SHOT7: KAGURA
SHOT7: KAGURA
島崎トオルの息は依然荒かった。戦闘を行わない時間が数分あったものの、怒鳴ったのも手伝ってか息を整えることは出来なかった。
(このままじゃ、あの『爪』は攻略できない・・・)
トオルは視線を前に向ける。そこには爆破能力を持つクロー『サーペント』を装備した鷹尾リヒトが立っている。目が合った瞬間その眼光がトオルの体を圧迫する。トオルは思わず目をそらした。
(・・・どうする・・・?)
直後、耳元でノイズ混じりの声が聞こえた。
『島崎、火雲だ』
「えっ?」
トオルは慌てて火雲が居るべき方向を見た。直方体のシールド内で、右耳に人差し指と中指を押し当てて何かをしゃべっていた。声が続く。
『これはサモナーの機能の一つだ。この通信は貴様にしか聞こえん』
「それで、なんですかいきなり?」
『貴様のサモナーに、新しいNAWM、『神楽』を強制インストールした』
「はい!?」
トオルは思わず大声を出してしまった。リヒトが警戒を強めるのがわかる。
『霧ヶ丘の整備科が開発した特製だ。一部の者しか扱えないが、かなり強力なものだ。『パンドラの箱』、とも呼ばれていたな。試してみろ』
「えっ、ちょっと使い方とかって・・・」
パニクるトオルに対し、火雲は至って冷静だった。
『とりあえず起動させてみると良い。使い方はわかるはずだ。健闘を祈る』
一方的に通話を切られ、トオルは唖然とした。しかし、呆れている暇はない。
「おい」
「・・・くっ!」
トオルは歯を食いしばって顔を上げた。その目に、禍々しいオーラを発するリヒトの姿が映った。
「何やってんのか知らねーが、俺も待ちくたびれたんでな、」
リヒトがゆったりと足を開き、戦闘態勢に入った。トオルも足を引いた。
(火雲先生の言ってた新装備、使ってみるか!)
戦いが再び始まる。
「「始めさせてもらうぜ!」」
「サモン、『神楽』!」
『SUMON: KAGURA』
島崎トオルのガントレットから大量のMBQ粒子が吹き出した。それはトオルの前でゆっくりと何かの形を作って行く。しかし、鷹尾リヒトはそんな物を待ってはくれない。爆破爪サーペントを装備した。左掌を全力で地面に叩き付ける。床のコンクリート色の素材。それも元はMBQだ。サーペントの反応が起こる。真っ赤な爆炎に、リヒトの裂けたような笑みが隠される。「ゴオォッ!」という爆音が響いた。炎が波となって押し寄せる。二人の間の距離はおよそ30メートル。距離は高速で縮み続ける。その中でトオルの『神楽』がついに完成する。それは・・・
「は、箱?」
声を出したのはトオルだった。彼の前に現れたそれは、浮遊する一辺30センチほどの真っ白な立方体の箱だった。一つの頂点をしたにするように浮遊したまま、ひとりでにゆっくりと回転していた。
「くそ、使えねー!」
トオルは吐き捨てると前方を見た。爆炎はもう目の前まで迫っていた。
(くそっ、何かこの炎を防げる物は無いのか?)
トオルは目の前に迫る紅蓮の炎を見据える。何を出来る訳でもない。しかし、諦めるつもりも無い。この状況を打開できる物が何か無いか、必死に思考を巡らせる。
(この炎から、)
思考に思考を重ねる。それでも、答えは出ない。
(俺を守ってくれる、)
思考の末にたどり着いたのは、一つの『想像』だった。『思考』ではなく『想像』。自分の身を守る、大きな『盾』を。業火をものともせず、自分の前に堂々と立ち、その身を守る、白い正方形の『盾』を。彼は、『想像』した。
(盾は!?)
「おおぉおぉぉぉおおおおっっっ!!」
トオルの咆哮が響き渡る。圧倒的な劣勢の中で諦めない男の声が地下十階のトレーニングルームにこだまする。そして、
『想像』が『創造』に変わった。
次回、『神楽』システム本起動!