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謎のおっさんオンライン  作者: 焼月 豕
第三部 おっさん戦場に舞う
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10.謎のおっさんVSシリウス(3)

「成る程ね……確かに正面からの殴り合いで、おめーに勝てる奴なんざそうそう居ねえ。よく考えたじゃねぇか。褒めてやるぜ」


 立ち上がり、再び闘技場の中央へ向かって歩を進めながらおっさんが言う。


「お褒めにあずかり光栄ですが、その言葉は僕が勝った後に聞きたかったですね」


 シリウスが起き上がり、先程投げ捨てた盾を拾い上げ、アイテムストレージに納めながらそう返答した。おっさんは、その言葉を聞いて鼻で笑う。


「ハッ……でかい口をきくようになったな、小僧」

「きっと何処かの不良中年の影響だと思いますよ」

「おや、随分とひでぇ奴がいたもんだ。何処のどいつかな」


 軽口を叩きあいながら、両者は再び闘技場の中央にて対峙した。


「両者、再び向かい合い……おっさんが行ったぁー!」


 実況のアテナが叫んだ通り、おっさんが再びシリウスに襲いかかる。

 シリウスはそれに対し、防御も回避も放棄。ただひたすらに、反撃のみに専念しようとするが……


「さっきはまんまとしてやられたが……それならそれで、幾らでもやりようはあるんだよ」


 シリウスとの距離を一気に詰めたおっさんが、攻撃の直前に鋭いサイドステップで側面に回り込もうとする。方向はシリウスの左手側へ。

 だが、シリウスも当然、おっさんが馬鹿正直に再び正面突撃をする等とは考えていない。すぐさまおっさんの行動に対応し、左側面に向き直るが……


「逆だ小僧!」

「なっ……!?」


 最初の動きはフェイントであり、おっさんは逆方向に電光石火の切り返しを行なった。左側面へと向き直ったシリウスの前には誰もおらず、おっさんはあっさりとシリウスの背後を取る。

 単純なフェイントだが、おっさんのそれは速度・精度共に段違いだ。

 そして、おっさんは【短剣】と【暗殺】の複合アーツ、【バックスタブ】を用いてシリウスの背中を強く突き刺した。


「更にこいつだ!」


 魔導銃剣を手放したおっさんが、両手に仕込んでいた極細ワイヤーを放つ。

 ギルド【C】秘伝の極細ミスリル合金ワイヤーだ。非常に細く、視認しづらい上に強靭であり、また魔力の伝導率が非常に高く、様々な用途に用いられている。


「【ワイヤーバインディング】!」


 おっさんが放ったワイヤーがシリウスに巻き付き、拘束した。

 そして、おっさんの手袋の、手の甲の部分に紋章が浮かぶ。【錬金術】に用いる錬成陣である。


「【ライトニング・ショック!】」

「がああああああああっ!」


 錬成陣が電撃属性を意味する黄色に輝くと、全身に巻き付いたワイヤーを通して強烈な電撃がシリウスを襲った。

 電撃属性ダメージを受けると共に、動きが止まるシリウスを、おっさんはワイヤーを振り回して投げる。


「一気に行くぜ!」


 おっさんはワイヤーを切り離し、拘束されたまま上空に投げ飛ばされたシリウスに追撃をかけんと跳躍した。

 まず全身に炎を纏い、上昇しながら強烈なアッパーを放つ格闘アーツ【ライジングサン】がシリウスに直撃し、更に至近距離での、二挺拳銃により魔力弾のフルチャージショットを二発同時に放つ【クロスバスター】によって、シリウスは観客席に向かって派手に吹き飛ばされた。


