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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
107/140

シリアス(笑)な展開に飽きて、ついカッとなって書いた番外編(後編)

「じじい!その種モミをこっちによこせぇーッ!」


 モヒカンはスミス老人が大事に抱える小さな袋を……そう、【種モミ袋】を指差してそう叫んだ。


 【種モミ】ッ!それは今日より明日を望む男達の夢!荒れ果てた大地に残された希望!

 そのまま食材として使う事も可能だが、大地に植えて育てる事で実りをもたらす。


 種モミはこの荒野で時々採集することができるレアアイテムであり、この地に生きる者達にとってはまさしく神の恵みであった。

 今は荒野と、この大陸の中央部を隔てていた封印も解かれ、またギルド【C】が作った大陸横断鉄道によって、他の地方から食材を輸入する事も容易になっている。


 スミス達のように昔からこの荒野に住んでいた農民達は、その恩恵に感謝しつつも、今もこのように種モミを探し、育てる事を続けていた。

 そうする事で、少しでも早くこの地に豊かな実りが戻るようにと祈りをこめて、彼らは今日も僅かな種モミを探し、育てている。


 ――だが、それを邪魔する悪党共もまた存在していた。


 【種モミ】ッ!それは明日より今日を生きる男達の憧れ!世紀末系男子にとっての垂涎の品!

 モヒカン達にとっては常に略奪したい物ランキングの最上位に位置する魅惑のアイテム!

 どういう理由かは知らないが、モヒカン達にとって種モミを略奪する事はある種のステータスであり、それを成し遂げた者はカリスマと呼ばれる存在になるのである!

 なぜ彼らがそれほどまでに種モミに執着するのかは分からないし分かりたくもないが、とにかくモヒカンと言えば種モミであり、種モミと言えばモヒカンなのである。古来より荒野において農民とモヒカン達が種モミを巡って争ってきた事はあまりにも有名だ。聖書にもそう書いてある。


 そして今まさに、モヒカン達は種モミを狙ってスミス老へと襲いかかっていた。

 彼らのうちの一人、鉈のような形の短剣を手にした世紀末ファッションの男が、種モミ袋を狙って手を伸ばす。

 危ない!このままでは種モミが彼らに奪われてしまう!


「あたぁっ!」

「ぶべぇーッ!?」


 だがその瞬間、突然種モミを狙っていた男が派手に吹き飛んだ。

 見れば顔面を大きく陥没させ、ノーバウンドで地面と水平に数十メートルも吹き飛んだそのプレイヤーのHPが、半分以上失われているではないか。

 そして、そこには拳を突き出した姿勢のスミス老人の姿があった!


「じ、じじい!てめえ一体何を……!?」

「コォォォォォォ……ほあたっ!」

「うわらばっ!?」

「てめえ、よくも仲間をやりやがったな!」

「あーたたたたたたたた!」

「ぶべぇーッ!?」

「こ、こいつ強ぇぞ!囲んで対処しろ!」

「おぬしはもう死んでおる」

「ちにゃ!?」


 何と、スミス老人は目にも止まらぬ動きで、次々とモヒカンの仲間たちを倒していくではないか!一体これはどういう事か!?


「じじい……貴様、いったい何者だ!?」


 モヒカンが問いただす。その問いを聞くと、スミスはこらえきれないように笑い出す。


「クックックッ……愚か者どもめ。わしがただの農民だとでも思ったか!」


 そう言うとスミスは右手でメニューを操作し、自らのスキルウィンドウを公開状態で開いて見せた。

 そこには農業のマスタースキルである【農業・極】や、生産スキルもいくつか存在したが……


「わしの格闘スキルのレベルは94!暗殺スキルのレベルは91!それ以外にも様々な戦闘補助スキルが軒並み80以上よォ!」


 何と、スミス老人のスキルを見てみれば、暗殺拳をほぼ極めたような構成ではないか。しかもメインとなっている【格闘】と【暗殺】に至っては、あと少しで100になってマスタースキルに進化できる程である。


「くっ……こいつ、ただのジジイじゃねえ!こいつはまさに……伝説の【種モミ拳士】!」

「伝説って?」

「あぁ!それって北○神拳伝承者?」

「種モミ拳士!?種モミ拳士だと!?」

「なんだそれは!?たまねぎ剣士の親戚か何かか!?」


 モヒカンズの一人がその名を口にすると、彼らの間に戦慄が走った。

 種モミ拳士……それは今日より明日を求めて種モミを探す弱者達の守護者にして救世主。悪漢たちが種モミを奪い取ろうと非道の限りを尽くす時、どこからともなく現れて悪を討つと言われている伝説の戦士である。聖書にもそう書いてある。


「さあ、かかって来るがいい!」


 スミスが拳法の構えを取り、モヒカン達を威圧する。それに対して思わず臆し、一歩後ろに下がるPK達。

 だがそこに一人、怯えも迷いも見せずに一歩前に踏み出す男がいた。


「面白ぇ。てめえら、ここは俺様に任せな!」


 その男こそ彼らのリーダーにして、ギルド【世威奇抹喪非漢頭】のギルドマスター、モヒカン皇帝であった!

