14.謎のおっさん、後始末をする
おっさんとシリウスの決闘が終了した後。
おっさん率いるギルド【C】のメンバー達は会場の後片付けや打ち合わせ、準備を行なった後、ギルド【流星騎士団】とエルフ族を、自らの本城へと招いた。
決闘自体はシリウスの勝利という形で幕を閉じたが、それに伴うギルド間戦争の戦後処理を行なう必要があった為である。
また、それと同時に観客として集まったプレイヤー達や、イグニスの街の住人達も集められ、城の大広間では盛大な宴が開催される。
おっさんは壇上に立ち、集まった人々の前でマイクを取った。
黒光りする機械義手でマイクを握ると、おっさんは大広間全体に聞こえるように宣言する。
「さて……わざわざ集まって貰って恐縮だが、先にやるべき事を済ませちまおうか。今回、俺達【C】と【流星騎士団】は些細な行き違いから戦争をする事になり、代表としてギルドマスターの俺とシリウスが戦う事になった。そして結果は見ての通り、シリウスの勝利に終わった。その為、俺達は敗者の務めを果たす必要がある」
そう言って、おっさんはアイテムストレージから分厚いメモ帳と、大型のジュラルミンケースを取り出し、檀上にシリウスを呼んだ。
「事前に定められた規定により、ギルド【C】は流星騎士団に対して極秘レシピの一部を譲渡する。また、少額ながら賠償金を支払わせてもらう」
「確かに、受け取りました」
おっさんは少額と言ったが、一般プレイヤーからすれば少なからぬ額のゴールドが入ったジュラルミンケースと共に、おっさんがシリウスにレシピ帖を手渡した。
「これをもって両ギルドは和解し、今後はこれまで以上の協力関係を築いていく事を宣言する」
檀上でおっさんとシリウスが握手を交わすと、参加者が拍手をする。
こうして友好を衆人の前でアピールして見せる事で、主目的は果たしたと言っていいだろう。
「さて……待たせてすまねえな。ささやかながら終戦を記念して宴会を開かせて貰ったから、ここからは堅苦しいのは無しにして、大いに騒ごうじゃねえか。乾杯!」
おっさんが酒が注がれたグラスを高々と掲げ、宴が始まった。
◆
ギルド【C】の料理人達が用意した食事を楽しむ参加者達をよそに、会場の隅ではエルフ達が気まずそうに佇んでいた。
そんな彼らのもとに、おっさんが一人やってくる。
「よう、楽しんでるかいエルフの諸君」
片腕が無くなったと思ったら、やたらとゴツくてクソデカい機械の腕を生やしていた殺人鬼のような面構えの男が現れ、ビビるエルフ達に暢気に片手を上げて挨拶をすると、おっさんはエルフの女王、レティの前までやってくる。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「いやいや此方こそ、わざわざこんな所までご足労願ってすまねえな」
おっさんはレティの対面に座ると、話を切り出す。
「流星騎士団とは決着が付いたが、アンタらとはまだだったからな。色々と行き違いがあったが、これからはお互い仲良くやっていきたいと思っている訳よ。まずはその為に、此方から贈り物を用意させて貰った」
そう言って、おっさんが指を鳴らすと、ジュラルミンケースを抱えたギルド【C】のギルドメンバー達が、ぞろぞろとやってきた。
そして、ケースを机の上にどかどかと積み上げる。
「とりあえず……そちらに迷惑をかけた謝罪と友好の証として、ざっと一億ゴールドほど用意させて貰った。エルフ族の発展の為に役立ててくれると嬉しいね」
これまで見た事もないような額のゴールドの山に、目を白黒させるエルフ達。そんな彼らの中から、おっさんは今回の件の発端となった者達、過激派の若者達へと近付いた。
「よう、初めまして。アンタがこいつらのリーダーだな?」
おっさんに話しかけられた過激派のリーダーは、恐怖と混乱で口をぱくぱくと動かす。
先程のシリウスとの戦いで見せつけられた出鱈目な戦闘力や、これほどの額の金貨をポンと差し出せる程の経済力や、この巨大かつ堅牢な城や城下町を築き上げた技術力。
それらを見せつけられ、更に目の前に威圧感バリバリの本人がやって来た事で、彼の心は折れかけていた。
人間に対する嫌悪感や反発は未だに残ってはいるが、とても勝てる気はしない。恐怖心と対抗心の狭間でぐらぐらと揺れる彼の肩を、おっさんは気安く叩くと、
「いやあ、すまねえな。おっさんも仲間をやられてついムキになっちまってよ。まあ、これからは仲良くやっていこうじゃねえか。なぁ?」
「う、うむ……?」
予想に反して友好的な態度に、更に混乱するリーダー。そんな彼の前で、おっさんはアイテムストレージからアイテムを取り出してみせた。
「つーわけで、お近付きの印にプレゼントだ。お前ら弓が得意なんだろ?ならそんなショボい弓使ってないで、これ使ってみろよ。これ、最近うちで量産始めたんだぜ」
そう言っておっさんは、取り出した弓を強引に握らせた。
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【聖樹の弓】
種別 弓
品質 ★×8
素材 ホーリーウッド
耐久値 32/32
【装備効果】
物理攻撃力+190 魔法攻撃力+140
クリティカル率+30%
【特殊効果】
①射撃攻撃時、神聖属性の追加ダメージを与える Lv5
②射撃攻撃時、一定確率で【ブレッシング Lv10】が発動する
③アンデッド/悪魔族特効
【解説】
祝福を受けた木材で作られた神聖な弓。
ギルド【C】の技術の粋を集め、丁寧に作られた逸品。
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(なんだこれは!?)
