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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
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20.炎神イグナッツァ、兎を育てる

 炎神イグナッツァの朝は早い。

 大陸西部、イグニスの街にあるドワーフ居住区。その中心にある彼の神殿には、朝早くから多くの参拝者が訪れる。

 イグナッツァは目覚めると体を清め、正装に着替えた後に信者たちの前に顔を出す。そうして彼らに祝福を与えると、彼は神殿の裏手にある稽古場へと向かう。


 イグナッツァは炎を司る神であると同時に、闘争の神であり、アルカディアでもトップクラスの実力を持つ戦士でもある。

 ゆえに彼は信者達を相手に長々と小難しい説教をするよりも、共に稽古で汗を流す事を好む。彼の信者もまた、暑苦しいドワーフや脳筋の戦士達が中心であるゆえ同様だ。


「……よし、今日はこれくらいにしておこうか。では、解散ッ!」

「「「「「押忍!ありがとうございましたッ!」」」」」


 稽古で信者達や冒険者達を叩きのめした後は、イグナッツァは温泉に入って疲れを癒す。

 おっさん率いるギルド【C】の精鋭達と、ドワーフ達が共同でこの神殿を作った際に掘った温泉の露天風呂である。

 イグニスの街は火山と、そこから採れる上質な鉱石を扱うドワーフ族と【C】の職人達が営む大鍛冶場、そしてこの温泉が名物だ。

 イグナッツァは温泉に浸かりながら、物思いに耽る。


(冒険者達の実力も上がってきている。そろそろ何人かの者達には我が奥義を授けても良いかもしれん)


 神に捧げ物をしたり、クエストをこなしたり、また稽古や模擬戦をして実力を認められたりして神の評価が上がると、加護のレベルが上がる、彼らが使う専用の奥義を伝授される、特殊なアイテムを貰える等といった特典がある。

 イグナッツァは足繁く通っている冒険者達の内、何人かの実力を己の奥義を伝授するに足るものだと認めたようであった。


(特にあの珍妙な名前の小僧は、阿呆だが見所がある。まだまだ未熟だが、育て甲斐があるというものだ)


 その中でも特に見所のある冒険者の一人を思い浮かべ、イグナッツァはニヤリと楽しそうな笑みを浮かべるのであった。


(さて……腹が減ったな。そろそろ朝飯を食いに行くとするか)


 そう考え、イグナッツァは風呂から上がると、外出用の服に着替えるために自室に戻ろうとする。その時であった。


「……む?なんだお前、また来たのか」


 イグナッツァは自室に戻る途中で、ある物に気付いて足を止めた。

 それは神殿の中心に描かれている、火炎属性を増幅するための錬成陣に鎮座していた。

 白いツナギを着て床に座り、口には細長い棒状の物を咥えてふてぶてしい表情を浮かべている。

 飼い主そっくりの傍若無人な態度を取るその生物は、赤い毛並を持つ小さな兎であった。

 兎はイグナッツァに気付くと、無言で右の前足を上げてピョコピョコと動かし挨拶をする。イグナッツァはそんな彼を片手で掴み上げると、その兎の飼い主の元へと向かうのだった。



  ◆



「邪魔するぞ」


 ギルド【C】の本城にある、おっさんの自室兼工房にて。ソファーでくつろいでいたおっさんの元に来客があった。


「お?イグナッツァじゃねえか。わざわざどうした」

「どうしたではないわ。また貴様の所の兎が神殿に居座っておったぞ」

「おっと……姿が見えねえと思ったら、まーたお前さんの所だったか」


 イグナッツァが兎……おっさんのテイミングモンスターである、ファイアラビットのヴォーパルを離す。ヴォーパルは床に着地すると、そのまま歩いてきておっさんの隣に座った。

 おっさんが煙草を咥えると、ヴォーパルが指先に小さな火を灯してそれに火を点けた。


「ありがとよ」


 おっさんはヴォーパルの頭を撫でると、アイテムストレージから人参スティックを取り出してヴォーパルに差し出す。

 ヴォーパルはそれを咥えると、おっさんと同じようにソファーに座り、ふんぞり返って人参スティックをボリボリと音をたてて食べ始めた。

 ペットというのは飼い主にここまで似る物なのか、と半ば感心し、半ば呆れるイグナッツァであった。


「まあ仕方ねえさ。コイツの属性はお前さんと同じ火炎属性。その属性が一番強い神殿は、コイツにとっても一番過ごしやすい場所なんだろうな。更に炎を司る神である、イグナッツァ様ご本人もいらっしゃると来たもんだ。さぞかし居心地が良かろうよ」