 おっさんは空中を蹴り、更に追撃。

 同時にシリウスが、闘技場と観客席とを隔てる障壁を蹴って体勢を立て直し、魔剣カオスジェノサイダーに自らを拘束するワイヤーを切り裂かせた。


 おっさんは魔力弾を、的確にシリウスの急所に向けて放ちながら彼我の距離を詰める。

 そして、再びシリウスに襲いかかるが……


「【ダーク・バースト】!」


 シリウスが魔剣を大きく横薙ぎに振るう。自分の前方、扇型の広範囲に暗黒属性のダメージを与える【暗黒剣】スキルに属するアーツを放ち、おっさんを迎え撃つ。


「甘ぇんだよ!」


 おっさんは空中を蹴って更なる跳躍を可能とするアビリティ【エアリアルステップ】と、僅かな間だが無敵時間を得る【シャドウステップ】を併用し、シリウスのアーツをすり抜けた。


「【ストームラッシュ】!かーらーの……【バレットカーニバル】だッ!」


 短剣形態の魔導銃剣による神速の連撃から、拳銃形態へと切り替えての至近距離での連射。更にシリウスを蹴り飛ばして、障壁に叩き付けてチャージショット。そして高速リロードから放たれるのはおっさんの十八番。

 全弾丸を撃ち尽くして敵を蜂の巣にする奥義が炸裂した。


「おっさんがぁ!捕まえてぇぇ!おっさんがぁ!画面端ぃぃ!バースト読んでぇぇっ!まだ入るぅぅ!おっさんがぁ!……つっ近付いてぇ!おっさんが決めたぁぁーっ!!!」


 アテナがおっさんの無慈悲なコンボに興奮し、電波な実況をかます。

 それをよそに、おっさんは滞空したままシリウスに銃弾を浴びせ続けた。


 シリウスは、背中を障壁に押し付けられたまま、盾を構えて耐える。ひたすら耐える。その膨大なHPが、おっさんの怒涛の連続攻撃によって凄まじい勢いで削られ、半分以下になってもなお、微動だにせず耐え続けた。


 やがてシリウスのHPが全体の四割をやや下回る程度まで削られた時、ようやくおっさんの銃に装填されていたカートリッジ内の魔力が、尽きる。


 シリウスは、おっさんの攻撃に耐えきった。


 観衆がそう思い、固唾を飲んで見守る中で……


「まさか、これで終わりだとでも思ったのか?」


 おっさんが、絶望を突き付ける。


「【バレットカーニバル・インフィニティ】!!」


 おっさんの秘奥義、バレットカーニバル・インフィニティが発動する。

 その内容は、所持している【種別:銃】または【種別:魔導銃剣】カテゴリの、自身が制作したアイテムをその場に全て召喚、一斉射撃を行なうという物だ。

 その特性上、大量の弾薬を一気に消費するためコストは重いが、それでも一撃必殺級の威力を持つ、おっさんの究極奥義である。


 数えきれないほどの銃口がシリウスに向けられる。

 絶体絶命の危機。いかにシリウスの防御力が並はずれて高かろうと、この一斉射撃を受けては到底生きのこる事は出来ないであろう。


「この攻撃が通れば……!」

「ああ、おっさんの勝ちだ!」


 観衆の誰かが、そう叫んだ。

 そして、遂に無数の銃が一斉に火を噴く。そして、それを受けてシリウスは……


 静かに、口元に笑みを浮かべた。


( や べ え )


 その瞬間、おっさんの研ぎ澄まされた直感が最大限の警報アラートを鳴らす。

 ヤツが何を企んでいるかはわからないが兎に角、このまま攻撃をしたらヤバイ。取り返しの付かない事になるぞ。今すぐ攻撃を止めろ。

 おっさんの本能がそう叫ぶが、既に秘奥義は発動してしまっており止めるのは不可能。ならば、とおっさんは次善の策を講じる。


 それと共に、無数の弾丸や魔力弾がシリウスに向かっていく。それを、シリウスは騎士盾を構えて迎え撃つ。


「【ゾディアック・リフレクター】!!」


 命中する寸前、シリウスの構えた盾の全面に、黄道十二星座を象った、十二個の紋章が出現する。

 それらが襲い来る銃弾を全て受け止め、そして……反射する!


