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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
125/140

30.謎のおっさん、宇宙を見る

「緊急召集命令、コード【C-0】。現在ログインしている各チームリーダーは、直ちに会議室に集合してください。繰り返します。コード【C-0】が発令されました。現在ログインしている各チームリーダーは、直ちに会議室に集合してください」


 そのギルドメッセージが流れた瞬間、ギルド【C】のメンバー達は一斉に立ち上がって動き出した。


「全員、今やっている作業を中断、続報が来るまで待機!俺は会議室に向かう!」

「ギルドショップ閉めろ!NPCに待機命令を!」

「本日のギルドショップは臨時休業となります!十分後に閉店いたしますので、買い物中のお客様は申し訳ありませんがお急ぎ下さい!お詫びとして本日のお会計のCポイントは2倍にさせていただきます!」

「クエスト中止!狩り中止ぃぃぃ!フィールドに出てる奴は今すぐ転移の羽で戻ってこい!」

「倉庫開けろ!A班は倉庫前で待機、いつでも出せるようにしとけ!」


 ギルド【C】では緊急時、アルファベットと数字を組み合わせたコードを使って【何が起きたか・緊急度はどの程度か】を簡潔にギルドメンバー達に周知するシステムを取り入れている。

 そして、そのコードにおいて【C】の文字は、【新しい商品の発明・開発】を意味し、【0】の数字は、【他の何を犠牲にしてでも絶対に優先すべき事柄】を意味する。

 すなわち、コード【C-0】とは、【それ以外の全部を放り投げてでも最優先でやるべき、超ヤバイ級の新製品が開発できる目途が立った】事を示す。

 ゆえに、職人達はギルドメッセージを受け取った瞬間に、全てを放り投げて準備に取り掛かったのであった。



  ◆



「……以上をもちまして、検証・実験の結果発表を終えたいと思います」


 一方その頃、会議室。檀上にて【簡易錬金術】についての説明を終えたユウに、集まったメンバー達は万雷の拍手を送った。


「実に素晴らしいな」

「錬金術の便利さは、俺達【C】が一番良く知っているからな」

「これを製品化できれば、一体どれだけ利益が出るか……」

「笑いが止まりませんなぁ」

「盛 り 上 が っ て き た」


 会議室に集まった職人達は、彼女が発表した新たなスキルの存在と、それがギルドにもたらす利益に目を輝かせながら言葉を交わす。

 そんな彼らも、ギルドマスターが壇上に現われると、すぐに意識を切り替えて口を閉ざし、集中する。


「ユウさん、ありがとうございました。実に簡潔でわかりやすく、それでいて魅力をしっかり伝えられる素晴らしいプレゼンテーションでした」


 ギルドマスター、クックはまず最初に、新たなスキルを発見したユウに向かって賞賛の言葉を述べた。その後に、集まった者達に話しかける。


「さて皆さん、彼女が発見したスキル【簡易錬金術】は先程の発表の通り、錬成陣が描かれたカードを使用する事で、本来はユニークスキルである錬金術の効果を、誰でも使用できるという素晴らしい物です」


 一同が頷くのを見て、クックが続ける。


「それを知っているのは、今この場に居る我々だけ。ならばどうするか。この素晴らしい技術を秘匿し、我々だけで独占するべきでしょうか?」


「「「「「「「「「「否!断じて否!」」」」」」」」」」


 クックの問いかけに、職人達は一斉に否定の声を返した。


「すみません、わかりきった質問でしたね。そう、もし我々が戦闘や冒険、あるいはギルド間戦争をメインにしているギルドであったならば、その選択肢も有りだったでしょう。……ですが、そうではない。我々はあくまで職人であり、商人です。ならば我々が成すべき事は、この素晴らしい技術を開示し、誰でも等しく扱えるように製品化する事でしょう」


「その通り!」

「よく言った!」


 ギルドメンバー達が、口々に賛成の声を上げた。

 満足そうに頷くと、クックはギルドの幹部達に声をかける。


「では……まず、ゲンジロウさん」

「うむ。儂ら木工職人は紙の作成を行なおう。カードを作る為に大量の紙が必要になるからのう。それに質の高いカードを作るには、高品質の紙が必要不可欠。心してかかるとしよう」

「よろしくお願いします。では次に、アンゼリカさん」

「よろしくてよ。裁縫・革工チームはカードホルダーの作成を、彫金チームは、カードに各種錬成陣を刻印するための判を作成……そちらはテツヲさん達、鍛冶チームと協力して行ないましょう」

「オーケー、任せときな。つー訳で、俺ら鍛冶職人はアンゼリカ達と協力して判子や金型の制作だな」

「はい。次にジークさん」

「俺達は紙をカットしてカードにする為の裁断機と、刻印機の製作かな。すぐに取り掛かろう」

「よろしくお願いします。ユウさんは……」

「流通・販売チームに販売の準備を急がせます。それと営業チームから【アルカディア情報局】に宣伝を依頼させようと思います」

「わかりました。最後に、おっさん」

「おう。俺は全体のサポートと、お客さん向けの錬金術のマニュアル作成だな」

「了解です。それでは、僕達料理チームは生産効率を上昇させる料理の作成と配膳と行ないます。手始めに……こんな物を作ってきましたので、食べたら早速作業に取り掛かってください」


