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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第一部 おっさん大地に立つ
11/140

謎のおっさん、新兵器を作る

 フィールドボス【イーヴィルメタルゴーレム】を撃破した翌日。

 ボス撃破の報酬によって多額のゴールドと稀少な素材を入手したおっさんは、素材不足により中断していた作業を再開した。

 ボス撃破によって得た経験値を用いて、生産スキルに属する様々なアビリティをレベルアップ、あるいは新規習得し、準備は万端……と、思ったのだが。


「……やべ、ミスった」


 制作作業も佳境に入る頃、突然手を止めたおっさんが顔をしかめる。その理由は、生産の失敗による素材不足である。


「チッ、参ったな……やっぱりこうなったか」


 生産スキルを用いてのアイテム制作は、必ず成功するわけではない。作ろうとするアイテムの制作難易度に応じて、生産用アビリティのアビリティレベルやステータス値が要求される。

 本来であれば、おっさんがミスをする事は滅多に無いのだが……今回おっさんが作ろうとしている物は、普通の武器とは少し異なる物だった。


 おっさんが生産に使用したアビリティは【特殊武器製造】。

 剣や槍、斧などの、既存のカテゴリから外れたオリジナルの武器を生み出すためのアビリティである。

 言うまでもなく、そういった変わった武器を作り出すのは通常の武器を作るのよりも、遥かに難しい。おっさんがミスをしたのも無理は無いと言える。


 とはいえ、おっさんが痛恨のミスを犯した事に変わりはない。

 だがやってしまった物は仕方がない。これからどうやって素材を集め直すか……と、おっさんは考える。

 幸い、不足している素材はごく僅かだ。これ以上のミスが無ければ、あと魔鉄鉱が一つあれば十分だろう。

 おっさんがそこまで考えて、仕方ないからプレイヤーの露店を探すかと立ち上がった、その時だった。


「おっさん居るかコラァ!」


 バン!という音と共に、扉を乱暴に開け放って作業場に上がり込む闖入者の姿。その正体は、あのモヒカンだ。

 ちなみに彼の頭上に表示されているプレイヤーネームは【モヒカン皇帝】という。無駄に偉そうな名前である。


「何だクソガキ。喧嘩のお誘いなら後にしやがれ」


 おっさんは入ってきたモヒカンへと向き直り、そう吐き捨てる。モヒカンはそんなおっさんへと向けて、アイテムストレージからあるアイテムを取り出し、差し出すのだった。


「それも悪くねえが今日は別件だ。これを渡しに来た」


 それは……何と、ちょうど今おっさんが求めていた物。すなわち稀少鉱石【魔鉄鉱】であった。


「――おい、どこで手に入れやがった、こんなもん」


 ちょうど求めていた物が向こうからやって来て、しかもそれを持ってきたのがあのモヒカンである事に、流石に驚きを隠せないおっさんが尋ねる。するとモヒカンはニヤリと笑って、


「でっけぇ熊を倒したら出たんだよ。アンタと違って五人掛りだが、俺らだってトッププレイヤーの首を狙ってんだ。あんな熊くらい倒せなきゃ、話にならねぇだろうがよ」


 そう言って胸を張るのだった。


「で、アンタこの間、武器くれた時に言ってただろ?何か素材になりそうなモン拾ったら持ってこい……ってな。つーワケで受け取りやがれ!どれくらいの値段かは知らねーがな!」


 おっさんはモヒカンの手から魔鉄鉱を受け取ると、やれやれと呆れたように肩をすくめて言う。


「まさか、未鑑定のまま持ってくるたぁ思わなかったぜ。アホのおめーは知らねぇだろうが、こいつぁかなりレアな鉱石なんだぜ?渡す前に鑑定と、相場くらい調べとけってんだ。……だが正直、こいつが欲しいと思っていた所だからな。これで貸し借りは無しって事にしといてやらあ」

