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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
113/140

19.謎のおっさん、ペットを飼う(4)

「おっさんが来たぞおおおおお!しかも今日はカズヤさんも一緒だ!」


 ざわっ!男が放った一言に、露店エリアに存在するプレイヤー達が一気に色めき立つ。このゲーム、アルカディア内で最強と目されるトッププレイヤーであり、また最高峰の腕を持つ職人プレイヤーであり、また誰よりも多くのゴールドを所持する資産家でもあるおっさんは、商売をするプレイヤー達の注目の的だ。その同行者であるカズヤもまた、おっさんと並び称されるほどの有名人である。彼らの大袈裟な反応も妥当なものだと言っていいだろう。


「おっさんだ……本当に来やがった……」

「カズヤさんもいるぜ……まさかあの二人が一緒に来るとはな……」

「目つき怖ぇ~」

「キャー龍王様ー!」

「あの白い竜、なんかデカくなってね……?」

「おっさんの腕、マジで機械になってるぞ……」


 露店の商品を見てまわるプレイヤー達も、思わず足を止めて彼らに注目した。そんな彼らの視線を受けながら、おっさん達は露店巡りを開始した。


「あっちは武器、こっちはアクセ……卵は売ってねえか」

「レアアイテムだからな……そう簡単には見つからないか」


 通りを歩きながら、プレイヤー達の出す露店を見て回るおっさんとカズヤだったが、なかなか目当ての品は見つからないようだ。その時、おっさんが何かを見つけたように足を止めた。


「見つかったか?」

「いや、残念ながら外れだが、良いモン売ってるから買ってくるぜ」


 そう言っておっさんはプレイヤーの露店へと向かうと、鍛冶の素材となる稀少金属のインゴットを、幾つか購入して戻ってきた。


「もっと安く売っている露店が近くにあるようだが」

「確かに値段はちょいと割高だったがな。その分こいつは丁寧に作られていて品質が良い。確かに数値上では大して差は無いように見えるかもしれねえが……最高の物を作るには、そういう細かい部分が大事なのさ」

「ふむ。そういうものかもしれんな」


 ちなみに、おっさんがインゴットを購入した露店には周囲で様子を伺っていた職人プレイヤー達が殺到し、販売されている鉱石を根こそぎ奪い合うようにして購入していき、一瞬にて売切御免。

 何しろ、おっさん直々に「これは良い物だ」とのお墨付きが出たのである。一番いい物はおっさんが持っていったであろうが、その売れ残りでも一般プレイヤーにとっては十分に価値のある物なのであった。


「キュイ~」

「ん……どうした、ルクス」


 その時である。カズヤの連れている白い竜、ルクスが鳴き声を上げると、ある露店に向かって歩いていった。


「どうしたんだ、おめーのドラゴンは」

「わからん。だが何か見つけたようだ。追ってみよう」


 おっさん達がルクスを追いかけて暫く歩くと、とあるプレイヤーが開いている露店へと辿り着いた。


「らっしゃーせー……って、おっさんにカズヤさんじゃねーか。わざわざこんな所まで来るたぁ珍しいな。何か探してる物でもおありかい?」

「おう、レッドか。おめーこそ露店を開いてるなんざ、随分似合わねえ事やってんじゃねえか」


 椅子に深く腰掛け、やる気のなさそうな声でおっさん達を出迎えたそのプレイヤーの名はレッド。赤い髪に赤い服、上から下まで赤一色で統一した女性プレイヤーであり、おっさん達と同様にトッププレイヤーの一人である。

 おっさんがレッドに挨拶を返した、その時だった。ここまでおっさん達を先導してきたルクスが、レッドの露店に並べられているアイテムのひとつを指差しながら、鳴き声をあげた。


「キュッキュッ。キュイ~」

「おっ?おお、こいつぁ探してたブツじゃねえか!」


 ルクスが指差す先に鎮座していたのは、白く巨大な卵。すなわちモンスターの卵であった。


「なんだ、モンスターの卵をお求めかい?だがこいつはレアだぜ」

「まあ、相当出にくいらしいな。それで幾らだい?」

「そうだなァ……よし、タダでプレゼントしてやるぜ。代わりに、そのうち俺のお願いを聞いてくれよ」


 値段を聞かれて、レッドは少し考えた後にそう言った。


「やれやれ、どんなお願いなんだか……。タダより高ぇモンは無いたぁ良く言ったモンだ」

「おや、おっさんともあろうお方がビビってらっしゃる?嫌なら別にいいんだぜ?」

「ハッ!見くびるんじゃあねえぜ小娘。ガキの頼み事の百個や二百個、楽勝よ」

「言ったな?よーし、なら交渉成立だ。持っていきな」


 レッドがおっさんに、大きな卵を手渡す。おっさんはそれを受け取ると大事そうに抱えた。


「ところでおっさん、肝心の……卵の中身は何だ?」

「おっ?そう言やそうだ。そいつを確認していなかったぜ」


 カズヤの問いを受けて、おっさんは今しがた手に入れたばかりの卵の情報を開示した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【ファイアラビットの卵】


