SHOT12: RAID
SHOT12: RAID
リヒトとわかれたトオルは、ちゃっかり義妹にしてしまったハルカの手を引いて駅へと向かっていた。日はすっかり沈み、街頭の少ない街の一角からは星が見えるほどだった。ハルカは星空を見上げ、わぁ、と歓声を上げている。そんな中、
(おかしい・・・)
トオルは一人思っていた。
(いくら夜っつってもまだ10時だぞ。さすがに人気が無さすぎる・・・)
トオルは背筋になにか冷たい物を感じていた。気づいたときにはガントレットを展開していた。
「トオルお兄ちゃん、どうしたの?」
ハルカも何かを察したのか、トオルの後ろに回った。その直後トオルは確信を得た。人気の無い理由。違和感の原因。そのすべてを象徴する物が、正確には『者』が目に入った。
一人の男が、圧倒的な殺気とともに君臨した。
その殺気はリヒトのものなどとは格が違った。量も質も一段上を行っていた。黒いスーツに紫色のネクタイ。肩のあたりまでの黒髪は中央で分けられ、黒ぶちの眼鏡の向こうからは鋭い眼光を放つ黒い目が見えた。右手には2メートルもある黒光りする細い棒を持っている。
「・・・トオル・・・シマザキ・・・」
男は小さな声で言った。
「なんだよ」
トオルは背後のハルカの盾になりながらゆっくりと後退し始めたが、
「貴様、俺の標的。だから、殺す」
言うが早いか黒い棒を自分の前に構える男。直後、どこにしまってあったのか棒から勢いよく銀色に光る三日月型の刃が飛び出した。そのサイズは、棒の長さがそのまま直径になるほど大きく、あまりのスケールの違いにそれが鎌だと気づくのにしばらくかかった。
「くっ、」
トオルは奥歯を噛みしめながら、背後で震えるハルカを見ずに言った。
「安心しろ。お兄ちゃんが守ってやるから」
強がりを良いながら、トオルはもう震えているのがどちらかわからなくなっていた。それでもトオルは手を前に出し、「サモン、雪羅!」と唱えた。ガントレットが呼応し、緑の光を吹く。同時、鎌の男が地面を蹴り勢いよく突っ込んで来た。「ヒャッヒャッヒャッヒャーッ!」と甲高い笑い声を上げながら突進してくる男。トオルは左手でハルカに触れたまま右手一本で雪羅を持ち、男の鎌を受けた。真っ暗な街角に昼間のような閃光が瞬く。衝撃に押されてトオルのスニーカーが地面と激しくこすれる。はじききれなかった鎌の先端がトオルの肩に食い込み、三色のパーカーが赤くにじむ。「きゃっ!」という短い悲鳴が背後から聞こえた。なんとか力を保ち、鍔迫り合いに持ち込む。一筋の汗がトオルの頬を伝った。今の一発で確信した。今の攻撃は相手の全力では無かった。それでもトオルは出血するだけの深手を負わされた。片手での戦闘には限界がある。守りながら戦うには無理がある。自分の力ではハルカを守りきれない。この状況下でハルカを生かすためにやるべきことは一つ。ハルカをつれて逃げること。『神楽』のブースターを使い全速力でこの場を離れることだけだ。しかし、その隙がない。何らかの奇跡が起きない限り、トオルはこのままゆっくり迫り来る鎌に引き裂かれて敗れる。一人残されたハルカのことなど考えたくもない。
(なんでもいいから・・・起きろよラッキー・・・ッ!)
激しい鍔迫り合いはゆっくりと、しかし確実に力の差を証明し始めていた。
展開がやけに早くてすみませんww