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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
129/140

33.おっさんによる簡単初心者講座

「新人の指導だと?」

「ええ、是非おじさまにお願いしたいと思いまして」


 ギルド【C】本城の応接間にて、高級なソファーに腰掛け、机を挟んで向かい合うのは一組の男女だ。男性のほうは白いツナギを着た、目つきの悪い中年男性。この城の城主であるギルド【C】の創設者にして前ギルドマスター、謎のおっさんである。

 そんな彼に、丁寧に頭を下げるのは長い黒髪の、巫女服を着た和風美人。彼女の名はカエデ。控え目でお淑やかな性格の大和撫子だが、こう見えておっさんと並ぶレベルのトッププレイヤーであり、ギルド【流星騎士団】の副団長を務める強者だ。


「そりゃあ、お前さんの頼みなら嫌とは言わんがね。何だって俺に?そっちのギルドにゃ、俺なんぞより向いてるのが大勢居るだろうに」

「確かに、普通ならばギルドメンバーの中から指導役を選ぶところなのですが……今回指導してただきたい相手は、格闘を主に使う方々でして」


 おっさんが素朴な疑問を口にし、カエデがそれに答える。その答えを聞き、なるほどとおっさんは頷いた。

 ギルドにはそれぞれ、ある程度の特色がある。【流星騎士団】であれば、団長を中心にガチガチに防御を固めた壁役タンクが前線を押し上げ、それを回復役ヒーラーが支援しつつ、弓使いが後方から援護射撃を行なう戦術が定番だ。

 勿論、そういったギルドの色とは異なるタイプのメンバーも、少ないとはいえ在籍してはいる。それがある程度の経験を積んだプレイヤーならば、お互いにある程度連携を取る事は可能だ。

 だが新人となると、ステータス値の振り方やスキル構成が大きく異なるタイプのプレイヤーに指導を行なうのは中々難しい。

 ゆえに今回、【流星騎士団】の幹部達は交流のあるプレイヤーの中で、最も格闘に精通したおっさんに指導を依頼する事にしたのである。使者をカエデにしたのは、団長の側近である彼女を使者とする事で最大限の礼を尽くしたのが一つ。それから、おっさんに頼みを断りにくくさせるための作戦というのが一つ。傍若無人なおっさんでも、この女性の頼み事はなかなか無下にできないのであった。


「それならいっそ、レッドにでも頼んだら良かったんじゃねえかい?アイツの格闘もなかなかのモンだし、シリウスもお前さんも、俺よりアイツの方がよっぽど仲が良いだろうに」

「ちょっ、やめてください!あの子に指導なんかさせたら、どんな大惨事が起きるか……」


 冗談でおっさんがそう口にすると、カエデは本気で青ざめて、勢いよく首を横に振った。おっさんはそれを見てゲラゲラと笑いつつ、


「ま、その頼みは引き受けた。それと……どうせやるならいっその事、もっと大々的にやろうじゃねえか」


 と、依頼を快諾するのであった。

 そして次の日。イグニスの街に建てられた訓練場にプレイヤー達が集められた。

 城下町にあるこの訓練場は、ギルド【C】が総力を挙げて建築した大規模なトレーニング施設で、プレイヤーは勿論、イグニスの住人やドワーフの戦士達にも好評だ。炎神イグナッツァも愛用している。


「よく来たな小僧共。俺が今日の指導役を担当する、謎のおっさんだ」


 腕を組み、仁王立ちした格好で挨拶するおっさんの前には、大勢のプレイヤーが集まっていた。

 あの後、おっさんは急遽イベントを企画し、アルカディアBBSにスレッドを立てた。また同時に、ギルド【アルカディア放送局】に依頼して宣伝も行なった。内容は以下のような物である。





 スレッドタイトル おっさん式ブートキャンプ開催のお知らせ



 1.謎のおっさん

 明日、イグニスの訓練場で19時から格闘教室をやるぞ。

 この俺が直々に、お前達におっさん式殺人格闘技を叩き込んでやる。

 今回は初心者向けの指導を行なう予定だ。

 初心者は勿論、そうでなくても新しく格闘を覚えたい奴等も参加可能。

 参加は一人からでも歓迎するし、ギルド・団体割引もあるぜ。

 それと、ステータス合計値が5000以下の初心者は受講料無料だ。

 それじゃ、お前らの参加を待ってるぜ。


 2.

