、てっぺん辺りで緑色のでけえドラゴンが襲ってきやがってな。そいつ倒したらぽろっと出たぜ」
「ほーう。新手のフィールドボスかな?」
ちなみにおっさんが口にしたドラゴンは、世界樹の一番上に巣を作り、そこに財宝を溜め込んでいるという設定の隠しフィールドボスである。狭く不安定な足場で、空中を高速で飛び回り、風を操るドラゴンと戦わなければならない非常に高難易度のボスだ。流石のおっさんも、タイマンだとほんのちょっぴり苦戦した。
「つーわけで誰か買え。ギルメン割引価格で1M(100万ゴールド)ぴったりでいいぜ」
「よし、買った!」
おっさんの提示した価格に、製薬師の男が二つ返事で頷き、商談はあっさりと成立したかに見えたが……
「ちょっと待った!なら俺は1.2M出すぜ!俺に売ってくれ」
「ダニィ!?だったら俺は1.3Mだ!」
「おっと、俺を忘れてもらっちゃあ困るな!1.5Mだ!」
「ちょっ、お前ら……!?」
その場にいた製薬師たちが、その交渉に次々に割り込んでくる。俺が俺がと叫びながら、彼らはおっさんの持つマンドレイクへと手を伸ばした。
「「「「「あっ!?」」」」」
そうやって大勢が一斉に手を伸ばした結果、おっさんの手からマンドレイクが弾き飛ばされる。マンドレイクは放物線を描いて、部屋の奥に向かって飛び……
「「「「「あーーーーーーーっ!!!」」」」」
ぐつぐつと煮えたぎった薬品が入った、調合壺にホール・イン・ワン。
そして、新たに予期せぬ素材が投入された薬品が、妖しげな緑色の煙を噴き始めたではないか。煙はみるみるうちに、部屋中に充満していった。
「あああ、やっちまった……折角の素材がぁぁ……」
「って、言ってる場合か!この煙、どんな効果があるかわかったモンじゃないぞ!」
「全員、部屋の外に退避しろ!」
ばたばたと慌ただしく逃げ出す職人達を見ながら、おっさんはいつも通りマイペースに、呆れた様子で肩をすくめた。
「あーあ、何やってんだか全く。またこの間みたいにボヤ騒ぎ起こしたりしねえだろうな?この煙、火でも着いたら爆発しそうだしよぉ」
「もきゅ!」
そう言って、おっさんはいつもの癖で煙草を口に咥えた。それを見て、ヴォーパルが同じようにいつもの癖で、炎を出して煙草に火を点けた。
「あっ……」
それを見た職人達は、大急ぎで部屋から逃げ出した。
「あ?」
物凄い勢いで爆発が起き、工房が吹き飛んだ。
「ん?なんだこの爆発音?」
「どうせまた製薬師のアホ共だろ」
なお、爆発や小火などの騒ぎはだいたい週に一回くらいのペースで起きるため、ギルドメンバーは誰も気にしなかったという。
そして、爆発事故の現場では……
「おーい、おっさーん!自業自得な気もするけど大丈夫かー!?」
「ゲホッ、ゲホッ……おう、何とかな……。煙てえし周りは見えねえが、とりあえず無事だぜ」
妖しい色の煙が漏れ出す部屋の中から、返事をしながらおっさんは部屋の外に出た。部屋の外には先に避難した職人達が待っていたが、彼らは出て来たおっさんの姿を見た瞬間、まるで石化の呪いをかけられたかのように固まった。
「……もしかして、おっさん、なのか?」
「あ?何言ってんだオメー。俺は俺に決まってんだろうが。……つーかおめーら、いつの間にそんなデカくなりやがった?」
職人達を見上げて、おっさんはそう言った。
「……おっさん、落ち着いて自分の姿を見てみようか」
そんなおっさんに、職人の一人がアイテムストレージから姿見鏡を取り出して、おっさんの前に立てた。
おっさんの目に、鏡に映し出された自分自身の姿が映る。
だが、そこにあったのはいつものおっさんの姿ではなかった。
鏡に映っていたのは、ツナギを着た、右腕に機械義手を装着した、黒髪の目つきが鋭い、
「な……なんじゃこりゃあああああ!?」
どう見ても小学生にしか見えない、十歳くらいの小柄な少女であった。
謎の薬によりおっさん幼女化。
多分そんなにかからずに元に戻る、はず(ほぼ用を成さないプロットをチラ見しつつ)
次回は早めに投稿できたらいいなぁ(仕事の予定をチラ見しつつ)
あとジャンル変更とかがあったみたいなので、ジャンルをVRゲームに設定しました(今更)