 モヒカンは巨大なバトルアックスを両手で握ると、それを力強く振り下ろす。


「食らいやがれええッ!」

「あたたたたたたた!」


 単発の威力ならば、斧を装備したモヒカンのほうが遥かに上であろう。だがスミスはそれを手数で補った。

 目にも止まらぬ速さで無数の拳打を繰り出しながら、モヒカンの攻撃を受け流し、逆に反撃を加えるスミス。モヒカンのHPが減少する。


「ふっ……力で敵わぬならば速さと手数で勝負よ」

「ほう、やるじゃねえか爺さん。……だったらッ!」


 モヒカンが再びスミスに襲い掛かる。

 だが先程とは異なり、彼はバトルアックスを両手ではなく、片手で所持していた。そしてモヒカンは、空いたもう片方の手にも同じくらいの大きさの斧を構えている。


「出たぜ!リーダーの奥の手!」

「両手斧の二刀流だ!」


 本来ならば両手で扱う超重量級の斧を、左右それぞれの手に持っての二刀流という暴挙!

 それこそがモヒカンがこの数ヶ月、修練を積んできた新たな戦術であった!

 彼は二刀流スキルを習得した後、両手斧による二刀流の練習をひたすら続けてきた。最初のうちはまともに振るう事すら出来なかったが、幾度も繰り返し修練する事でそれを可能にした。

 そして、実用可能になった段階で今度は、アルカディアにおいて二刀流を最も巧みに扱う最強のプレイヤー、カズヤに戦いを挑み続けた。

 当然のように何度も倒されながらも、モヒカンはカズヤの持つ二刀流の技術を体で受けながら覚えたのだ。


「とくと拝んで驚きやがれ!これが龍王様に百回以上も倒された末に、遂に完成した俺様の究極奥義!」


 その場にエンジェが居れば「百回程度で済んだなら良いではないか」とでも言いそうな台詞を吐き、モヒカンは二つのバトルアックスを構える。


「【喪非漢モヒカン剛双ダブル風塵撃トルネード】!!」


 モヒカンは自らも回転しながら斧を振り回し、突進を繰り出した。

 凄まじい勢いで次々と振るわれる斧が、まるで竜巻のように全てを巻き込み破壊する。


「こ、この威力とスピードは……ぐわあああああああーっ!」


 その重さゆえに防ぐ事ができず、またその手数ゆえに避けきる事もできず。

 スミスはモヒカンが繰り出す嵐のような乱撃に巻き込まれ、成す術もなく打ちのめされた。


「ちったあ手応えがあったが……俺はてめえよりも強ぇ奴等を知っている!」


 スミスを見下ろし、モヒカンはそう言ってのけた。

 彼とておっさんやカズヤ、シリウスにレッドといったトッププレイヤー達の首を狙い、何度敗北しようともその度に立ち上がり、這い上がってきた猛者である。もはや並の強者では相手にならぬ強さを身につけつつあった。


「さて、それじゃあ種モミをいただくとするか」


 そう言ってモヒカンが種モミに手を伸ばす。嗚呼、無情にもこのまま成す術もなく、種モミは奪い去られてしまうのか?

 だがその時である。種モミに向かって伸ばされたモヒカンの手を狙い、何処からか銃弾が飛来する。寸前でそれを察知し、咄嗟に手を引くモヒカン。一瞬遅れて地面に銃弾が突き刺さる。


「チッ……何処の組の鉄砲玉だコラァ!?」


 突如割って入り、狙撃を敢行した闖入者に怒りを覚えつつ、振り返ったモヒカンとその仲間達が誰何する。

 それに答えを返すのは、揃いの制服に身を包み、同じ武器を手にした屈強な男達。


「我々はイグニス警備隊所属、第十三警邏隊である!貴様等は完全に包囲されている!」


 彼らの正体は、イグニスの街およびその周辺フィールドの治安と安全を守る警備隊であった。


「悪党共め、投降も弁解の余地も認めん!この場で全員ブチ殺してくれるわ!銃士隊突撃!奴等を殲滅せよ!」

「上等だ!迎え撃つぞ野郎共!」


 モヒカンズを包囲する警備隊が、四方から一斉に襲い掛かる。彼らが手にしているのは、ライフル型の魔導銃剣。ギルド【C】が開発・量産し、警備隊に支給している正式採用型魔導銃剣【トリニティ】だ。


