18.謎のおっさん、ペットを飼う(3)
「何もしてねえのに死んだぞ」
「初めてパソコンに触った年寄りか」
あれから小一時間後、おっさんは何匹ものモンスターに捕獲アビリティを試みた。だがその結果は散々であった。
最初の狼のように恐怖して逃げる者もあれば、破れかぶれで襲い掛かってくる者もあった。彼らはいずれも全て死亡し、無情にもおっさんの経験値になった。
不満顔で戻ってきたおっさんは開口一番、先の台詞を口にしたのだが、それに対してカズヤが冷静なツッコミを入れた。
「俺もつい忘れていたがおっさん、現実でも動物から避けられるだろう」
「お、そうだな。昔サバンナでライオンの群れに出くわした時なんか、ちょいとガン飛ばしてやったら連中、全員クソ漏らしながら逃げていきやがったぜ」
「それは初耳だが、兎に角おっさんの威圧感が強すぎて動物が怯えるのが原因だろう。普段は抑えていても、野生の動物はそういうのに敏感だからな」
カズヤの言うように、戦場で暮らしてきた歴戦の強者であるおっさんの内から滲み出る殺気や威圧感といった物が感じとれるのか、ライオンや虎、熊のような凶暴な獣であっても彼に立ち向かおうとはしない。とはいえ、ゲームの中ではモンスター達は、普通におっさんに対しても襲い掛かってきていたのだが……
その疑問を口にすると、カズヤは言った。
「テイミングモンスターは通常のモンスターと違って、人工知能が搭載されて個体ごとに独自の思考・意志が芽生え、成長するようになるんだが……それはいつ生まれると思う?」
「………………そうか、【捕獲】アビリティの対象になった時か?」
少考した後、おっさんはカズヤのその問いに答えを返す。それを聞いてカズヤは頷いた。
「正確には捕獲アビリティが使用されて、その成否判定が成される。それに成功した時に、初めてそのモンスターに僅かな自我が芽生える」
つまり順番としてはこうだ、と言って、カズヤはテキストエディタを起動し、素早くウィンドウ上に文字をタイピングした。彼が書いた内容は以下の通りである。
① プレイヤーがモンスターに対して【捕獲】アビリティを使用する
② システムにより【捕獲】アビリティの成否判定が行なわれる
③ ②に成功した場合、対象になったモンスターにAIが実装される
④ AIが搭載されたモンスター自身が、プレイヤーに従うか自ら判断を行なう
⑤ ④の判定に成功した場合、テイミングモンスター化する
⑥ ④の判定に失敗した場合、AIは一定時間後に消去され、通常のモンスターに戻る
「ほーう。成る程……つまり、だ。俺が捕獲アビリティを使おうとした瞬間に奴等が逃げたのは……目覚めたばかりのAIが俺にビビって逃げたせいだ、という訳かい」
「そういう事になるな。おっさんは②の判定には成功しているが、肝心の④に失敗しているわけだ」
「……なら、どうする?俺にビビらねえようなメンタルの強ぇヤツでも探せばいいか?」
「それも難しいかもしれんな……強いモンスターが相手だと、【テイミング】スキルや捕獲アビリティのレベルが高くないと難しい。今度は②の判定に失敗すると思う」
「………………詰んでねえかコレ」
あちらを立てればこちらが立たず。どうにもならない状況に、おっさんは頭を抱えた。
「……いや待て。俺に考えがある」
だが良いアイディアが浮かんだらしく、カズヤはおっさんに別の手段を提示してみせた。
「卵を孵化させればいい。卵を孵化させて生まれたモンスターは、野生のモンスターよりもプレイヤーに懐きやすい。可能性はあると思う」
「ほう……ならそれで行こうじゃねえか。ところで、そのモンスターの卵ってのは何処で手に入るんでい?」
「問題はそこだ。モンスターの卵はとにかく入手が難しくてな……一部のボスモンスターのレアドロップだったり、ごくまれにダンジョンの宝箱から入手できたりするんだが。後は、俺をテーマにしたガチャからも幾つか出るようだが……」
「成る程、かなりのレア物なんだな。……待てよ?っつー事はだ、プレイヤー間で取引されてたりはしねえのかい?」
おっさんの言葉に、カズヤはなるほどと頷いた。
「そうだな……レアアイテムとは言ってもテイマー以外には無用の品だ。市場に出回っている可能性はあると思う」
「なら決まりだ。ちょっくら探してみようじゃねえか」
次の行動が決まった。おっさん達は城塞都市ダナンへと戻り、大勢のプレイヤー達が露店を出している区画へと足を運ぶのであった。
ちなみにこの世界のモンスターの大部分は卵から生まれます。