「ほーう、そうかい。なら今度からは遠慮無く挑ませて貰うぜ。じゃあまたなオッサン!ヒャッハー!」


 言うなり、モヒカンは外へと駆け出していった。恐らくまた、仲間達と共にモンスターを狩りに行くのだろう。


「おうクソガキ!出る時はドアくらい閉めて行きやがれ!」


 おっさんは遠ざかっていく背中に向けて怒鳴ると、さっそく貰った魔鉄鉱を魔鉄へと精錬するのだった。

 これで必要な素材が揃い、おっさんは作業を再開するのだった。


 まずおっさんが作ったのは、魔導銃の部品だ。8インチの銃身バレルから銃把グリップまで、全て魔鉄製で作り上げた。

 次に動力部だが、核となる魔石は先日ゴーレムから入手した高品質な魔石を使用する。そしてその周辺の内部機構には、魔力の伝導率が高いミスリル製の部品を使用した。

 これらを組み立てれば魔導銃が完成するのだが、おっさんはそれ以外にも追加で部品を制作する。

 それは、小振りな刀身であった。短剣の刃の部分のようなその部品は、やはり漆黒の魔鉄製。おっさんはそれを銃の先端に取り付けた。


 そうして完成した物は、先端に銃剣が取り付けられた黒い魔導銃。

 銃剣付きの拳銃。一見トンデモ武器に見えるが、実はこのような銃剣付きの拳銃は、我々の世界にも実在する。

 尤も残念ながら、実在するその銃も実用性に乏しい、ネタ武器といった評価を受けているのが現実ではあるのだが。


 常識的に考えれば、拳銃の先端に銃剣を付けたとして、メリットよりもデメリットのほうが大きいだろう。接近された時に銃剣で接近戦が出来るのは利点かもしれないが、それで銃自体のバランスが悪くなり、射撃に悪影響が出ては本末転倒という物だ。 

 だがおっさんは、これは使えると考えていた。

 この形状ならば拳銃と短剣という、おっさんが得意とする両方の武器として扱う事ができる。


 形状が独特すぎて対応するホルダーが無い?

 ――その問題は専用のガンホルダー兼、鞘をアンゼリカに作らせる事で回避する。


 武器としてのバランスが悪い?

 ――そんな些細な問題は、技術と工夫でどうにでも出来る。


 なぜ稀少な素材を惜しみなく使ってこんな意味不明な物を作った?

 ――そこに浪漫があるからだ。


 かくして、おっさんの新兵器が完成した。

 おっさんが【作業終了】ボタンを押し、アイテムを完成させる。するとその瞬間、生み出されたアイテムを中心にエフェクトが発生した。

 おっさんが作り出したそれが、激しい光を放つと共に、システムメッセージが流れる。


『おめでとうございます。神器級武器アーティファクトが完成しました』

『神器級以上の武器は、制作された時にランダムで銘が入ります。そのアイテム名は重複する事が無く、この世界でただ一つだけの特別な物となります』


「来たか……!」


 品質★8~9の武器は【神器級】と呼ばれる。その製作難易度と性能は、品質7以下とは比べ物にならず、これまで職人プレイヤー達が生産したアイテムの品質は、全て最大でも★×7で止まっていた。

 それをプレイヤー達は「七の壁」と呼び、それを超える事を目標に努力を続けているのだった。ちなみに七の壁とは、別にナナ嬢のバストが壁のように平坦だという意味では決してない。

