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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
121/140

26.謎のおっさん、クエストを受ける(1)

「金がねえ」


 イグニスの街、ギルド【C】本城の最上階にある自室兼工房にて、おっさんはそう口にした。会話方法チャットモードはギルドチャットに設定されており、その声はどれだけ離れていてもギルドメンバー全員に届いている。


「現在の所持金、70500ゴールド」


 前回のギルド戦争という名の馬鹿騒ぎで、おっさんが無残に破壊し尽くしたハイウェイの修理やその他の補填によって、おっさんは彼の持つ多額の資金のほとんどを吐き出した。

 それにより、おっさんは只今金欠状態にある。

 おっさんは自室に備えつけられている自動販売機を操作した。これは【C】のギルドショップで売られている物を遠隔で購入可能である。


「現在の所持金、70350ゴールド」

「ジュース飲んでんじゃねーヨはげ!」

「ハゲてねえよ殺すぞ」


 すかさずギルドチャットで返ってきたツッコミに対して返答しつつ、おっさんは自動販売機で購入したオレンジジュースを一気に飲み干した。


「つー訳で金が無ぇから、誰かこっちに仕事回せよ」

「お断りします」

「絶対にノゥ!」

「だが断る」


 【ギルドクエスト】という物がある。

 通常のクエストと異なり、プレイヤーやNPCがギルドを指定して発行する依頼の事を指し、このギルド【C】を指定して発行されるそれは、当然のように生産スキルを使っての、アイテムの製造依頼がほとんどだ。

 ギルドに所属するメンバーは発行されたギルドクエストを、それぞれの得意分野に合わせて自由に受注している。基本的に誰が受注するかは早い者勝ちだが、一人で大量の依頼を独り占めする事が無いように、一日に受注可能なクエスト数や、同時に受注できるクエスト数には制限がかけられている。

 また、新人の成長機会を奪わないように、上位の職人達は簡単な依頼を自分で受注せず、後進の者に譲る事が暗黙の了解となっていた。

 そして現在、ギルドクエストの受注状況は全て受注済みとなっており、おっさんが受けられるクエストは一つも無かった。


「チッ、しゃーねぇ。フリーで何か受けてくるわ」

「いってらー」

「てらー」


 おっさんはギルドメンバー達に言い残すと、【転移の羽】を使用して城塞都市ダナンへと転移し、酒場へと足を向けた。


「邪魔するぜ」


 バンッ!と派手な音を立てて扉を開くと、酒場内に居たプレイヤー達が一斉に入ってきた者へと顔を向けた。

 彼らはいきなりデカい音をたてて入ってきた闖入者を睨みつけようとして、その正体がおっさんであった事を認めるとギョッと驚き、一斉に目を逸らした。

 おっさんはクエストボード(依頼書が貼り付けられている掲示板の事だ)の前に立つと、生産依頼が描かれている依頼書を纏めてむしり取る。

 しかる後に再び【転移の羽】を使用し、ギルドキャッスルの自室へと戻るのであった。


 そんな一幕があった少し後、酒場へとやってきたフリーの職人プレイヤーが、クエストボードを見て首を傾げた。


「……あれ?今日は生産依頼ひとつも無いの?」


 酒場のプレイヤー達は皆、目を逸らして知らんぷりを決め込んだ。



  ◆



「さーて、始めるか」


 自室に戻ったおっさんはクエストウィンドウを開き、受注したクエストを片っ端からこなそうとする。まず最初に開いたクエストは、武器の強化依頼だ。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【武器の強化をお願いします】


 種別 生産クエスト

 発行者 リオン(プレイヤー)


 【クエスト内容】

 添付した武器の強化をお願いします。

 強化値によって報酬を支払います。

 最低+7以上でお願いします。


 【添付アイテム】

 黒曜石の双剣


 【報酬】

 +7:20000ゴールド

 +8:50000ゴールド

 +9:100000ゴールド

 +10:200000ゴールド

――――――――――――――――――――――――――――――


 【鍛冶】スキルの中には強化素材を使って、武器や防具を強化可能なアビリティが存在する。強化されたアイテムは、その強化度合によって、末尾に+1、+2……といった数字が付く。