 おっさんの言う通り、火炎属性が強い大陸西部エリアは、同じ属性を持つヴォーパルにとって非常に相性の良い環境である。

 そのため生まれて間もないというのに、ヴォーパルは普通では考えられない速度で成長していた。

 特にイグナッツァの神殿は、フィールドの火炎属性が最も強い場所である上に炎神の住居でもある。火炎属性を持つモンスターにとっては非常に良い場所であった。


「それはわかるのだが、だからといって毎日のように入り込まれるのもな」


 イグナッツァはそう苦言を呈するが、それに対しておっさんはある提案をする。


「そこで一つ相談があるんだがな……イグナッツァ、お前ちょっとコイツを預かってくれねえか?」

「ほう……?詳しく聞こうか」

「おう。ヴォーパル……この兎なんだが、【コールパートナー】で呼びだしてる時以外は城ン中で好きに遊ばせてるんだが、どうせ遊ばせとくならお前さんの所に預けてみようと思ってな。コイツもこの城より、神殿のほうが居心地が良いみてえだし、何よりコイツにとって、俺よりもお前から学べる事が多そうだからな。」


 おっさんの提案に、イグナッツァは少し考えて、


「話はわかった。貴様には色々と世話になっているゆえ、その頼みを聞く事は吝かではない。だが我としても、この兎だけを特別扱いする訳にはいかぬ」

「成る程。つまり?」

「テイミングモンスターの飼育・訓練用の施設を神殿の裏手に作って貰えれば、その兎を預かろう。そうすれば他の冒険者達のモンスターも預かる事が可能になるだろうしな」

「よし、商談成立だ。さっそく工事に取り掛かろうじゃねえか。費用は全部俺持ちでいいぜ」


 かくして、おっさんは工事道具と大量の資材を手に、神殿へと赴いた。


 ――そして、次の日。


 おお、なんということでしょう。殺風景だった神殿の裏手に、匠の手によって一夜にして巨大な施設が建設されたではありませんか!


 大小様々なペットを受け入れるために、ペットのサイズに合わせた個室を用意するのは勿論の事。それぞれの個室にはペット用の快適なベッドや玩具、自主トレーニング用のマシーンが完備。快適な環境を用意するためのエアコンも備え付けられています。

 食堂にはギルド【C】料理チームの研修を受けた料理人NPCが多数在籍しており、それぞれのペットに合わせた高級な食事を用意しています。また飼い主であるプレイヤー用の料理もバッチリ用意できるため、ペットと一緒に美味しい食事を楽しむ事も可能。

 更にギルド【C】の魔法工学チームが制作した、最新鋭の機器を導入した充実のトレーニングルームに、ペットの心と体を癒す温泉、他のプレイヤーのペットと、ペット同士での触れ合いを楽しめるレクリエーションルームなどなど、とても充実した内容になっています。

 また、なんといっても目玉は、併設された神殿に住まう炎神イグナッツァ直々の指導が受けられるという点でしょう。

 彼の神殿と同様に、施設内には非常に強い火炎属性が付与されているため、火炎属性のペットにとっては非常に過ごしやすく、また成長しやすい環境である事は間違いなし。

 さあ、火炎属性のモンスターを持つテイマーの皆!今すぐ炎神の神殿にダッシュだ!


「誰がここまでやれと言った!?」


 上記の宣伝文句が書かれた、ギルド【アルカディア情報局】が発行している情報誌を床に叩き付けてイグナッツァが怒鳴った。

 だが、怒鳴られたおっさんはいつもの飄々とした様子で、


「何事もやるからには全力でやるのが俺のモットーでね。それじゃ、コイツの事よろしく頼んだぜ。たまに様子を見に来るからよ」


 そう言い残して、軽い足取りで去っていくのだった。


「もきゅ」


 いきなり神殿裏に建設されたクソデカいペット用施設を前に肩を落とすイグナッツァ。そんな彼を慰めるように、前足でその肩をポンポンと叩くヴォーパルであった。



大変お待たせしました。


火炎属性って割と地味というかありきたりに見えますが、私が前回ダイス振った時は「火炎属性かぁ……そっか……(白目)」となったんですよね。

そら(本拠地に同じ属性の神がいたら)そう(超スピードで謎の進化を遂げる)よ

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