 2get……っておっさんキタ―――!?


 3.

 おっさん何やってんすかwww


 4.

 ちょwwこれは参加するしかねえ。格闘スキル取らなきゃ(使命感)


 5.

 ステータス合計5000以下って初心者だったのか……


 6.

 今ならギリギリ初心者と言えなくもない……か?


 7.

 ちなみにおっさんのステータスってどれくらいなんですか(震え声)


 8.謎のおっさん

 STR 27000

 AGI 29000

 VIT 15000

 DEX 45000

 MAG 31000

 スキル・装備なんかの補正込みで大体これくらいかな。


 9.

 ファーwwwwww


 10.

 化け物化け物アンド化け物


 11.エンジェ

 STR 12000

 AGI 18000

 VIT 8000

 DEX 32000

 MAG 50000

 我はこれくらいかな(便乗)


 12.

 魔王様も来たw


 13.

 MAGが……俺の10倍だと……!?


 14.シリウス

 STR 24000

 AGI 15000

 VIT 50000

 DEX 25000

 MAG 22000

 折角なんで僕も貼っておきますね(便乗)


 15.

 王子も来たw


 16.

 なんぞこの防御力……


 16.エンジェ

 STR 35000

 AGI 33000

 VIT 30000

 DEX 32000

 MAG 35000

 ついでに兄上はこんな感じ


 17.

 何このバランス型。つよい(確信)

 しかし魔王様、勝手にステ貼っていいのか


 18.

 龍王様は相変わらずバランス型の希望の星やでぇ……


 19.カズヤ

 お前来月の小遣い90%カットな


 20.エンジェ

 !?





 途中で色々と脱線したが、ともあれこの告知に釣られて多くの初心者や、格闘スキルを始めようとするプレイヤーが集まった。

 おっさんはそんな彼らの前に立ち、指示を出す。


「よし、じゃあ初心者向けって事で……基本的なコンボから教えていくとするかね」


 そう言っておっさんがパチン、と指を鳴らすと、丸太で出来た人形がその場に出現した。プレイヤー達がチュートリアル等でお世話になった、訓練用の木人だ。

 木人は起き上がると、おっさんに向かって突進を開始する。


「まずはローキックだ。素早く、鋭い蹴りで相手の出鼻を挫くのがポイントだ」


『訓練用木人の攻撃』

『謎のおっさんが【おっさん式殺人ローキック】を発動』

『カウンターヒット クリティカルヒット 11438のダメージ 移動力低下Lv10を付与』

『訓練用木人の左脚部位を破壊した』


 木人はおっさんに近付き、拳で攻撃しようとするが、その寸前におっさんが稲妻の如く鋭いローキックで木人の左足首を粉砕した。おっさんはそのまま、次の攻撃に移った。


「ここで相手が崩れたら、そのままフィニッシュに移行してもいいが……ここは念のため、牽制も兼ねてもう少し削っておく」


 おっさんは軽く左拳を握ると、それを素早く連続で突き出した。


『謎のおっさんが【ソニックジャブ】を発動』

『3ヒット 合計4310のダメージ』


「ジャブはこう軽く握って、インパクトの瞬間に強く握るのがポイントだ」


『謎のおっさんが【フリッカージャブ】を発動』

『5ヒット 合計14255のダメージ』


 説明しながら、おっさんは木人に追撃を加える。


「こうやってガードを崩したら、次はボディを攻める。まずは一気に距離を詰めて、鳩尾にショートアッパーだ」


『謎のおっさんが【ライジングアッパー】を発動』

『18540のダメージ』

『謎のおっさんが【アーツキャンセル】を発動 ライジングアッパーはキャンセルされた』


「今使ったのは格闘の初級アーツ【ライジングアッパー】だ。本来は跳び上がりつつアッパーカットをする多段ヒットするアーツだが、今回は一段目が入った時点でキャンセルして、次のアーツに繋げる」