 最大値は+10であり、数値が高くなるほど強化の成功率は下がる。また+5付近までは安全に強化できるが、それ以上強化をしようとすると、失敗時に一定確率で【大失敗】となり、強化値が下がるリスクも発生する。


 おっさんはクエストメニューから、添付されていた武器を実体化させて取り出した。それを持って、おっさんは金床の前に立つ。

 おっさんはアビリティ【武器強化】を使い、双剣を強化し始めた。

 そして、数分後。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【黒曜石の双剣+10】


 種別 双剣

 品質 ★×7

 素材 黒曜石

 耐久値 18/18


 【装備効果】

 物理攻撃力+206 魔法攻撃力+86 物理防御力+30

 STR+20 AGI+10 MAG+10

 クリティカル率+10%


 【特殊効果】

 ①物理攻撃時、暗黒属性の追加ダメージを与える Lv6

 ②クリティカルヒットのダメージを増加させる Lv3


 【解説】

 黒曜石を削って作られた、黒い輝きを放つ双剣

――――――――――――――――――――――――――――――


 おっさんは完成した武器を手に取り、それをじっと見る。


「……クソだな」


 一応モンスターのレアドロップであり、中級プレイヤーが使う武器としてはそれなりに良い武器ではあるのだが、おっさんの評価は厳しいものであった。


「仕方ねぇな、一肌脱ぐか」


 おっさんは再び作業へと取り掛かった。

 まずはアビリティ【品質強化】を使用する。これは+10まで強化したアイテムを、強化値を0に戻すかわりに品質を一段階増加させる効果をもつ。鍛冶を相当極めなければ習得不可能なレア・アビリティであり、所持しているのはおっさんを含めてアルカディア内でも十人と居ない。

 おっさんはこれを使い、更に強化を繰り返す事で双剣の品質を★×9まで引き上げた。このアビリティで品質を引き上げる事ができるのは、ここが限界である。


 次におっさんはアビリティ【特殊効果付与】を使い、武器に後天的に特殊効果を与える。何度かそれを繰り返した後に、今度は【特殊効果増幅】により、特殊効果のレベルを上昇させた。更に【双剣限界突破】という、武器カテゴリ専用の強化アビリティを使用する。

 対応した武器の限界を引き上げ、更なる力を付与するレア・アビリティであり、これを所持しているのはアルカディア広しと言えどもおっさんとテツヲの二名しかいない。おっさんは自分や親しい友人が主に使うカテゴリの物しか習得していないが、テツヲのほうは全武器コンプリートしている。

 おっさんはそれを用いて双剣を限界突破させた後に、トドメとばかりに【錬金術】を使用して双剣の刃や柄に、強化のための錬成陣を刻んだ。


「……よし。満足いく仕事ができたぜ」


 自分が手掛けた武器が、あのような粗末な物であって良い筈がない。そんな職人のプライドに突き動かされたおっさんは、満足いくまで武器を強化し尽くした。

 そしてクエストメニューから【納品】を選択する。システムは提示された武器の強化値を参照し、依頼完了の手続きと共に+10強化の報酬である200000ゴールドを、おっさんへと支払った。


 なお調子に乗って強化をしまくったおかげで、今回のクエストにおけるおっさんの利益は、差し引き1万ゴールド未満であった。


  ◆



 双剣使いのリオンは、ごくごく一般的な中級プレイヤーだ。

 それなりの規模のギルドに所属し、それなりのフィールドやダンジョンで狩りやクエストをこなす、ごく普通のプレイヤーであった。

 年の頃は十代後半、中肉中背で顔もそれなりの男性と、キャラスペック同様に見た目もごく平凡であり、戦闘技量も上手くもなく、下手でもないごく普通。

 そんな、平凡を絵に描いたようなプレイヤーであった。


「おいリオン、何やってんだ?そろそろ行くぞ」

「ああ悪い。強化依頼に出してた武器が返ってきたんだ。ちょっとだけ待ってくれ」


 数時間前に出した武器の強化依頼。それが達成されたという通知が来たため、リオンは足を止めていた。丁度、今日はこれからギルドメンバーと共に、他のギルドと合同でフィールドボスの討伐に行く所だったのだ。

