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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第一部 おっさん大地に立つ
12/140

謎のおっさん、テロ行為第二弾

「ついにあれ(・・)が完成したか……」

「ええ、長かったですが……ようやく満足する物が出来ましたよ」


 作業場の裏手、人目につかぬ場所にて密談を交わすプレイヤー二名。

 一人目はぼさぼさの黒髪に無精髭、白いツナギに咥え煙草、獲物を狙う猛獣の如き鋭い目つき。皆様ご存知、謎のおっさんである。

 もう一人は緑色の短髪に、質素だが清潔感のある白い服にエプロンを着けた優しげな男。【至高の料理人】と呼ばれる職人プレイヤー、クックである。


 彼らは以前と同じように、この場所で秘密の会合を行なっていた。

 またしてもこの場にて、他のプレイヤー達が与り知らぬ秘密の取引が行われようとしているのだろうか?独占禁止法が適用されぬこの世界で、二人の生産廃人達は利益を貪り続けようとしているのか?


 そこで彼らの片割れ……クックが、液体の入った瓶を取り出す。


「おお……こいつか。見せて貰ってもいいかい」

「ええ、勿論……そのために御足労願ったわけですから」


 おっさんはその物体を受け取り、目を凝らしてアイテム情報を確認すると……満足そうにニヤリと笑った。


「素晴らしい。相変わらず良い腕だぜ……」

「いえいえ、おっさんの多額の投資があってこそですよ」


 そういってお互いにニヤニヤと笑う二人。


 潤沢な資金を持つおっさんは、一部の目を付けた職人プレイヤーに対し投資を行なっている。

 おっさんからお金を受け取り、職人たちはそれを元手に商品を作り、スキルLvや己の腕前を鍛える。そして彼らは投資の見返りとして、おっさんの元に新製品や技術を提供してくれる。

 WIN-WIN関係の素晴らしい取引である。

 不正は一切ない。


 この取引によってトップクラスの職人PC達は更に儲けを上げつつ腕を磨き、中級以下の職人達との差がますます広がっていたりするし、そしておっさんはその利益を吸い上げてより利益を上げていたりするのだが、不正は一切ない。


 相場や流行、そして利益は常に最先端を行く者が生み出すのだ。出遅れ、後塵を拝した者はその恩恵を得る事は出来ぬ。


 オンラインゲームにおいて、概ね職人・商人PCは大きく二つに分けられる。


 スタートダッシュに成功し、トップクラスの生産能力と潤沢な資金を持ち、

 他のPC達が求める物を提供し、相場を作り出し、操る者。

 すなわち勝ち組!神!


 出遅れ、それなり程度の生産能力しか持たず、素材代で財布はカツカツ。

 苦労して作り出した製品も時代遅れ、元手を取り戻すので精一杯。

 すなわち負け組!奴隷!


 いささか極論ではあるが、我々の世界におけるオンラインゲームにおける生産職という物も、大体そんなものである。

 間違いない。十年以上前より様々なオンラインゲームで生産職をプレイし、常に奴隷の地位にあった作者が保証しよう。

 ちなみにタイトルによっては生産自体が不遇すぎて全員奴隷という事態も稀によくある。困ったものだ。


 話を戻そう。

 クックが作り出し、おっさんが絶賛した新製品。その正体は……


――――――――――――――――――――――――――――――

 【最高級ビール】


 品質 ★×9(最高級)

