SHOT2: RIHITO
早速ライバル登場!
SHOT2: RIHITO
十九人の人間をのせるのに通常のエレベーターでは小さい。霧ヶ丘高校の新入生十八名と先ほどのロリッ子教師長崎香苗は資材搬入用のエレベーターで一階から地下に下っていた。
「これどこまで下がるんですか?」
地下三階を越えたところでトオルは疑問を口にした。
「地下十階ですよ〜」
間延びした声で応えたのは香苗だ。
「そこにNAWM戦闘専用のトレーニングルームがあるんです〜。壁の厚さが核シェルター並みなので〜何をやっても外に影響はありません。外に音が漏れると、迷惑ですからね〜」
何もそこまで深くしなくても良いだろ、と言う感想は心にしまって、とりあえずトオルは「へー」で済ませておく。
エレベーターは地下十階に着くと、まるで疲れたかのようにのろのろと自動ドアをあけた。そこはさっきいたロビーより軽く四倍は大きそうな正方形の部屋だった。天井もかなり高い。カラスくらいなら自由自在に飛び回れるだろう。しかし、コンクリート色むき出しの壁と天井は何となく閉じ込められたかのような威圧感を与える。四面の壁にはそれぞれ150cmくらいまで赤い帯が描かれているが、それ以外に色彩はいっさい無い。それにしても、
「あの地下に、どうやったらこんなスペースとれんですか?」
「ここの階は建物外に向かって張り出てるんです〜。まぁ、支えの役割もありますが、実際は広い面積が欲しかっただけですね〜」
香苗の回答に、トオルの隣にいたアランがさらに質問を浴びせる。
「しかし、地下を広く掘り進むのは領土法に反すると思います。なぜ国はこんな無茶を了承して・・・」
「それは、この学校を国が支援しているからだ」
その声を聞いた瞬間、その場にいた全生徒が一斉にそちらを向いて身構えた。答えたのは香苗ではない。別の女性だ。黒いスーツを着てネクタイをした、鋭い眼光の三十代前半の女性。髪は黒髪で、腰までのびているがみじんの乱れも無い。彼女はトオル達のすぐ脇の壁に寄りかかっていた。
(この人、気配が全く感じられなかった・・・ッ)
おそらく他の生徒達も同じことを思ったのだろう。
「おっと、自己紹介が遅れたな」
女性は身構える男子生徒達をよそに、壁から背を離すと言った。
「私は火雲仁美。ここの教員だ。今日から貴様らをを担当する。と、言ってもその様子では、また長崎が説明を怠ったようだな。」
「す・・・すいませ〜ん・・・」
火雲はため息をついてから「まぁいい」と切り捨てた。
「まず、貴様らにはこの学校がどのようなところかを説明しよう。ここは、そんじょそこらの高校とはワケが違う。ただNAWMを取り入れているという訳でもない」
火雲は一息おいて、
「霧ヶ丘高等学校は、国営対テロ組織要員となり得る人材の発掘および育成を行う訓練機関だ」
生徒達が凍り付く。トオルには「テロ」という言葉に聞き覚えがあった。六年前の『823事件』。
「母さんが死んだ、あの・・・ッ」
『823事件』ではこどもだけが犠牲者として語られた。もちろんそれはその方が日本という国家に影響があったからだ。しかし、犠牲になったのはこどもだけではない。混乱するこども達を落ち着けようとした大人が巻き込まれるケースもあった。トオルの母、島崎恵美もその一人だった。
「ちょっと待てよ」
トオルの思考はそこで遮られた。一人の少年によって沈黙が破られたからだ。金髪の肩ぐらいまでの髪をした、身長が高く、それでいて細い輪郭の少年だ。第二ボタンまで外したワイシャツを羽織り、腰でジーパンをはいた、少しだらしない雰囲気の少年である。
「なんで俺がそんな国のために働かなきゃなんねーんだよ。俺はそんな理由でここに来ちゃいねーぞ」
「そうかい?貴様にも戦う理由ぐらいあるはずだが、鷹尾リヒト」
リヒトと呼ばれた少年は火雲の言葉を鼻で笑う。
「てめぇに何がわかんだ」
その言葉には殺気が含まれていた。人間のそれと思えないほどの質と量を持った、本物の殺気。リヒトのトオルは思わず後ずさっていた。
「わかるのさ、その目を見れば」
「・・・ッ!?」
「光が消え、憎しみと反逆心に燃えて生きている目だ。その年で、もったいないな」
「けっ」
リヒトはつまらなそうに舌打ちすると火雲に背中を向けた。
トオル息をついた。肩から急に力が抜けた。トオルは恐ろしく緊張していた。押しつぶされそうな重圧と立ちこめる殺気で身は軋み、呼吸は加速し、鼓動は耳障りなほどにうるさかった。
(違う・・・)
トオルは静かに思う。コンクリートの天井を見上げ、ぼんやりと呟いた。
「・・・ここは、今まで俺が居た日常とは、違う・・・」