『謎のおっさんが【ライトニングエルボー】を発動』

『クリティカルヒット 31800のダメージ 麻痺を付与』

『訓練用木人の胴部位を破壊』


「間髪入れずに、鳩尾に肘打ちだ。ヒジやヒザみてーな、人体の中でも硬い部分は下手に当てると簡単に人をブッ殺せるからな。現実リアルで使うときは注意しろよ」

「あの、何でそんな危険な技を教えるんでしょうか」

「決まってんだろ、上手く当てりゃあ簡単にブッ殺せるからだよ」

「アッハイ……」


 思わず疑問を口にした男性プレイヤーは、おっさんの素晴らしい回答に納得した様子で頷いた。目のハイライトが消えかけているように見えるかもしれないが、気にしてはいけない。いいね?


「そして、ここまでやったら後は各自の好きな技でフィニッシュだ。お気に入りの必殺技を、隙だらけの相手に叩き込んでやりな」


『奥義発動 謎のおっさんが【覇王百烈脚】を発動』

『100ヒット クリティカルヒット 合計125000ダメージ』

『秘奥義発動 謎のおっさんが【秘拳・青龍】を発動』

『9ヒット クリティカルヒット 合計358000ダメージ スタンLv10を付与 出血Lv10を付与 風属性耐性低下Lv10を付与』

『訓練用木人の頭部位を破壊』


 おっさんが残像を残しながら無数の蹴りを放つ。そしてトドメに放ったハイキックは暴風を巻き起こしながら木人を切り刻み、天井まで吹き飛ばした。


「で、ここまでやってまだ生きてるなら、後はマウントを取って延々と殴るなり、踏んづけるなりして追撃だ」


『謎のおっさんが【パワーストンプ】を発動』

『20489のダメージ』


 天井まで打ち上げられた後に、床に落下した木人に対して、おっさんは容赦の無い踏みつけ攻撃で追撃を行なった。


「……とまあ、ここまでが基本的なコンボの流れだ。お前達にはまず、これを習得してもらう」


 何故かガタガタと震えている初心者達に、おっさんはそう宣言した。




  ◆



 それから、数日後……


「あの、団長」

「どうかしましたか?」


 ギルドメンバーに声をかけられ、ギルド【流星騎士団】のギルドマスター、シリウスが振り返る。彼の傍らにはサブマスターのカエデの姿もあった。


「あれなんですけど……本当に良かったんですか?」

「あれ、と言うと……新しく入った人達の事ですか」


 団員が震えながら指差すほうを見ると、そこにはモンスターと戦う、ギルドの新入り達の姿があった。


「うおおおおお!【おっさん式殺人ローキック】!【おっさん式殺人リバーブロー】!トドメだ、【おっさん式殺人バックブリーカー】!」

「ぬぅんッ!遅いッ!破ッ!塵に滅せよォッ!」

「掴んだら即座に絞める、同時に極める……。極めたら迷わず折る……!」

「ボディがガラ空きだ、死ねぇ!」

「お前の命はあと三秒だ……」


 ある者は雄叫びを上げながら敵の部位を的確に破壊し尽くし、ある者はドス黒いオーラを全身に纏いながら凶拳を振るい、ある者は洗練されたサブミッションで敵の関節を粉砕し、ある者はジャブの連打でガードを上げさせたところで鳩尾に跳び膝蹴りを入れ、ある者は秘孔を突いて敵を爆発四散させていた。


(なんだあれは……まるで別人じゃないか……)


 彼らの変わりように、一体おっさんはどんな指導をしたのかと戦慄するギルドメンバーであったが……


「うん、なかなか良い動きです。流石はおっさんですね」

「ええ、期待以上です。まだ粗い部分はありますが、そこは今後に期待しましょうか」

「……えっ!?」


 シリウスとカエデは格闘モンスターと化した新人達を見ても、いつもと変わらぬ穏やかな様子で彼らを見守っているのだった。


(こんなの絶対おかしいよ……)


 やっぱりβテスターって感覚がどこかおかしい。モブ団員は認識を新たにした。

 ちなみにおっさんの格闘教室は好評によりその後も続けられ、今回の新人達は中級編・上級編も受講して立派な格闘使いへと成長していったのであった。

やっとオリックス・バファローズにホームランが出たので投稿。

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