 種別 酒


 【解説】

 非常に上質な水や麦芽、ホップを材料に作られた最高級のビール。

 すっきりとした喉越しと濃厚な味がたまらない。

 喉の渇きを癒し、酩酊度を上昇させる。

 20歳未満のプレイヤーは所持・使用する事が出来ない

――――――――――――――――――――――――――――――


「品質9とはな……」

「ふふふ……流石に10とはいきませんでしたが、自信作ですよ」


 二人分のジョッキを取り出し、注いでいく。琥珀色の液体がジョッキを満たし、その上部には白い泡が浮かぶ。


「では……」

「おう」

「「乾杯ッ!!」」


 二人がジョッキを掲げ、軽くぶつけ合う。そして、その中身を一気に喉へと流し込む。


「っくぁーッ!うめえじゃねえかオイ!」

「ハッハッハ。では、もう一杯いきましょうか……」


 一気に全部飲み干し、再びビールを注ぐ。そしてまた、それを次々に飲み干していく二人。


「おっとそうだ……こいつを忘れてたぜ」


 おっさんがアイテムストレージから複数のアイテムを取り出す。それはカラッと揚げられた、ホカホカの唐揚げやトンカツ。


「おめーの料理ほど質は良くねえが、つまみは欲しいだろ?」

「これはありがたい……では私からも」


 そう言ってクックもまた、複数の料理を取り出していく。

 タレと塩の二種類の味付けをされた焼き鳥や、ポテトチップス。


 そして二人は美味しいおつまみと共に、ひたすらに酒を飲んだ。

 この場においては下らぬ理屈などどうでも良いのだ。美味い酒と美味い料理、そしてそれを一緒に楽しむ友。

 それだけがあり、それだけが正しきものだ。


  ◆


 そして酒を飲み尽くし、料理を食べ尽くした二人は、千鳥足で作業場へと入っていった。

 そして……


「ガーッハッハハ!グワーッハッハッハ!」

「愚かな食材共め!我が聖なる炎によって美味しく生まれ変わるがいい!」


 ゲラゲラと笑いながら、異常なテンションで鍋を振るう二人が居た。まるで魔王だ。

 彼らは酔っていた。


 すわ何事かと目を見開く職人達だったが、誰も彼らに声をかけようとはしない。言うまでもなく、巻き込まれる事を恐れた為だ。

 彼らは明らかに普通ではなく、職人達は怯えながら部屋の隅で震えるのみ。もはや彼らを止められる者は誰も居なかった。


「爆発はぁぁぁぁぁ!芸術だぁぁぁぁぁぁああ!!」

「最高に高めた俺のビールで!最強の力を手に入れてやるぜェー!」


 彼らは適当に思いついた素材――食材ですらない――を鍋へと投入し、そしてまた適当に思いついた素材――調味料ですらない――で味付けをする。

 そこにはまるで法則性は無く、鍋の中には混沌が渦巻いていた。そして彼らはでたらめに鍋を振るい、混沌をかき混ぜる。

 彼らは狂っていた。


 本来、このゲームのシステム上は酒類のアイテムを摂取したところで、本当に酔う事は無いはずなのだが……どういう訳か、結果はご覧の有様であった。

 何故か。まさか彼らは自分の思い込みだけで酔っ払ったのか?


 そして彼らの冒涜的行為により、料理――とは口が裂けても言えぬようなシロモノが完成した。

 それはとても真っ黒で、固くて、うねうねと動いている謎の物体。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【混沌物質カオスマター


 種別 ■材

 品質 ★×6R%Y$#


 【解説】

 様■な素■を■造■■■理し■出■た意■不明■物■。

 混沌■力■狂気■■す■■■■■。

 あ■!窓■!窓に■

――――――――――――――――――――――――――――――


 バグっていた。食材ですら無い物を適当に料理した結果がこのザマである。


「この料理を作ったのは誰だァー!」

「俺だぁぁぁww美味いwwwテーレッテレーwwwww」


 彼らは狂っていたが、本能でこれは危険だと察知したのか、それを口には入れなかった。

 かわりにおっさんは、それを掴み上げると鍛冶台へと走った。そして金槌を取り出し、それをガンガンと叩いていく。


「黒くて硬いし金属だなこれは。俺にはわかる、間違いねえ。Ossan(おっさん) is() always(常に) right(正しい)!」

「その発想はなかったwww」


 酔っ払っていながらも精密な腕が、謎の塊を剣の形へと整えてゆく。何か手元から悲鳴のような物が聞こえたおっさんだが、彼は全く気にしなかった。気にするだけの理性が残っていなかったとも言う。


