戦う勇者
戦う勇者様。
100年に一度出でる魔王を倒すために、勇者が選定された。
2年の歳月を果て、勇者は4人の仲間と共に、魔王城へと向かった。
僧侶が結界をはり、勇者と武闘家が接近して攻撃、アーチャーと魔法使いが後方攻撃。
5人の力を合わせ、ようやく魔王の核を破壊するところまできた。
「勇者っ、あそこだ!あそこが核だ!!」
結界をはりつつ、魔王の核を探していた僧侶が大きな声で勇者へと伝える。
勇者が僧侶の言う先を見ると、そこには暗闇色に染まった核が見えた。これまで見てきた魔獣や魔族らのどの核よりもどす黒い核だった。
勇者は連戦の末にひどく疲労していたが、力を振り絞り聖剣をその核へと沈みこませた。
その瞬間、聖なる光が暗闇色の核の中央から溢れだした。
ようやく、核を貫いたと仲間の4人が安堵の表情をした瞬間、魔王が吼え核から光を侵食するほどの暗黒を広げ始めた。
勇者は少しでも気を抜いたことを悔やみつつも、すぐに戦闘態勢に戻る。
が、目を見開いてもそこには黒しか見えなかった。
それから、暗闇の中をずっと漂っている感覚があるだけど、魔王の姿も気配も、仲間たちの気も感じることができなかった。
どこからか声が聞こえる気がした。何と言っているかはわからない。だが、ひどく眠気を誘う声だった。勇者は耐え切れずに目を閉じた。
勇者はひどい狭いところを通って、体中に痛みを感じた。
くるしい。いたい。いたいいたい・・・。
その痛みは数刻続いてのち、光が見えた。
どうやら、狭い場所を抜けたようだった。
たくさんの声が聞こえた。何を言っているかさっぱりわからなかった。
(ここは、魔王の世界なのか・・・?)
ひどく重たい目を開けようと苦心していると、急に体を叩かれた。あまりにも痛くて声が漏れる。
それは自分の声とも思えないような大きな声だった。
「っぎゃーーーー」
勇者の苦悶の声に満足したのか、周りのやつらは嗤っているようだった。
痛みに苦しみつつもまた目を閉じた。
気づくと、どこかに寝かされているようだった。
隣りにはぼやけているが何かがいるようだった。ひどく甘ったるい声で歌を歌っているようだった。
(セイレーン?)
ひどく眠くなってきた。目が覚めることもなく、喰われていないといいが・・・。
あぁ、体が重い。。。
目が覚めた。まだ視界はぼやけたままだった。
あまり頭が働かない、何か薬か魔法でもかけられたのだろうか。
そんな状態で数か月が経った。
ようやく視界が開けてきた。どうやら、ここはどこかの屋敷の中のようである。
セイレーンと同じ声の女と悪魔の色である黒髪をした男がいる。
ふたりはなぜかいつもそばでニヤニヤと笑んでいる。
あぁ、セイレーンの声を持つ女は金の髪をしており、普通の人間のようにも見えるが黒髪の男と共に、勇者の知らない言葉を使っているようだった。
それからまた数か月経った頃、金の髪の女と黒髪の男に連れられ、別の屋敷に連れて行かれた。
とうとう、殺られるのだろうか。
まだ、魔王を倒せていないのに・・・!
そこでは、たくさんの黒髪の女がいた。長い髪の女短い髪の女。
(ここは悪魔の屋敷か!!!)
金色の髪の女と黒髪の男は、勇者をこの屋敷に置いてどこかへ行ってしまった。
悪魔の屋敷に連れてくるなどっ、やはりあの金髪の女も悪魔の仲間だったらしい。
どうにかしたいが視界は開けたといえ、体は薬のせいか身動きがし辛い。
このまま、喰われるのを待つしかないのか・・・。
さすがにこの悪魔だらけの場所で目を閉じることはできない。
だが、黒髪の女は勇者に悪魔の歌を聞かせ深い眠りにつかせようとしている。
(黒髪のセイレーンだと!?)
眠らないようにできるだけ体を動かす。声も出そうとするが、
「あー うっ ぐああーーー」
と意味をなさない言葉しかでてこなかった。
ここには僧侶たちはいないのだろうか。僧侶がいれば、魔法解除もできるのに・・・!!
勇者は悪魔の歌に耐え切れず、苦しみながらも目を閉じてしまった・・・・・・。
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「いやぁ、先生。にしても、この子は寝つきが悪いですねぇ。」
20代前半くらいの保育士が隣にいたベテラン保育士に声をかける。
「まぁ、今日は初めての登園だからね。まだまだ慣れないわよ?ゆっくり慣れていけるように接していきましょうね。」
ベテラン保育士は笑みを浮かべ、新米の保育士に向かって笑いかける。
「はぁい。早く、泣かずに過ごせるようになろうね。勇士くーん。」
新米保育士とベテラン保育士はベビーベッドに涙の跡をつけた金色の髪の勇者・・・でなく、ウェルディナ・勇士・ディオン・佐々木に向かって微笑みかけていた。
勇者は魔王と刺し違えて倒すことができました。
世界は平和になりました。
仲間たちは勇者の消えたあと、王様に魔王を倒したことを報告。勇者は戦死と石碑を建てた。
お母さんは金髪美人。お父さんは日本人。
ところで、勇者・・・じゃない勇士くんはいつ、転生したことに気付くのでしょうか・・・。