SHOT11: HARUKA
SHOT11: HARUKA
目覚めた少女はうつろな目でぐったりとしたまま「おなか、すいた〜」とだけ言った。未だにトオルから離れようとしない少女を抱きかかえ、最寄りのコンビニに肉まんを三つ買いに行った。「ありがとぉざぁしたぁ」という無気力な声が聞こえた頃には幼い少女は肉まんにかぶりついていた。その無邪気な姿にため息まじりに微笑むとトオルとリヒトも駐車場の車止めに腰をおろすと自分たちの肉まんを食べ始め、現在に至る。日はすっかり沈み、夜は夏らしい湿った夜気に包まれていた。
「で、君名前は?」
トオルが改めて聞いた。
「ハルカ」
夢中で肉まんを食べながら、しかし今回はまともに応えてくれた。
「ハルカ、か。良い名前だね」
「あ、ありがと」
ハルカは照れたように笑ってみせた。
「んで、ハルカちゃんはなんだってあんな道の真ん中をとぼとぼ歩いてた訳なんだ?」
早くも肉まんを食べ終えたハルカは、車止めに座ったまま足をばたばたとさせた。
「おぼえてないの」
「「え?」」
トオルとリヒトは同時に声を出した。
「なんにもおぼえてないの。気づいたときには、路地裏にゴミと一緒に捨てられてたの。おなかぺこぺこで。だから、なにか食べたくて。それで、」
「食べ物を探して歩いてたとこに俺らが通りがかった、と」
だんだん表情が沈むハルカをトオルが引き継いだ。ハルカはこくりと頷いた。しかしすぐにその顔に満面の笑みが浮かんだ。
「お兄ちゃん達が来てくれなかったら、ハルカ死んじゃってた。ありがとう!」
その笑顔はあまりにも純粋で、反射的に二人は目をそらしてしまった。その笑顔は直視するにはあまりにも眩しかった。
「それで、これからはどうするの?」
トオルの質問に対し、ハルカはうつむいて言った。
「わかんないよ。お家も無いし。家族も居ないし。お母さんもお父さんも・・・」
その表情はあまりにも悲しかった。見ているだけで、自分の胸にも大きな刺が刺さるような感覚がこみ上げてくる。放っておけない。放っておけるはずが無かった。
「家族がいないなら作っちゃいなよ」
「え?」
ハルカが目を丸くしてトオルの顔を見た。トオルは大きく息を吸い込むと。
「俺が兄ちゃんになってやる!」
自分でも何を言っているのかわからなかった。ただ、この少女が、まだ幼いハルカという女の子が、路頭に迷ってひとりぼっちで居続けることはあまりにもつらかった。考えると、あまりにも痛かった。
「・・・」
ハルカはしばらく何も言わなかった。リヒトもトオルもハルカの反応を待った。かなり長い時間が経って、やっとハルカが動いた。
「・・・お兄ちゃん、名前は?」
トオルは不意を討たれてはっとしたが、
「トオル、島崎トオル」
「そっか」
ハルカは静かにいうと、勢いよく立ち上がるとトオルの元へ走り、飛びつくように抱きついた。ひっくり返りそうになりながら小さな少女を受け止めたトオルはそのとき初めて彼女が泣いていることに気づいた。しかしそれは、さっきのような恐怖や不安いよる物ではなかった。それは、安堵感から生まれる涙だった。その一滴がトオルの国旗のようなパーカーに落ち、ゆっくりと広がった。
「ありがとう、トオルお兄ちゃん」
答えはイェスで間違いなかった。
ヒロイン登場!