 予備の武器で参加する事になるかと思っていたが、丁度いい時に返ってきてくれて助かった。さて、どこまで強化されているかな?

 そうワクワクしながら通知メールを開いたリオンの目は、驚愕に見開かれた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 【クエスト達成通知】


 貴方が発行したクエストが達成されました。


 完了クエスト:【武器の強化をお願いします】

 達成者:謎のおっさん

 達成度:強化値+10

 支払報酬:200000ゴールド


 以下のアイテムが添付されています。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 【黒曜石の滅尽双剣+10】


 種別 黒曜石

 品質 ★×9

 素材 黒曜石

 耐久値 55/55


 【装備効果】

 物理攻撃力+406 魔法攻撃力+250 物理防御力+120

 STR+50 VIT+30 AGI+30 DEX+30 MAG+30

 クリティカル率+35%


 【特殊効果】

 ①物理攻撃時、暗黒属性の追加ダメージを与える Lv15

 ②クリティカルヒットのダメージを増加させる Lv15

 ③ボスモンスターに対するダメージを増加させる Lv10

 ④物理攻撃時、一定確率で相手の防御力を無視する Lv10

 ⑤斬撃属性のアーツのダメージを増加させる Lv10

 ⑥奥義/秘奥義属性のアーツを強化する Lv10

 ⑦このアイテムは限界を突破している LvEX


 【錬金強化】

 錬成陣:不壊 最大耐久度が上昇し、耐久度が減少しにくい

 錬成陣:浸透 攻撃時に相手の防御力を一定割合、無視する 

 錬成陣:滅殺 クリティカル率とクリティカルダメージを強化


 【解説】

 限界を超えて強化された恐るべき双剣。

 その研ぎ澄まされた漆黒の刃は妖しい光りを放つ。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 クエスト達成者からのコメントがあります。

 内容は以下の通りになります。


 【コメント】

 装備のタイプからパワー系の双剣使いだと当たりを付けたんで、

 良さげな感じに武器を強化しといてやったぜ。

 最初は武器の性能に振り回されるかもしれねえが、頑張りな。

 応援してるぜ。それじゃ、また依頼があればよろしくな。


 謎のおっさん

―――――――――――――――――――――――――――――――


 リオンは添付されていたアイテムを……もはや元の状態が思い出せないほど強化された己の武器を手に取ると、その柄を左右の手で恐る恐る握った。

 まるで肌に吸い付くように手に馴染む。力強くそれを握りしめると、リオンはわなわなと震え出し、本能の赴くままに叫んだ。


「うおおおおおおおおお!やったらあああああ!!」

「うわっ!?どうしたお前、いきなり叫んで」

「なんでもない!今行くぜ!」


 双剣を手に、仲間の背を追うリオン。その目はぎらぎらと闘志に燃えていた。

 噂に聞いた事しかない、雲の上の存在であるトッププレイヤーが己の武器を鍛え、激励をくれたという現実。リオンはその偶然に感謝すると共に、必ずこの武器に見合う双剣士になると決意した。


 この日、リオンはボス討伐戦でMVPを獲得した。

 後に【神速】のナナと並び称される最強の双剣士、【撃滅】のリオンの、伝説の第一ページ目である。

おっさんによる一般プレイヤー強化テロ。

ナナがスピード特化なのに対して、リオンはパワータイプの双剣使い。真正面からパワフルな乱舞でクリティカルを連発して薙ぎ倒すスタイルという設定。

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