SHOT6: HITOMI
短めのワンシーンです
SHOT6: HITOMI
火雲仁美は霧ヶ丘高校地下十階の隅に立っていた。MBQで作られた直方体のシールドの中から霧ヶ丘高校の新入生二人のデュエルを眺めている。
「傷つけるのが人でも、助けるのも人だ、傷を癒すのも人だ!」
そんな声が外から聞こえている。新入生島崎トオルの演説に、火雲は感慨深いものを感じていた。火雲仁美ではなく、『島崎』仁美だった頃の記憶が心に引っかかる。
島崎仁美。島崎トオルが『行方不明』だと言った、正真正銘実の姉だ。彼女は以前トオルに剣術を教えた張本人である。トオルは5歳のとき、型が体に合わないということで習っていた剣道をやめた。そんな彼を見かねた当時の火雲は彼に我流の居合い術を叩き込んだのだ。トオルが先ほどから戦闘で使用している蹴りを交えての剣術こそがそれだ。当時の火雲は、剣術を教え始める前、トオルに真剣を持たせ、こう言ったのだ。
『どうだ、重いだろう?それが、一撃で人の命を絶つ武器の重さだ。命の重さだ。貴様はそれを扱う『人』として、絶対に使い道を誤っては行けない。斬るも斬らないも『人』しだい。傷つけるのが人でも、助けるのも人だ、傷を癒すのも人だ。殺すだけが剣じゃない。それを忘れるな』
15歳だった火雲は、我流の剣術でNAWMデュエルの都大会に出場するほどの実力を有していた。それゆえ、『823』事件から三年が経過したある日、国際機関に戦闘講師として加入することを推薦されたのだ。国の重要機密を背負うため、家族には委細の事情を説明しなかった。そしてそれから五年。ついに弟と再会したのだ。教官と教え子として。
(トオル、あんな昔のことをまだ覚えているとはな)
火雲は薄く笑った。それから自らのガントレットに目を向ける。緑色に光るモニターには『CODENAME: KAGURA』と書いてある。
(貴様なら、これを扱えるかもな・・・)
火雲は少し考えてから。ガントレットを自分の前方に構えた。まっすぐ、自分の弟に向かって。
「コードネーム『神楽』、火雲仁美より島崎トオルに転送開始」
師から弟子へ、姉から弟へ、希望が手渡される。