SHOT8: BOOST
トオル対リヒト戦、完結!
SHOT:8 BOOST
「・・・なっ、に・・・?」
鷹尾リヒトは絶句していた。彼は今地下十階のトレーニングルームで島崎トオルとデュエルを行っていた。つい数秒前、自分が放った、指向性のある大爆発がトオルを飲みこみ、真っ赤な爆炎があたり一帯にまき散らされた。彼が絶句している理由はそれではない。それ以外に、二つの理由があった。
一つ、島崎トオルの前に一辺3メートルほどの正方形が出現し、トオルを爆発から守ったこと。それは半透明な白い壁のようで、あの高温の炎を受けても何の影響も無かったのだ。そして何より、どこからとも無く現れたのだ。3メートル四方という巨大な物体がだ。それは手品以外のなにものでもない。
二つ、盾の向こうでにやりと笑う島崎トオルの両目が、琥珀色に発光していることだった。あの白い壁が出現する直前から、深い黒だったトオルの目はまばゆいばかりの金色に変わり、今も発光し続けている。
(こいつ、ホントに人間かよ。ちくしょー!)
苛立つリヒトの前で、正体不明の盾はゆっくりとMBQ粒子へと姿を変え、やがてトオルの前で一辺30センくらいの箱に姿を変え、やがてゆっくりと回転し始めた。
(あのNAWM、一体なんなんだ・・・!)
焦るリヒトを前に、謎の白い箱はただゆっくりと回るだけだった。
島崎トオルは笑っていた。
(新型NAWM『神楽』。起動させれば使い方はわかる。そういうことか)
やっとつじつまがあった。『神楽』、人の想像を形にする『可能性』の箱、使い手の想像次第で善にも悪にもなる。
(まさにパンドラの箱な訳だ)
トオルは自分の前でゆっくり回転する箱を眺めた。
(どこまで出来るんだ?こいつは・・・)
答えなど帰ってくるはずは無かったが、その規則的な回転に自信ともいうべき何かをトオルは感じた。
「へっ、おもしれぇ!」
トオルは顔を上げ、日本刀雪羅を構え直す。切っ先をまっすぐに鷹尾リヒトに向ける。向こうは一歩後ずさったが、気に留めない。両者の距離は30メートル前後。
(この距離をつめるには、ブースターの役割を担う物が欲しいな・・・よし!)
トオルは腰を軽く落とし、足に力を入れる。そして新たに『想像』を始めた。そして『箱』がはじけ、『可能性』が溢れ出した。それは瞬時にトオルの脚部に集合し、大型のブースターが着いたアーマーへと変貌した。使い方など、きくまでもない。自分が一番よくわかっている。
「イグニッション・ブースト!」
『IGNITION』
トオルが地面を蹴ると同時、脚部装甲から爆発的な炎が吹き出し、瞬間的に加速したトオルはそのまま雪羅を横に構える。すれ違い様にリヒトに当てるつもりだ。
「くっ!」
しかしリヒトも甘くはない。迷いを振り切り、全力で横へ飛んだ。雪羅がリヒトの長めな髪の二、三本を持って行く。トオルが目の前の壁に両足を着くと、加速に負けて壁に大きなひびが入った。ひびは蜘蛛の巣のように四方八方に広がる。「ミシミシッ!」という音がしたが、トオルもリヒトも気にしない。トオルが再び壁を蹴ると、『神楽』が作り出した装甲が再び火を噴いた。高速で着た道を引き返す。正確にはほんの少しだけ角度をずらして。リヒトはこれをサーペントで受け止めようと左手を突き出す。雪羅と接触し、サーペントの爆破反応が起こる。
「ふっっっとべぇぇぇえええ!!」
珍しく感情的に吠えるリヒト、しかし、トオルの速度はリヒトの想像を遥かに越えて早かった。体への雪羅の攻撃を防ぐことは出来たものの、その体が衝撃で30センチも浮いた。それでもトオルの突進は止らず、浮いたリヒトをよそに反対側の壁まで一瞬で到達した。サーペントが深紅の閃光を放ったときにはトオルは次の攻撃の体制に入っていた。
「うぉぉぉぉおおおおっっ!!」
部屋の中を高速で移動しながら攻撃を加えるトオルに対し、リヒトは完全に防戦一方だ。対MBQ爆破爪のサーペントで雪羅をはじき返そうとしても、あまりの速度のヒットアンドアウェーに再生も爆破も追いつけず、爪だけが欠けて行く一方だった。やがて動けなくなったリヒトの前に、トオルはゆっくりと近づくと、刀の鞘をリヒトの腹に突き立てた。リヒトがギブアップするはずが無いのは目に見えていた。もっとも被害を少なくするにはこれが最善だったのだ。直後、トオルも力つきたように崩れ落ち、その瞳から琥珀色の光が消えた。静まり返った地下十階で、『神楽』だけがゆっくりと回転していた。
こうして、どの教員や生徒が想像したよりも壮絶なる戦いとなった新入生対デュエル一回戦、島崎トオル対鷹尾リヒト戦は幕を閉じた。