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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
124/140

29.謎のおっさん、講義をする(2)

「うーん……発動しませんね……」


 おっさんの説明を受けた後に、実際にユウは何枚か、紙に錬成陣を描いてみたが、特に何も発動する様子は無かった。

 おっさんから幾つか分けて貰った、錬成陣に属性を与えるための【魔素】を使用しようとしても、


 『対象が不適切です』


 というシステムメッセージが出るだけで、使用する事が出来なかった。

 何故だ、と悩むユウの背中に、おっさんが笑いながら声をかけた。


「馬っ鹿オメー、そんな歪んだ陣で錬金術が発動するかよ。楕円になってるし、線もブレまくってんじゃねえか」

「えー……?そうですか?」


 おっさんの指摘に、ユウが自分の描いた錬成陣を見直す。

 確かに言われてみれば、円はやや横に広くなっているし、線も途中で少しばかり曲がっている。だがフリーハンドで描いた割には、綺麗に描けたと思っていたのだが……。


「こうだよ、こう。これくらいキッチリ描かねぇと」


 そう言って、おっさんが一枚の紙片を手に取る。機会の右手でペンを持ち、おっさんは紙にペンを走らせた。

 恐るべき精密な動作で、おっさんは錬成陣を描いた。真円を描き、定規も使わずに直線を引く。スキルの効果によって自動的に描画される錬成陣と、寸分違わぬ陣が紙の上に描かれた。


「さっきも説明したが、こいつは【増幅】を意味する図形だ。こいつに神聖属性の魔素を加えて……」


 おっさんが、描かれた錬成陣に神聖属性の魔素を加えると、陣が白い光を発した。


「ほい、【ホーリーサークル】発動、っと」


 おっさんが、錬成陣の描かれた紙を使用すると、紙がボロボロと崩れて消滅する。そして、おっさんの目の前には神聖属性を強化する陣、【ホーリーサークル】が展開されていた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【ホーリーサークル】


 種別 魔法

 所属スキル 錬金術


 【効果】

 使用者の前方に錬成陣を展開する。

 この錬成陣を通過した魔法と射撃攻撃が対象。

 対象が神聖属性の場合、その効果を【MLvマジックレベル×10%】強化する。

――――――――――――――――――――――――――――――


「とまあ、こんなもんだ」


 得意げな様子のおっさんだったが、ユウは一連の光景を見て、何かに気が付いた様子でおっさんにまくし立てる。


「師匠!今のもう一回描いてください!」

「お?いきなりどうした」

「ちょっと思いついた事があるんです!いいから早く早く!」


 ユウがはしゃぎながら、おっさんに紙とペンを押し付ける。


「何だかよくわからねえが……ほれ、これでいいのか?じゃあこいつに魔素を……」

「ストップ!ここからは私が!」


 ユウがおっさんの手から紙を奪い取り、震える指でアイテムウィンドウを操作した。


「私の推測が正しければ、多分これで……!」


 目的のアイテムのメニューを開き、【使用】ボタンを押すユウ。ユウが操作したアイテムは【聖の魔素】であり、対象は手に持った紙だ。

 ユウが祈るような気持ちでボタンを押すと……アイテムウィンドウの中の【聖の魔素】の数が一個減少し……そして、ユウが持つ紙に描かれた錬成陣が白い光を放ち、陣が描かれた紙のアイテム名が変化した。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【ホーリーサークルのカード】


 種別 消耗品/カード

 品質 ★×5

 製作者 ユウ


 【効果】

 使用時に魔法【ホーリーサークル】が発動する。

――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱり……!スキルを使わなくても、正確な錬成陣さえあれば発動するんだ!」

「……!成る程な。別に【錬金術】スキルを持ってる俺でなくても、正確な手順さえ踏めば再現は出来るって事かい。……考えてみりゃあ盲点だったぜ。いくらユニークスキルって言っても、元はと言えば大昔の誰かが作り出した技術……!単に秘匿されてた秘術だったからユニークスキルになってるだけで、手順さえ踏めば誰にでも……ユウ!」

「はい、師匠!」


 おっさんが何かに気付いたように、ぶつぶつと言葉を連ねる。やがて顔を上げると、おっさんはユウに一枚の紙片を差し出した。

 以心伝心。ユウはおっさんに頷きを返し、アイテムストレージからコンパスや定規を取り出した。


「……よし。これで!」


 たっぷり十分以上かけて、ひたすら丁寧に正確に、ユウは紙片に錬成陣を描いた。


「次は、【錬金術スキルを持っている俺以外が描いた陣でも、正確に作用するか】の実験だが、恐らくこれも……」


 おっさんが見守る先で、ユウが錬成陣の描かれた紙片に魔素を使用する。

 その結果は……


「できた……!」


 先程と同様に、使用する事で錬金術が発動するカードが完成していた。


「……!!師匠、スキルが!新しいスキルが生えました!」

「何だと!?見せてみろ!」


 その瞬間、ユウの前にシステムメッセージが表示された。それは、新たなスキルの発生を知らせるものであった。

 ユウが慌ててスキルウィンドウを開き、新たに発生したスキルを表示させる。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 【簡易錬金術】


 種別 魔法/イリーガルスキル

 習得者数 1名


 【ステータス補正】

 スキルLv1毎に、錬金術の効果+1%

 SLv5毎に、INT+5 DEX+5


 【解説】

 一般向けの技術として確立・簡易化された錬金術。

 事前に錬成陣が描かれたカードを用意する事で錬金術を使用可能。

 また、錬金術カードの作製も可能となる。

 本来の【錬金術】のように、一瞬で錬成陣を構築する事はできない。

――――――――――――――――――――――――――――――――


 それは、【錬金術】の新たな姿であった。

 おっさんが使う錬金術のように、一瞬で空中に錬成陣を描いて術を発動させる事は出来ず、あくまで事前にカードという形で準備しておく必要があるものの、ユニークスキルであった筈の技術が誰にでも使用可能になるという、本来ありえなかったはずの現象。

 まさに奇跡。それが今、彼らの目の前にあった。


「……ユウ」

「……師匠」

「わかってるな?こいつぁ革命だ。アルカディアに激震が走るぜ。こいつを新しいスキルとして確立出来れば、このゲームの戦闘や生産が一気に変わる。お前がそれを成すんだ」


 おっさんの言葉に、ユウがごくりと喉を鳴らす。


「すぐにギルドメンバーを全員集めろ!大至急だ!」

「……はい!」


 そして彼らは動き出す。

 革新の日まで、後………………一週間。

これが2015年最後の投稿になりそうです。

今年も謎のおっさんオンラインをご愛読いただき、ありがとうございました。

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