 種別 モンスターの卵


 【解説】

 モンスター・ファイアラビットが生まれる卵。

 実体化させ、テイミング技能を持つ者が卵の世話をする事で孵化する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ファイアラビット……炎の兎か?見た事が無ぇモンスターだな」

「恐らく、卵限定のモンスターだ。俺も見るのは初めてだが、卵から生まれたアイスラビットなら見た事がある。野生のものは存在しない筈」

「ほう、そんなのも居るのか。おうレッドよ、こんなモン何処で手に入れやがった?」

「んー?火霊窟(超級)のボス部屋の宝箱からだぜ。多分、それぞれのダンジョンと同じ属性のヤツが出るんじゃねえの?」

「成る程ね……。なら水霊窟からは冷気属性の、風霊窟からは疾風属性の兎が採れる訳か。ところで兎以外にも居るのか?これ」

「今簡単に調べたところ、犬や猫、鼠なども存在するようだな」


 卵を抱えたまま、露店の前で話し込むおっさん達であったが、そうして少し時間が経つと、やがておっさんの抱えていた卵がひとりでに振動し始めた。


「何だ?急に震えだしたぞコイツ」

「孵化が始まるようだ。そのまま抱いていればそのうち産まれるだろう」


 カズヤの言葉に従い、おっさんは卵を抱えたまま暫く待つ。すると、その卵にヒビが入った。亀裂が卵の表面全体へと広がっていき、やがて卵が割れる。


「……キィ?」


 卵の中から現れたのは小さな、赤みがかった毛並みの兎だった。それはおっさんの腕の中でか細い鳴き声をあげると、おっさんの顔を見たり、匂いを嗅いだりといった行動をし始めた。

 少しの間そうしていると、おっさんの目の前にシステムウィンドウが出現する。


 『【ファイアラビット】がテイミング可能になりました。仲間に加えますか?Y/N』


 おっさんがYESボタンを押すと、ファイアラビットの体が一瞬光り輝いた。そして、続けて表示されるシステムメッセージ。


 『【ファイアラビット】が貴方のテイミングモンスターになりました』

 『一匹目のテイミングモンスターが仲間になりました。これにより、【テイミング】スキルに属するアビリティが、幾つか解禁されました』

 『【テイミング】スキルのSLvが2に上昇しました』

 『テイミングした【ファイアラビット】の名前を入力してください』


「名前か……」

「ああ。最後にその個体だけの名前を付けてやる事で、そのモンスターは唯一無二の存在になる」

「そうか。なら……」


 おっさんは目の前に表示されたダイアログボックスに、文字列を入力していった。そこに入力された文字は……


 【Vorpal】


 おっさんはそう入力し、エンターキーを押した。


「今日からおめえはヴォーパルだ。よろしく頼むぜ!」


 そう声をかけて、おっさんはヴォーパルと名付けられたファイアラビットを抱え、その頭を撫でた。ヴォーパルはくすぐったそうに身を捩りながら、嬉しそうな鳴き声を上げた。


「……名前の由来は首狩り兎(ヴォーパルバニー)か。一体どんな育て方をするつもりだ、おっさん」

「色といい、なんだか親近感が沸きそうだぜ。あの兎」


 そしてそんな彼らを見て、なんだか嫌な予感をひしひしと感じるカズヤと、ワクワクした様子でニヤリと笑うレッドであった。

ちなみに、おっさんのテイミングモンスターの種類はダイスを振って決めました。内容は以下の通り。


【モンスターの大きさ:1D100で判定。数値が大きいほど大型】

結果……10。小型。この結果をもって次の判定へ


【モンスターの種類:1D6で判定。1から順に犬・猫・鼠・兎・鳥・虫】

結果……4。よって兎に決定。


【モンスターのレア度:1D100で判定。数値が大きいほどレア】

結果……81。よって相当なレア物。


【モンスターの属性:1D10で判定。1から順に火炎・冷気・疾風・大地・電撃・猛毒・神聖・暗黒・混沌・虚無】

結果……1。よって火炎属性。


以上の判定結果により、火炎属性の兎(激レア)が誕生しました。

いやあ、大きさ90台とかでなくて良かった。

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