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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
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21.謎のおっさん、風になる(1)

 2039年、五月下旬。ギルド【C】は一大事業に手を掛けた。

 彼らの本拠地である大陸西部、イグニスの街は上質な鉱石の産地であり、彼らと協力関係にあるドワーフ族の協力もあって、鍛冶を中心に生産技術が栄えたアルカディア最大の生産拠点となっていた。


 だが一つ問題がある。イグニスの街は大陸西部エリアの中でも西端に存在するため、大陸の中心に存在するスタート地点であり、中継地点であり、アルカディア最大の都市である城塞都市ダナンとの間には結構な距離があることだ。ましてや北部や南部、東部エリアとは更に距離がある。


 折角、良い品を生産出来ても流通に難がある。この点に関しては、ギルド【C】内部でも以前から問題視されていた事だ。

 今はギルドメンバーが定期的に魔導トラック等で運搬を行なっているが、初心者から上級者まで、最も多くのプレイヤーが集まる城塞都市ダナンや、各地方の最前線に【C】自慢のアイテムを大量に流通させるためには、更にここからひと工夫が必要となってくる。


 そこで、ギルド【C】はギルド資産の半分以上を投資し、流通経路の開拓を行なったのである。彼らは莫大な予算と、ゲーム中トップクラスの職人達によるマンパワーを駆使して一心不乱に作業を行なった。そして、一週間後……。


「これで、ついに……」

「ああ、完成だ……!」


 最後の作業が終わり、遂にそれは完成した。

 城塞都市ダナンの西門から、イグニスの街までの整備された車道と、更にその上に架けられた高架橋――高速道路と高速鉄道である。


 モンスターが跳梁跋扈する荒野全体を舞台にした大工事であった。職人達がフル稼働したのは勿論のこと、工事中の作業員たちに容赦なく襲いかかってくるモンスター達を相手にする警備隊や傭兵も大量に動員された。

 時にはモンスターの大群に防衛線が突破されて、それまでの努力が水の泡になった時もあった。

 時には【C】の更なる躍進を妨害しようと企む敵対商売ギルドが雇ったPKによって、作業に大幅な遅延が発生した事もあった。

 時には突然乱入してきたフィールドボスによって、多くの犠牲が出た時もあった。

 だがそれらの困難を乗り越え、彼らは遂に成し遂げたのだ。


「ばんざーい!ばんざーい!」


 彼らはその偉業を共に成し遂げた仲間達と手を取り合い、その健闘を讃え合った。

 盛大な宴が開かれ、先日新たにギルドマスターに就任したクックと、その弟子達が作った料理が振る舞われ、彼らは大いに盛り上がった。


 車道と高速道路、鉄道の周辺にはモンスター除けの結界が張られ、またギルド【C】がダナンーイグニス間を行き来する高速バスや特急列車の運営を開始した事により、荒野を踏破できない初心者プレイヤーや、NPCも安全に、そして高速で二つの街を行き来出来るようになった。

 また当初の目的である流通の問題も、大きく改善されたのであった。




 だが、話はこれで終わりではない。

 2039年六月上旬、某日。突如、ある一団がハイウェイを占拠したとの報が【C】本城へと届けられた。

 その報を受けたギルドマスター・クックは、すぐに幹部を招集した。


「本日、ハイウェイを占拠した一団ですが……彼らはギルド【亞屡華泥亞あるかでぃあ霊震愚れーしんぐ連盟れんめい】の者達だと判明しました」


 集まった幹部達の前で、クックが語る。


「彼らは魔改造した魔導バイクに乗り、各地で暴走を繰り返している集団です。窃盗やPKといった犯罪行為は行なっていないようですが、騒音や危険走行で他のプレイヤーやNPCに迷惑をかける事も多いと聞いています」


 クックが、話に出た者達の姿を写したスクリーンショット……画像データを、全員に見えるように表示させた。

 彼らは皆、特攻服を身に纏い、魔改造されて派手な装飾がなされたバイクに跨っている。昭和の時代からタイムスリップして来たかのような、気合の入った暴走族スタイルだ。


「彼らは僕達が作ったハイウェイを不法に占拠し、危険走行を繰り返しています。幸いにも事故は起きていませんが、一般プレイヤーやNPCの交通に支障が発生している事は明白。こうなった以上は、早急に彼らを排除しなければなりません」


 険しい表情でクックが言う。そして彼は、一人のプレイヤーを指名する。


「おっさん……お手数をおかけしますが、ここはお願いしてもよろしいでしょうか」


 クックがその名を呼ぶと、この場に集った全員の視線がその男に集まった。

 ろくに手入れしていない、ぼさぼさの黒髪に無精髭。白いツナギを着崩した、だらしのない印象を受ける長身の中年男性。口には煙草を咥えており、殺人的に鋭い目つきが特徴的な、ガラの悪いおっさんだ。

 彼こそはギルド【C】の創始者にして前ギルドマスター、現在は一般メンバーだが【終身名誉超ギルドマスター】の称号を与えられた、職人だらけのこのギルドには珍しいバリバリの武闘派であり、ゲーム中でも屈指の戦闘能力を持つ最強の男。

 その名もズバリ、謎のおっさんである。


「フー……ダメだな、クック」


 だが、おっさんの答えはまさかの拒否。それを聞いてギルドメンバー達は動揺するが……


「なってねえ。今はおめぇがギルドマスターなんだぜ?ヒラ団員の俺にイチイチ気を使う必要は無ぇ。おめぇはただ、行ってこいと命令すりゃあ良いのさ」


 だが、それは早とちりであった。おっさんは、クックに組織の長としての威厳を示せと言ったのである。それを受けて、クックは前言を撤回し、改めておっさんに言う。


「では、おっさん。ギルドマスターよりミッションを下します。早急に現場に急行し、我々が苦心して作り上げたハイウェイを占拠する愚か者共を排除して下さい。拒否権は認めず、また完全勝利以外の結果も認めません。よろしいですね?」


 おっさんはその命令に、満足そうに頷き、起立した。


「アイアイサー。魔導バイクの運転が得意な奴を何人か連れて行くぜ」

「わかりました。責任は僕が取りますので、現場では自由に動いて構いません。全てお任せします」


 クックはおっさんを信頼して自由裁量権フリーハンドを与え、おっさんはそれに応えて全力を尽くし、最高の結果を出す事を約束した。


「野郎共、悪いが生産は一時ストップだ!楽しい楽しい戦争の時間だぜ!40秒で支度しな!」


 かくしておっさんはギルド【C】の精鋭達を引き連れ、ハイウェイへと向かうのであった。

生産と流通は経営の両輪です。

たとえ良い物を作っても、それをお客様の所へ届け、販売する手段を確立していないと色々と残念な事になります。

これを別々に考えてしまうとワケがわからん事になるので気をつけましょう。


実際に日本の生産者って、良い物を作る能力はあっても流通に無頓着な場合が多い気がする。

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