「よし、良い事考えたぜ!更にこいつをこうやってだな……」


 更におっさんは思いつた様々な加工を施してゆく。その内容は、とてもこの場で描写できるような物ではなかった。

 それを間近で見た職人PC達のSAN値(正気度)がゴリゴリ削れていく。


「ガーッハッハッハ!既存の概念なんぞレ○プしてくれるわーッ!」


 そして完成に近づく謎の武器。ガタガタと震える職人達。狂気の夜は続く。



  ◆



 一夜明けて次の日、とあるプレイヤーの元におっさんからのメールが届いた。その内容は簡潔に一行のみ。


「強力な剣が出来たから譲渡する。使え」


 このゲームではプレイヤー間でメールを送る際、アイテムを添付して送る事ができる。そして今回そのメールに添付されていたのは、ひと振りの片手剣だった。

 受け取ったのは一人の男性プレイヤーだ。彼の年齢は十代後半。やや幼いが端正な顔つきの、白い騎士甲冑を着た少年だ。右手に片手直剣を、左手に騎士盾を装備している。そして背中には上質な生地で作られた青い外套マントを羽織っていた。


 彼の正体は【白騎士】や【王子】等の二つ名を持つβテスターであり、名をシリウスという。彼はメールの文面を読んで微笑んだ。


「相変わらずおっさんのメールは簡潔だな。剣をくれるのか……今度お礼をしないといけないな」


 彼自身、ちょうど新しい装備が欲しいと思っていたところだった。呟きながら、シリウスは贈られた片手剣の情報ウィンドウを開き……


――――――――――――――――――――――――――――――

 【カオスジェノサイダー】


 種別 片手剣/魔剣

 品質 ★×9(神器級)

 素材 混沌物質

 製作者 謎のおっさん


 【装備効果】

 攻撃力:切断+66 刺突+66 衝撃+66 魔法+66


 【付与効果】

 [生体武器]この武器は生きている。この武器は成長する。

 [混沌刃6]物理攻撃時、対象に混沌属性の追加ダメージを与える Lv6

 [邪毒6]物理攻撃時、30%の確率で対象にランダムな状態異常を与える

 [混沌矢5]物理攻撃時、低確率で魔法【カオスボルト Lv5】を自動発動する

 [無差別吸血]物理攻撃時、低確率で攻撃対象または装備者のHPを吸収する

 [毒柄]物理攻撃時、低確率で使用者に猛毒の状態異常を与える

 [精密6]クリティカル発生率+30%


 【解説】

 謎の素材を用いて作られた、黒く禍々しい長剣。

 使い手の生命力を糧に、あらゆる物を殺し尽くす。

――――――――――――――――――――――――――――――


「ホワァッ!?」


 現れたのはドス黒い色の、ギザギザした刺々しい形の刃を持つ、禍々しい見た目の片手半剣バスタードソードだった。

 その見た目と能力のエグさに思わず奇声を上げつつ剣を取り落すシリウス。地面からはガシャン、という音と共に悲鳴のようなものが聞こえた気がしたが、彼は必死にそれを気のせいだと思い込む事にした。



  ◆



 『システムメッセージ』

 『イリーガルウェポン、カテゴリ【魔剣】がシステムに登録されました』

 『シリウス】さんに通り名が追加されました。称号スキル【魔剣士】【暗黒騎士】を付与します』

 『【謎のおっさん】さんに通り名が追加されました。称号スキル【生産テロリスト】を付与します』


 『システムは種別:飲料(酒)のアイテムの効果にバグが無いか調査を行ないます』

 『調査完了。バグが無い事を確認しました』


 『システムはアイテム名【カオスジェノサイダー】を調査します』

 『調査中……アイテム名【カオスジェノサイダー】のデータ内に不明なデータ領域を発見しました。更に調査を続行………………』

 『あ』

 『ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ』

 『たすけて』

 『たすけて』

 『たべないで』

 『たすけ』

 『たす』

 『あっあっあっ』


 ・

 ・

 ・


 『システムはアイテム名【カオスジェノサイダー】の調査を完了しました』

 『異常はありませんでした』

(2013/12/20 表記を修正)

(2015/2/28 改稿)

(2017/1/26 加筆修正)

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