SHOT13: RELIEF
SHOT13: RELIEF
襲撃者の攻撃は一発ではなかった。
巨大な鎌を持った黒い男は一度引いた鎌を再びトオルに向かって勢いよく振った。今度はトオルの右脇腹を狙って。右手でしか武器を持たないトオルに取っては最も受け止めにくい箇所である。そして何より、この位置に攻撃が決まればハルカにもダメージが及ぶ。トオルは全力で雪羅を構え、鎌を受け止める。しかし、そこに刃は無かった。トオルが受け止めたのは鎌の柄の部分。刃はトオルの背後でハルカとトオルを包み込むようにその銀色の光を瞬かせる。肩の傷が悲鳴を発する。
(こいつ、最初から引き斬るつもりで・・・!)
男が裂けるように大きな笑みを浮かべた。音が聞こえるほど柄を握る手に力がこもる。
(させねぇ・・・)
トオルは奥歯を食いしばる。「ギリギリッ!」と音が鳴る。すぐ背後では半月型の刃が自分の体にまっすぐ向いている。もちろん雪羅で防ぐことは出来る。しかし、それではハルカまでは守れない。やっと手に入れた「まもるべきもの」。自分の手で「まもれるもの」。そう簡単に手放すつもりはない。
(ハルカだけは、やらせねぇ!)
トオルは雪羅を離すと必死に右手を左後ろに振った。肩の痛みをこらえながら振った手はハルカの胸を勢いよくたたく。「ひゃっ!」という短い悲鳴とともにハルカはぺたりと尻餅をついた。トオルは頭だけで後ろを振り返るとハルカに笑顔を見せた。その口が開き何かを言おうとした瞬間、
銀色の刃が勢いよくトオルの脇腹を引き裂いた。
トオルの体が大きく後ろにのけぞる。その口から真っ赤な血液が吐き出される。鎌の男はニヤニヤと引き裂いたような笑みを浮かべていた。ハルカは一瞬何が起こったのかわからなかった。口をぽかんと開け、後ろ向きに倒れるトオルを眺めていた。自分のすぐ脇に倒れる、力の抜けたトオルの体にハルカはゆっくりと触れた。その目からはあきらかに光が消えていた。
「ト・・・オル・・・お兄・・・ちゃん・・・?」
ハルカはとぎれとぎれに言う。まだ完璧には認識が追いついていない。脳が追いつくことを恐れている。そんな中で、銀色の鎌がゆっくりと持ち上がる。だが、ハルカにはそのギロチンのような刃は見えていない。目の前には、やっとできた「大切な人」が倒れている。血まみれになって、自分を守るために傷ついた一人の少年が。そんなハルカの上に、無情にもギロチンの鎌が振り下ろされる。
「トオルお兄ちゃぁぁぁああああん!!」
叫びは届かず、トオルは動かなかった。ただ、月光を照り返す銀色の鎌が、
真横に吹き飛んだ。
「へっ?」
「なにっ!?」
甲高い金属音に、ハルカと鎌の男は慌てて吹き飛んだ鎌を目で追った。それからその逆の方向を見た。すぐ近くのビルの屋上。そこに一つの人影があった。狙撃銃のような大きな火器を持ったその影は意外にも背の低い少女のものだった。少女は声を張り上げると、
「あんた、『レムナント』だな!何しに来たか言ってみな!」
対して男は慌てたような口調で、
「だ、誰が!お前みたいなガキに!」
瞬間、少女のライフルが火を噴いた。狙撃銃を片手で撃ったにもかかわらず、その弾は闇にまぎれていた鎌を更に遠くへとはじき飛ばした。少女は硝煙の立ち上る銃先を下ろさずに、
「わざとあんたを外してるのはわかってんでしょ?今日は引きな!」
「くっ!」
短く歯ぎしりをすると、男は鎌を拾うことも無く最高速で夜の町へと姿を消した。ハルカはその後ろ姿をぽかんと眺めていたが、やがて我に返ったようにトオルに向き直ると、目覚めない少年を左右に揺すりながらその名前を繰り返し呼び始めた。