 話がずれたが、今日この時をもって、壁はおっさんによって越えられた。世界で一つ目の、神器級武器の誕生である。


 おっさんは目の前の、完成したての武器を見ると、純粋な黒一色の銃身と、その先端に取り付けられた銃剣は黒い雷光を纏い、妖しく輝いていた。

 おっさんがその詳細を確認する。


――――――――――――――――――――――――――――――

 【ブラックライトニング】


 種別 魔導銃剣マジックガンブレード

 品質 ★×8(神器級アーティファクト

 素材 魔鉄

 耐久度 32/32

 製作者 謎のおっさん


 【装備効果】

 攻撃力:射撃+44 切断+30 刺突+30 魔法+20

 防御力:物理±0 魔法+10

 全ステータス+10


 【付加効果】

 [浸透5]物理攻撃時、25%の確率で相手の防御力を無視する

 [闇刃5]物理攻撃時、対象に暗黒属性の追加ダメージを与える Lv5

 [精密4]クリティカル率+20%

 [雷刃3]物理攻撃時、対象に電撃属性の追加ダメージを与える Lv3 


 【解説】

 銃剣付きの魔導銃『魔導銃剣』の試作機にして、高い攻撃力と様々な特殊効果を持つ神器。

 大型拳銃に銃剣を取り付けた形状で、通常の魔導銃より扱いが難しい。

 また、素材の特性から魔法とも相性がいい。

――――――――――――――――――――――――――――――


 おっさんは完成した魔導銃の情報を見て、ぐっと拳を握る。するとその瞬間、背後で歓声と拍手の嵐が巻き起こった。


「おっ……?何でぃおめーら、いつから居やがった」


 おっさんが後ろを振り返ると、そこには生産職人達の姿があった。

 彼らは稀少素材を大量に使用して妙な物を作っているおっさんに注目しながらも、彼の集中を乱さないように今まで黙って見ていたのだ。

 そして完成した、傍から見ても凄そうな武器を見て、彼らはそれまで黙っていた事の反動のように、一斉に声をあげた。


「おっさん、おめでとうー!」

「形も変わってるが、すげぇモン作ったな!」

「神器キタアアアアアアアアア!」

「先を越されちまったなぁ!俺も続くぜ!」

「あたしも!インスピレーションが湧いてきたわ!」


 口々に祝福の言葉を投げかける職人達。それに対しておっさんは驚き、そしてふっ……と笑う。


 こんなに多くのPC達が周りに居て、それに気づかない程に夢中になっていた事。そしてその努力が報われた瞬間を、数多くの職人達が祝ってくれている事。

 それを思うとおっさんは、こみ上げてくる笑いを抑えきれなかった。

 照れ臭いのか、おっさんはそれを隠すようにして口を開き、低く、渋い声でこう言うのだった。


「……ったく、人の作業を覗き見てんじゃねぇよ、この暇人どもが!」



  ◆


 『システムメッセージ』


 『イリーガルウェポン【魔導銃剣】がシステムに登録されました』

 『イリーガルウェポンとは、本来システムが設定した武器カテゴリに含まれない、特殊な形状・機能を持った武器の事を指します』

 『イリーガルウェポンはプレイヤーの生産スキルによって作成され、その実用性がシステムに認められる事で新たに登録されます』


 『イリーガルアビリティ【魔導銃剣制作】がシステムに登録されました。所属スキルは【魔法工学】になります』

 『イリーガルアビリティとは、プレイヤーの行動によって新たに生み出される、本来の仕様には無いアビリティの事を指します』

 『同様にスキル、アーツ、魔法についても、同様にプレイヤーの行動によってイリーガルスキル、イリーガルアーツ、イリーガルマジックとして新たに登録される事があります』

 『システムがその有用性・汎用性を認めた場合、イリーガルスキルは正規のスキルとして採用される事があります。アビリティ、アーツ、マジックについても同様です』

 『プレイヤー名【謎のおっさん】は、イリーガルアビリティ【魔導銃剣制作】を習得しました』


 『イリーガルウェポン【魔導銃剣】の誕生により、システムはイリーガルスキル【魔導銃剣】、および上記スキルに属するアビリティとアーツを作成します』

 『実装まで少々お待ち下さい』

(2013/12/20 誤記修正・表記を読みやすく修正)

(2015/2/27 大幅改稿・加筆修正)

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