23.謎のおっさん、風になる(3)
一斉にスタートを切った四十人以上のプレイヤー達。魔導バイクのエンジンがハイウェイに爆音を響かせる。
おっさん率いる【C】のメンバー達は先頭を敵対チームに譲り、彼らの後ろにピッタリと貼り付いた。
「ヒャッハー!このまま先行逃げ切りといこうぜ!」
先行した敵対チーム、総勢三十名余り。彼らは多勢である事の有利を最大限に活かすべく、横に大きく広がって道を塞いだ。こうされては、易々と追い抜く事は不可能である。
……だが、それも普通のレースならばの話だ。
「ぐわぁーっ!」
悲鳴と共に、三人のプレイヤーが宙を舞った。
決闘のルールによって本人にダメージは無いものの、バイクごと吹き飛ばされて地面に叩き付けられ、転倒した彼らは失格となった。
「何だ!?」
突然の事態に後ろを振り向いた彼らは目を見開いた。
開始早々に仲間をブッ飛ばしたのがおっさんだという事は予想がついていた。だが、いきなり一撃で三人まとめて沈めるとは、一体いかなる手段を使ったのか?その疑問は、おっさんの姿を一目見ただけで氷解した。
「この俺に無警戒に背中を向けるたぁ、随分と軽率だったなぁ?そのツケを払って貰おうか」
おっさんの手に握られているのは、金属の鎖だった。長さ2メートル程もある太い鎖の先には、人間の顔よりも巨大な、黒光りするトゲ付き鉄球が取り付けてあった。
おっさんはそれを派手に振り回して、背後から彼らを威圧する。
「野郎、何てモン使いやがる!」
「いつの間にあんなの用意してやがった!?」
その原始的だが凶悪極まりない凶器と、それを無邪気に振り回す中年男性の姿を見て珍走団が恐れ戦く。迂闊!確かにルールによって、プレイヤーに対する直接的なダメージは与える事は出来ない。だが攻撃を受けた際に受ける衝撃や、ノックバックは通常通りである事は事前に確認済みであった。
ならば、このように多大な衝撃を加える事ができる武器を使えば、敵を転倒させる事は容易い。ましてや背後からの奇襲であれば尚更である。
それを警戒せず、通常のレースのように無警戒に先頭を取ったゆえに、彼らはおっさんに背後からクソデカ鉄球でブン殴られるリスクを背負う事になったのだ。
「そぅら、逃げろ逃げろ!ガッハッハ!」
おっさんは鉄球を振り回し、逃げ遅れた者を片っ端から殴り飛ばしてバイクを破壊し、あるいは落車させて失格させていった。
「コイツはおまけだ!」
更におっさんは、左手で緑色にカラーリングされた亀の甲羅を取り出して投げつけ、ジグザグ走行で逃走する一人のプレイヤーの後頭部にぶつけた。
「この野郎、マ○オカートごっこしてんじゃねえぞ!」
「野郎ども、反撃だ!」
不利を悟り、反転して反撃に出ようとするが、そんな彼らの前に立ち塞がる者達があった。
「俺達を忘れて貰っちゃあ困るんだなあ!」
「ウホッ!足元注意だ!」
ギルド【C】のメンバー、おっさんの仲間達である!おっさんに気を取られてノーマークだった彼らが奇襲をかける。一人がバイクで体当たりをしかけつつ、至近距離でショットガンをブッ放してクラッシュさせる。
更にゴリラ顔の男性プレイヤーがアイテムストレージからバナナを取り出して一口で食べきると、残った皮を敵対プレイヤーのバイクの進路に正確無比なスローイング。狙い通りにバナナの皮を踏んだバイクが派手にスピンし、転倒した。
「ブッ殺せええええええ!!」
完全にキレた珍走団の生き残り達は手投げ斧を取り出すと、それを【投擲】スキルに属するアーツを駆使して、一斉におっさんに向かって投げた。
だがおっさんは、義手に内蔵された銃でそれを迎撃する。おっさんの右手、機械仕掛けの五指の先から無数の魔力弾が発射され、飛来するトマホークを撃ち落とした。
また、おっさんの乗る大型魔導バイク【グリンブルスティMk-Ⅲ】にもトマホークが襲いかかるが、総ヒヒイロカネ製の装甲は、その程度の攻撃ではビクともしない。
「それじゃ、一気に決めるとするか。【コールパートナー:ヴォーパル】!」
「もきゅ」
おっさんが、テイミングモンスターを召喚するアビリティを発動すると、すぐにおっさんの頭上に、赤い毛並みの小さな兎が召喚された。おっさんのテイミングモンスター、ヴォーパルだ。
「ヴォーパル、ユニゾンアタックだ!奴等を一網打尽にするぜ!」
「もっきゅもっきゅ」
おっさんの指示に、ヴォーパルが頷く。
「そんなチンケなモンスターを呼びだして、何をする気だ!?」
おっさんがヴォーパルを手の平に乗せると、兎はおっさんの手の上で丸くなり、そして高速で回転し始める。おっさんは高速回転する赤い毛玉を優しく掴むと、大きく腕を振り……
「行ってこい!」
「もきゅー!」
敵対チームの群れの中に、高速でブン投げた。
投擲されたヴォーパルは、まっすぐに敵陣に向かって飛んでいく。その全身に、真紅の炎を纏いながら。
そう、おっさんはただヴォーパルを投げただけではない。おっさんの投擲と同時に、ヴォーパルもとあるアーツを発動させていた。
全身に業火を纏いながらの高速突撃……そう、炎神イグナッツァより伝授された彼の奥義のひとつ、【ヴォルカニックチャージ】だ!
「う、うぎゃああああ!?」
「たかが兎の一匹、俺のバイクで押し返して……うわーだめだー!」
「兎つよすぎる……」
「あれは……超級覇王電○弾!?」
おっさんとヴォーパルの協力攻撃を受け、薙ぎ倒される珍走団のプレイヤー達。ちなみにヴォーパルは奥義で彼らを粉砕した後に、おっさんが装備させていたペット用飛行ユニットを展開し、おっさんの元に飛んで戻ってきた。
「お、俺のチームが……ぜ……ぜん……めつめつめつ……」
珍走団のリーダーは、あまりに一方的な虐殺に呆然となった。
「この程度か。もう少しくらいは楽しませてくれると思ってたがな……終わりにしようかい」
そんな彼に、おっさんは無慈悲な銃口を向ける。どうやら早くも、この戦いは終局を迎えるようだ。
誰もが決着を、おっさんの勝利を疑っていなかった。……だが、その時である!
「ヒャッハー!」
突然、横合いから割り込み、おっさんに奇襲を仕掛ける者あり。
その男は大型の違法改造魔導バイクに跨り、肩に巨大な両刃のバトルアックスを担いだ男。素肌の上にトゲの付いた革ジャンといったガラの悪い恰好をして、最大の特徴は、天を衝かんばかりの巨大な世紀末モヒカン・ヘアー。
「待たせたなぁ兄弟ィ!ギルド【世威奇抹喪非漢頭】参上ォ!」
その男こそ、おっさんや並居るトッププレイヤー達に喧嘩を売り続ける命知らず、ギルド【世威奇抹喪非漢頭】リーダー、モヒカン皇帝であった!
「乱入させてもらうぜ……!夜・露・死・苦!」
一度は終わりを迎えたかに見えた闘劇、観客の熱い乱入に応え、再び開幕。
全て壊すんだ(プロット)