――――――――――――――――――――――――――――――

 【ゾディアック・リフレクター】


 種別 アーツ(奥義)

 対象 自身

 習得条件 【反射盾・極】スキルLv25以上で習得可能


 【解説】

 大いなる星座の加護により、窮地を覆す必殺のカウンター奥義。

 自身に対して奥義/秘奥義属性のアーツ/魔法が使用された際に使用可能。

 その効果を無効化し、使用者に全て跳ね返す。

 このアーツの消費MPは、反射したアーツ/魔法の2倍となる。

 また、クールタイムは反射したアーツ/魔法と同じになる。

――――――――――――――――――――――――――――――


 この一瞬を、シリウスは狙っていた。

 シリウスの高い防御力をブチ抜き、一気に勝負を決めるための必殺の一撃。それを利用してのカウンターこそが、シリウスが用意した対おっさん用の切り札であった。

 果たして、シリウスの奥義によっておっさんが放った【バレットカーニバル・インフィニティ】のダメージが、全て彼自身へと跳ね返る!


 だが、ただでやられるおっさんではない。チャンスが一転、絶体絶命のピンチに変わっても、すぐにそれに対応する。


「リフレクタービット射出!」


 おっさんが叫ぶと、その音声をトリガーに、おっさんの服に仕込まれていたビット兵器が一斉に飛び出した。


 薄い、正方形の板状の浮遊物が大量に展開される。

 魔力を拒絶する性質を持つ、稀少な金属を用いて作られた金属板であり、表面はよく磨かれて鏡面仕上げされている。

 リフレクタービット。おっさんが開発した、魔法攻撃を反射するビット兵器であり、彼の切り札の一つである。


 おっさんの秘奥義【バレットカーニバル・インフィニティ】はいまだ継続中であり、弾丸が次々と休む事なく発射されていく……が、それらは全てシリウスによって反射され、次々とおっさんへと跳ね返されていく。


 おっさんが展開したリフレクタービットが反射された魔力弾をさらに反射し、それらは床や天井に当たって建物にダメージを与えたり、障壁に当たって観客をビビらせたりしながら消える。

 だが、あまりにも大量の弾丸は到底、それだけで防ぎきれる物ではない。また、魔力攻撃を反射するリフレクタービットも無限に反射できる訳ではないし、何より物理的なダメージに対しては無力だ。実弾によって割られ、消滅する物も多かった。

 そうして、ビットの防御をすり抜けて大量の銃弾がおっさんに襲いかかるが……


「おっさんが十人、おっさんが二十人!ファイナル分身!」


 その瞬間、突然おっさんが数十人に増殖し、それを目撃した者達から驚きの叫び声が上がった。


「ふ、増えたぁー!?突然フィールド内におっさんが大量に現れました!解説のカズヤさん、これは一体!?【忍術】スキルのアビリティ、【分身の術】のようにも見えますが、あれってこんな大量に分身出せないですよね?これは一体どういったアビリティによる物でしょうか?」

「……いや、あれはアビリティによる物ではないな。あの分身は純粋におっさんの技術による物……特殊な歩法により目の錯覚を起こさせる技だ」

「……えーと、ちょっとよく意味がわからないんですけど」

「要するに武術の一種だ」

「……アッハイ」


 アテナは考えるのをやめた。


 さて、おっさんの分身によって、シリウスは攻撃を反射して、返すためのターゲットを見失う。

 本来であればおっさんをターゲッティングして、後は勝手に反射した攻撃がおっさんを自動追尾する筈であったのだが、シリウスの視界には何十人ものおっさんが映っている。


「だったら、まとめて吹き飛ばす!」


 ならば、とシリウスは、ターゲットを視界に映るおっさん全員へと変更した。

 一人一人への密度は薄くなるが、そうすれば必ずどこかに居る本物のおっさんへと命中するはずであると考えたからだ。


 シリウスが反射した大量の弾丸が、分身したおっさん目掛けて四方八方へと飛び散る。

 如何におっさんでも回避しきれぬ程の量と密度の弾丸。流石のおっさんも余裕が無くなってきたのか、やがて分身が解ける。


「捉えた!そこだああああああッ!」


 そしてシリウスが、本物のおっさんへと向けて全ての弾丸を反射させた。


「これで終わりです!」


 おっさんは相手の飛び道具を銃弾で撃ち落とせる程の技術を持つが、秘奥義を放って大量のMPと弾丸を消費したおっさんには、もはや余力はほとんど残されていないだろう。

 そしておっさんを攻撃するのは、彼自身が放った秘奥義による物であり、通常の銃弾とは質・量ともに桁違いである。通常の攻撃でこれを撃ち落とすような真似は、流石のおっさんとて不可能だろう。

