SHOT17: MORNING
SHOT17: MORNING
島崎トオルが新宿の大通りを歩くスピードはのんびりなことこの上なかった。
朝起きてみて気づいたが、やはり右脇腹の傷のせいで立って歩くことすらままならない。右足を踏み込むだけで痛みが走るのだ。どう登校しようか途方に暮れていると、気を利かせた春風カリンに呼ばれ、アラン・エニスと鷹尾リヒトが無期限休業中の喫茶店まで迎えに来てくれたのだ。件のカリンは既に店を後にしていたが。
店を出てから新宿の大通りににぎやかな人波が戻っていることに気づきほっ、と肩をなで下ろした。どうやら昨日は『レムナント』の襲撃に気づいた国側が、前もってこの区域から民間人を避難させていたようだ。警告があったはずだが、気づかなかったのが不思議だ。
喫茶店から学校まではそれなりに距離があった。と言っても、いつもなら大した距離ではないが、友人二人に肩を預けて歩くとなると相当きつい。おそらくアランとリヒトも同じだろう。
「で、リヒト君と一緒に助けたこのハルカちゃんと一緒に駅まで戻ろうとしていたところを、その『レムナント』の人に襲われて脇腹を引き裂かれて春風カリン先輩に助けられた、と?」
「そうだよー」
一気に大量の情報を聞かされて混乱するアランの相手をしているのは、なぜかトオルと一緒に霧ヶ丘に来ることになったハルカだ。トオルが朝起きてみるとカリンからの置き手紙があったため、それに従い、朝起きるなり顔を真っ赤にしてあたふたするハルカを不思議に思いながら友人達の到着を待っていた、という訳だ。
「しっかしよぉ、俺もたいへんだったんだぜ〜」
思い出すように言ったのはリヒトだ。
「俺なんか昨日はあの後、近所のちょ〜うめぇコロッケ屋でコロッケ買って帰ったら風呂入ってる間にリトに食われたよ〜」
「そりゃ御愁傷様だな」
「ありゃ窃盗罪だぜ、ったく!」
「そ、そんなおおげさな〜」
そんな会話をしながら歩いていると、
「ストーーップ!!」
「「「うぁあ!」」」
ハルカに立ちふさがられて高校生男児三人は大げさな叫びとともにのけぞった。
「ど、どうしたの、ハルカちゃん?」
「しーんーごーうー」
ほっぺを膨らませてハルカが指差す先では、歩行者用の信号が赤く輝いていた。
「もう、お兄ちゃん達は危なっかしいんだから〜」
「「「すんませ〜ん」」」
間抜けな返事を返す三人を見て、ハルカはえっへん、と威張ってみせた。
「「「三人とも特級生!?」」」
火雲仁美に会うなり三人は絶叫した。
「あぁ、その通りだ。貴様ら三人の戦闘能力は、現段階のものだけでなく、潜在能力の面でもかなり優れている。よって、三人全員を実戦科各特科の特級生とする」
火雲は一人一人を順番に見ながら、
「アラン・エニス、中継科特級生に任命!」
「は、はい!」
「鷹尾リヒト、突撃科特級生に任命!」
「うぃっす!」
「そして、島崎トオル、同じく突撃か特級生に任命!」「はい!」
火雲は三人から目をそらすと、いい返事だ、と呟いた。
「これからも精進したまえ!」
「「「はい!」」」
すると、アランが話題を少しずらした。
「しかし、火雲先生、」
「どうした、アラン」
アランは思い出すような仕草をして、
「特級生というのは、各特科の中でも特に優れた人間を一対一で訓練させるものと聞きました」
「そうだが?」
「僕達は、一体誰に教わるんですか?」
そこまで聞くと火雲は何かを思い出したように、
「あぁー、そうかそうか。貴様らにはまだ紹介してなかったな」
そういった瞬間、メインロビーのエレベーターから「ポーン」という電子音が流れ、ドアが開いた。そこから現れたのは四人の少年少女だ。内一人は見知った緑眼狙撃手、春風カリンだ。
「紹介しよう」
火雲は嬉しそうに微笑むと、四人を手で指し示すと、
「私の教え子達、霧ヶ丘三年の特級生チーム、『CARD』だ」