 各チーム毎の作業の流れを確認したクックは、アイテムストレージから料理を取り出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【レインボーフルーツケーキ】


 種別 料理/お菓子

 品質 ★×11(限界突破リミットオーバー

 作成者 クック


 【使用効果】

 食事経験値 150,000


 食べてから120分の間、以下の効果を得る。

 ①DEX+1200

 ②INT+1200

 ③生産スキルの成功率と品質が大きく上昇する

 ④採集の速度・品質・個数が大きく上昇する


 【解説】

 宝石のように輝く色とりどりの果物と、七色のソースで彩られたケーキ。

 その美味さ、まさに限界突破。

 食べた者は神の如き叡智と器用さ、万物を創り出す力を得るだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なんか凄いのが出てきた。

 食べただけで経験値が15万(【フードファイター】スキル等の効果があれば更に増える)も入る点もさる事ながら、ステータス補正も明らかに通常の料理を逸脱している。

 更に、ゲームの仕様上、上限が10である筈の品質が何故か11ある。


「おいクックよ、なんだいこりゃあ。随分とまた面白ぇ事になってんじゃねえか」

「フフ……なに、実は先日こんなスキルが生えまして」


 おっさんの問いかけに、クックはニヤリと笑い……スキルウィンドウから、あるアビリティの情報を開いて皆に見せた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【FoW:料理の超人(マスタークック)


 種別 パッシブ/ユニーク/FoW

 所属スキル Force of Will


 【特殊効果】

 料理系スキルでアイテムを生産する際、そのアイテムを対象に発動する。

 対象アイテムの品質および効果の上限を取り除く。

 また、常に対象アイテムの品質および効果に+補正を与える。


 【解説】

 ひたすら高みを目指し、鍋を振るい続けた男の執念が遂に限界をブチ破った。

 料理道を極めに極めた男の、まさしく情熱と執念の結晶。

 その味、まさに限界突破。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ざわ……ざわ……!

 その文面を見た一同が驚きの声を上げた。


「皆を驚かせようと思って発表するタイミングを伺っていたのですが、いやはや……ユウさんが発見した新スキルの衝撃に比べたら、些細な物ですが」

「ハッ……よく言うぜ、このタヌキが。どいつもこいつも馬鹿みてえにやる気になってんじゃねえか」


 飄々とした顔で言うクックを見て、おっさんは肩をすくめる。

 彼が言うように、職人達を見れば皆、目をぎらぎらと輝かせてやる気に満ちている様子だ。

 システムで定められた品質の限界を超えるという、職人垂涎の新アビリティを手にしたクックに遅れを取ってなるものかという、心の声が聞こえてきそうだ。


「おいお前ら。やる気になってるのは結構な事だが、まずは目の前の仕事を片付けようじゃねえか。手始めに……この品質★×11のケーキをいただくとしようぜ」


 おっさんは手を叩き、注目を集めて皆にそう言うと、率先して目の前に置かれたケーキに手を伸ばした。上品に飾り付けられたケーキを、手掴みで豪快に口に運び、咀嚼する。


 そしておっさんは、その姿勢のまま動きを止めた。


「……おっさん?」

「おい、どうした?」

「おっさんが動かなくなったぞ」


 ケーキを食べた状態のまま動きを止めたおっさん、その異様な状態を見て何事かと騒ぐギルドメンバー達。そしてそのまま三十秒ほどが経過し、ようやくおっさんが動き出した。


「宇宙が見えた」


 真顔でそう言った後、おっさんはスタスタとその場から歩き去った。


「一体何が……」

「……どういう、ことだ……?」


 あまりの美味さに料理漫画のように謎の光景が見えたらしいおっさんの様子に、首を傾げるギルドメンバー達。そんな彼らの背後にクックが忍び寄る。


「まあまあ、食べてみればわかりますよ」


 そう言って彼らの口にケーキを放り込むクック。それを口にした瞬間、先程のおっさん同様に彼らの動きが止まった。そして数十秒後……


「そうか……これが世界の真実か……!」

「……今こそ、全知を掴む時!」


 彼らが何を見たのかは定かではないが、別人かと見紛う程に真剣な表情になった彼らは、そう言い残して去っていった。


「……クックさん?あのケーキに一体何を入れたんですか……?」

「いえ、特に何も。あまりの美味さにハイになってるだけで、しばらくすれば正気に戻りますよ」

「やだ、この人怖い……」


 変人揃いの幹部達の中で、クックは比較的まともな方だと思っていたユウであったが、彼女はこの日、その認識を改めたのだった。

何とか二月中に間に合った……。

怪我やそれによる体調不良なんかで長らく執筆を中断してましたが、何とか続けられそうです。

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