 シリウスは勝利を確信した。


「間に合ったぜ……」


 だが、おっさんはこの大ピンチの状況で、なおも不敵に笑ってみせた。何故か?その答えは、彼らの足元にあった。


「【アースシェルター】ッ!」

「なっ……これは……!?闘技場全体に錬成陣が!?」


 おっさんの発声と共に、彼らの足元に現れたのは……巨大な錬成陣!

 そう、おっさんは闘技場内を逃げ回りながら、地面に巨大な錬成陣を描いていたのであった。


 おっさんが使用した錬金術【アースシェルター】により、床がひび割れ、大地が隆起する。そしておっさんの周りを大量の土が覆い、彼の姿を隠すのだった。


 大地を操作し、強力な攻撃から身を護るためのシェルターを生成する絶対防御の錬金術、それが【アースシェルター】である。

 使用する際には【土の魔素】を大量消費するが、その消費量に比例してシェルターの防御力は跳ね上がる。


 元々これは対エンジェ、対魔王軍用の切り札としておっさんが用意していた物であった。

 おっさんの唯一の弱点といっていいのが、その防御力の低さである。一般プレイヤーとは比べ物にならないとは言え、それでも上級者を相手にするには不足がある。

 そしてトッププレイヤーの中で、おっさんが最も警戒しているのがエンジェとカズヤの兄妹だ。

 何故なら奴等は、【どうやっても回避のしようが無い、超広範囲をまとめて薙ぎ払う魔法攻撃】という、おっさんの弱点をピンポイントで突く攻撃が可能であるからだ。

 ゆえに、おっさんはそういった攻撃への対策を講じる必要があると考えていた。そしておっさんが用意した対抗策が、この錬金術【アースシェルター】であった。


 その切り札をここで切らされ、大観衆の前に晒してしまったのは正直痛手であった。

 だが背に腹は代えられない。ここで発動しなければ負ける、そこまでおっさんは追い詰められていた。


「ククク……防ぎきったぜ……」


 だが結果として、おっさんは空前のピンチを乗り越えた。

 【バレットカーニバル・インフィニティ】およびシリウスの【ゾディアック・リフレクター】の効果が切れる。

 おっさんの放った弾丸はシリウスに全て反射され、おっさん自身へと返ったが……崩れたシェルターの中から現れたおっさんは、何発かの反射された銃弾をその身に受けながらも、いまだ健在。


「久しぶりにヒヤッとした……正直かなりヤバかったぜ。この俺をここまで追い詰めるたぁ大したモンだ。褒めてやるぜシリウスよぉ」


 姿を現したおっさんを見れば、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべて、自然体でシリウスを見ている。

 だがそんな彼と目が合ったシリウスは心臓が早鐘を打ち、背中に嫌な汗が浮かぶのを感じた。


 目が一切笑っていない。

 感じる威圧感も、先程までとはまるで別人。


「ところで……まだ何か策はあるのかな?」

「……どうでしょうね。実はまだあるかもしれませんよ?」


 嘲るように問いかけるおっさんに、シリウスは引きつった笑顔を浮かべながらどうにか答えた。


「そうかい。そいつぁ楽しみだ………………精々あがいて見せろ。本気で行くぞ」


 おっさんが、シリウスに襲いかかった。

ようやく忙しい時期が終わり、これで次はもっと早く更新……できるといいなぁ。


あとさりげなく、第一部を少しずつ改稿中です。

話の内容自体はそのままですが、連載初期だけあって設定が固まってなかった部分なんかを補完したり、読みにくい・わかりにく部分を修正していたり、ちょっとだけ加筆していたりします。

全体が改稿完了したら改めて活動日記ででもお知らせしたいと思います。

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