22.謎のおっさん、風になる(2)
「“闘”ンのかコラァ!」
「“上等”だよオラァ!」
ハイウェイにて対峙し、メンチを切って罵り合う二組の男達の姿があった。片方は特攻服を身に纏い、派手で奇抜な髪型の、三十数人ほどの集団。ギルド【亞屡華泥亞霊震愚連盟】という名の珍走団である。
ギルドのエンブレムが描かれた旗、すなわちギルドフラッグを高々と掲げ、更に【喧嘩上等】【仏血霧】【夜露死苦】等と書かれたノボリ旗を掲げる者達の姿もある。
そして、そんな彼らに対峙するのは十人の男達。人数は敵対者に比べて1/3と小勢ながら、気迫では負けていない。彼らは作業用のツナギと、革手袋と安全靴を着用。腰から様々な工具が入ったポーチを吊るしている。
彼らこそはギルド【C】の職人達の中から選ばれた、魔導バイクの扱いに長ける魔導技師だ。整備は勿論、運転のテクニックも一流である事は言うまでもない。
対する彼らもまた、【毎日が産業革命】【大丈夫、Cの発明品だよ】【毎週金曜日はCポイント二倍デー】【月末に福引イベント開催】【来週水曜日、ギルマスの新作料理お披露目】などと書かれたノボリ旗を掲げている。ただの宣伝じゃねーか。
そして、そんな彼らの先頭に立つは皆様ご存知、ギルド【C】の最終兵器こと謎のおっさんだ。いつものツナギや黒い革ジャンではなく、敵対する男達同様に特攻服を着た、右腕が機械義手の目つきが悪い中年男性。
おっさんが敵対集団の前に歩み出ると、それに応えて彼らのリーダーであろう、天を衝くド派手なピンク色のリーゼント・ヘアの巨漢が前に出てくる。
おっさんの殺人的な目つきによるガン飛ばしを、リーダーは真っ向から受け止める。しばし無言で睨み合う両者。
先に口を開いたのは、おっさんだった。
「良い度胸だ小僧。その気迫に免じて遊んでやろうじゃねえか。勝負の内容はどうする?」
おっさんは、相手が少し睨まれた程度でビビる程度の奴ならば、有無を言わさず片付けるつもりで居た。だが、相手のリーダーはどうやら、おっさんの試験に合格したらしい。
「勝負の内容だァ……?そんなモンは決まってンだろうが……俺達ァ“走り屋”だぜ……?」
彼の言葉は、おっさんの予想通りの物であった。おっさんはここに来るまでに考えてあった勝負の内容を口にする。
「なら、バイクレースで勝負だ。此処からイグニスの街まで、一番早く辿り着いたヤツが勝者とする。そして同時に、そいつが所属するギルドの勝利になる」
「望むところだ……それと一応聞いとくが、二位以下の順位は考慮しねェんだな……?」
「当ったりめーだ馬鹿。おい、二番ってのは何だ?」
「……“敗者”の“一番”だ」
「わかってんじゃねえか。つまりそういう事さ」
そして両者の話し合いは進み、ここに規定が結ばれた。
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【ギルド戦争 交戦規定】
①:魔導バイクに乗り、先にゴールに辿り着いた者が勝者となる
②:①の勝者が所属するギルドが、ギルド戦争に勝利する
③:レース中、この場に居る全員で決闘を行なう
④:落車、転倒、クラッシュ、コースアウトした者は失格となる
③についての補足:
モードはバトルロイヤルモード。すなわち全員が全員に攻撃可能。
また、ダメージ補正は0%に設定する。
つまり、プレイヤーへの攻撃でダメージを与える事はできない。
ただし衝撃、ノックバック、バイクへのダメージは無効化されない。
【ギルド間の取決め】
ギルド【C】が勝利した場合:
亞屡華泥亞霊震愚連盟が【C】の傘下に入る
ギルド【亞屡華泥亞霊震愚連盟】が勝利した場合:
おっさんが自腹でサーキットを作り、無償で提供する
【備考】
勝者には初代スピードキングの称号が与えられ、永遠に称えられる。
また副賞として、全ての高速道路の永久無料パスが授与される。
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「条件はこんな所でいいか。問題は無ぇな?」
「“無”ぇぜ……!」
かくして、両ギルドに所属する命知らず達が、スタート地点に着く。
『【謎のおっさん】さんが、決闘の申請を行ないました。
モード:バトルロイヤルモード。
オプション:ダメージレート0%。
その他、特殊ルールを採用しています。
受ける場合はYESを、拒否する場合はNOを押してください』
全員の前に、システムメッセージが表示される。男達は一切の躊躇も見せず、力強くYESのボタンを押した。
すると、その瞬間である!
『決闘が開始されます。ルート上の一般車両は、直ちに退避して下さい。繰り返します。決闘が開始されます。ルート上の一般車両は、直ちに退避して下さい……』
ハイウェイ全体にアナウンスが流れる。それと共に、ハイウェイ全体がガシャンガシャンと派手な音を立てながら、様々なギミックが凝らされたレーシングコースへと変形していくではないか!
「“面白”ェ……!」
「おっさん工事の時に一人でなんかゴソゴソやってると思ったら、こんなの作ってたのか……!?」
その様子に誰もが驚きを隠せず、同時に興奮を抑えきれない様子であった。
「さあ始まるぜ。準備は良いか?糞野郎共」
おっさんの言葉に頷き、男達は魔導バイクに跨り、起動させる。
やがて赤色のシグナルが青に代わり、彼らは一斉に走り出した。
ライディングデュエル、アクセラレーション!