今まで使っていた弓がゴミに思えるような代物を手渡されたリーダーの混乱が、頂点に達する。それを見たおっさんは、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「おーい、お前ら集まれ!エルフ族の皆さんに俺らの作ったアイテムをご紹介してやろうじゃねえの!」
おっさんの言葉を聞いた職人達が目をギラリと輝かせて立ち上がり、椅子がガタガタッ!と派手な音を立てた。
一斉に殺到した職人達が、自分達が作り上げた自慢のアイテムを手にエルフ達に詰め寄る。
「そこの君ぃ!そんなナマクラ使ってないで、是非俺の打った剣を使ってみないか!」
「服のセンスがイマイチですわね。わたくしが一から仕立てて差し上げますわ!」
「見ろよこのアクセサリ。弓の威力を底上げするのに加えて、弓スキルの成長速度が上がる特殊効果が付いてるんだぜ。お一つどうだい!?」
「そこのお前、魔法使いだな!?ならばこの杖を使うがいい!ついでに魔力を大幅に上昇させ、更に詠唱時間を短縮する効果の付いた指輪もくれてやろう!」
職人の群れに襲われ、アイテムを押し付けられるエルフ達。
それまで「ひのきのぼう」と「ぬののふく」だった装備が一瞬で天空の武具に変わった程の強化っぷりに、エルフ達はガチでビビった。
「ま、そういうワケで……今までの事はお互い水に流して、仲良くやっていこうじゃねえの」
そう言って笑いながら、ポンポンと肩を叩いてくるおっさんに、【C】のマジキチ職人共が丹精込めて作った超強力な装備に身を包んだ過激派のリーダーは、引きつった笑みを浮かべて答えた。
「う、うむ……わ、私もちょうどそう思っていた所だ……。我々も些か視野が狭く、狭量であったと反省している。やはり無暗に対立するよりも、協調を大切にしていかねばな……!ハハハ……!」
半ばやけっぱちで笑い声を上げるリーダーであった。
流石にこの期に及んで突っぱねるほど彼も無謀ではなかった。
相手は(少なくとも表向きは)友好をアピールしているし、少なからぬメリットも提示して見せた。仮にここで意地を張って突っぱねた場合、その結果がどうなるかは想像するのも恐ろしい。少なくとも百害あって一利無しである事は、考えずとも理解できる。
そうである以上、相手に合わせる以外に彼に出来る事は無かった。
その後エルフ達の元を離れ、一人になったおっさんに彼の直弟子であり、【C】のサブマスターを務める少女、ユウが話しかけてきた。
「……上手くやりましたね、師匠。というか、ホントやり方が悪どいっていうか、タチ悪いですよね」
呆れた顔で言うユウに、おっさんはニヤリと笑って言った。
「懐柔っていうのはな、銃口向けて脅かした後に、札束で頬を引っぱたく事を言うんだぜ」
ひどい話である。
◆
宴もたけなわとなった頃、再びおっさんが檀上に上がる。
マイクを手に取ったおっさんは、ここで驚くべき発表を行なった。
「さて……突然だがこの場を借りて、俺はひとつ宣言させて貰おうと思う」
おっさんの言葉を聞き、会場中が彼の言葉に注目する。
まーたおっさんが何かとんでもない事を言い出すのかと嫌な予感を感じる者が大半であったが、そんな彼らの前でおっさんは言った。
「今回のギルド戦争の敗戦、そしてそれによる損失の責任を取るため……この俺、謎のおっさんは本日をもって、ギルド【C】のギルドマスターを退任する!」
タイトルと作者名を変更しました。