「まだだ、まだ引きつけろ……今だ、撃てぇーッ!」


 魔導銃剣【トリニティ】を構え、一斉に発砲する警備隊。モヒカンズはそれによってダメージを負いながらも、強引に接近し肉弾戦を挑む。


「ここまで近付けばこっちのモンだ!」

「甘いわ!フォームチェンジ、シールドフォーム!」


 ライフルは遠距離ならば脅威であるが、接近されると弱い。警備隊の懐に入って近接武器を振るい、勝利を予感するPK達であったが……その攻撃は全て防がれる。

 警備隊が手にしていたライフル、それらがモヒカンズが攻撃を繰り出す寸前に、一瞬で大盾へと変形したからである。


「今だ、反撃せよ!」

「おお!フォームチェンジ、ブレードフォーム!」


 更に警備隊の持つ武器は機械仕掛けの大剣へと姿を変え、それを用いて彼らはモヒカンズに反撃を開始した。

 長銃・大盾・大剣の三つの形態を持ち、またそれぞれのフォームへの切り替えを一瞬で行なえる。遠近両用にして攻防一体の万能武器、それが彼らの武器【トリニティ】の真骨頂である。

 ちなみにこの武器は警備隊に支給されている物のため一般には出回っていないが、実は警備隊からクエストを受けて彼らの評価を上げる事で、一般プレイヤーも入手可能である。


「チッ……おっさんの所の兵隊だけあって、やりやがるぜ!流石に囲まれた状態でこいつらと戦っちゃあ分が悪いか……。仕方ねえ!野郎ども、撤収だ!ずらかるぞ!」


 モヒカンは劣勢を悟ると、すぐさま撤退の指示を出す。この状況判断と切り替えの早さもまた、頂点を目指す為には必要不可欠な物だ。

 その指示を聞いて、警邏隊の隊長は思わずほくそ笑む。


(ククク……勝った!こちらはあえて手薄な箇所を作ってある。奴等はそこから脱出しようとするはず。だが、その先には伏兵が待ち構えている。これでジ・エンドだ……!勝った!第三部完ッ!)


 彼の思惑通りに、モヒカン達はバイクやジープへと飛び乗り……


「撤退だ!全員……」


 そして、モヒカンが撤退の指示を出す……


「奴等の正面(・・)に向かって、全力で撤退しろォ!」

「「「「「ヒャッハアアアアアアアアアア!!」」」」」

「………………ひょ?」


 モヒカンの指示を聞き、警邏隊長の思考が停止する。

 そして、モヒカンの命令に従って全力で、最も戦力が集中している箇所に向かって男達が一斉に突っ走る。


「ちょっ……馬鹿か!?正面に向かって撤退だと!?それは玉砕とか突撃と言うのではないのか!?」

「お前頭悪いな、島津式撤退戦術という名戦術を知らないのかよ」


 まさかの正面突破に面食らい、対応が遅れる警備隊。まさかそれだけは有り得ないだろうという思い込みによって真正面からの奇襲を食らった彼らの防御を、モヒカンズが食い破っていく。

 ちなみに歴史上においても、関ヶ原の戦いにおいて九州の戦闘民族、薩人マシーンと名高い島津義弘率いる島津軍(約300人)が、徳川家康率いる東軍(約80000人)を相手に敵陣の中央突破によるダイナミック撤退を成功させており、モヒカンが口走ったのはそれを意味している。何の冗談だとお思いかもしれないが、史実である。

 かくしてモヒカン達は犠牲を出しつつも、その倍以上の損害を警備隊に与えて包囲を脱出、逃走した。


「何と言う無茶苦茶な奴等だ……」


 損害の大きさと、モヒカンズの非常識な脱出劇に敗北感を感じ、項垂れる警備隊。だが、そんな彼らに声をかける者があった。


「だが、お前達は守り切った」


 その者はモヒカンの奥義を受け、倒されたスミスであった。彼は手に種モミの入った袋をしっかりと抱えており、彼自身もしっかりと大地に立っていた。


「スミスの爺さん!無事だったんだな!」

「ああ……お前達が注意を引きつけてくれたお蔭で、回復に専念できたよ。そしてこいつを奪われないように回収する事もな」


 スミスの無事に、隊員達は顔を綻ばせた。そんな彼らにスミスは言う。


「確かにお前達は奴等を逃がしてしまった。だがこの通りワシは無事で、種モミも奪われてはおらん。それにお前達も誰一人として欠けてはいないではないか。ならばこれから先、いくらでもチャンスはあるではないか」

「そうか……そうだな。爺さんの言う通りだ。今日ダメだったとしても、俺達には明日がある。……よし!そうと決まれば皆!次に会った時は奴等を確実に仕留められるように、早速訓練を始めるぞ!」

「はい、隊長!」

「おお、やってやるぜ!」

「今日はどうしますか?ボス狩りか、それともダンジョンアタックでも?」


 隊員達は話し合いながら、ぞろぞろとその場を去って行く。その表情は今日の失敗を、明日の成功の糧とするための希望と活力に満ちていた。

 それを見送って、スミスは満足そうに頷く。


「今日より明日……例え今日が苦しくとも、明日の希望の為に……。若者達よ、頑張るのだぞ……」


 より良い明日を迎えるために、荒野の民は今日を全力で駆け抜ける。

 荒野の平和と種モミを守るため、彼らはこれからも戦い続けるのであった。

帰国するため少し間が空きました。

いやぁ、我ながら色んな意味で酷い内容でしたねwww

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