出会いと契約
序章
ここは、横浜郊外の海岸沿いにある小さな町。
自転車を堤防沿いに押してとぼとぼと歩いている。
今年17才になる少女。
それがなみ。
「私は、1人ぼっち」
なみは、つぶやく
彼女がそう呟くには、こんな訳があった。
あれは、先日の事、なみの通う高校での出来事だった。
幼なじみのえりかは、幼少の頃からの幼なじみで親友でもあった。
親友のえりかは、活発な性格で自分から進んで何もかも取り組み、異性からも愛されるタイプだった。
そういう性格だからこそ恋人も出来やすかったのだろう。
同じクラスの美形の男子、圭介に「好きだ。俺と付き合ってくれ」
と告白されていたのだった。
えりかは、思い切って付き合うと心に決めていた。
なみはと言うと、人見知りでいつもえりかの後をついて行く大人しいタイプだった。
ただ幼なじみのえりかには、気兼ね無しに何でも話す事ができていた。
だから、なみにとってはただ1人の頼りに出来る存在だった。
えりかが、圭介に告白されたことは、なみも知っている。
そして、えりかも圭介に気があることも。
学校では、どちらかと言うとえりかより、なみの方が人気が出てもおかしくない容姿をしている。
そして……
今は、夕方、日が海の水平線に沈みかかっている。
なみは、えりかの気持ちを思い考えていた。
なみは、不意に空を見上げた。
なみ「流れ星?」
流れ星は、段々と大きくなってくる。
なみ「キャー」
なみの頭上に直撃した。
なみは、気を失なった。
どの位時間が過ぎたのだろう。
なみは、パソコンのキーボードを打つ様な物音で目が覚めた。
なみ「うううーん」
なみ「ここは、どこだろう。」
あたりを見回すなみ。
白い霧の様な空間で、先がほとんど見えない。
「やあ。目が覚めたかい。」
霧の中の空間から声が聞こえる。
次の瞬間、淡い光が遠くの方で見える。
その光は、徐々に明るさを増した。
光は、目が眩むほどに増していた。
なみは、左手で目を覆った。
光は収まり、左手をそっと降ろした。
すると、目の前に何か飛んでいる。
なみ「虫なの?」
妖精「失敬なっ」
なみ「虫が喋った!」
なみ「私、まだ夢見ているのかな?」
妖精「夢?夢じゃないよ」
なみは、目を凝らしてしっかり見た。
なみ「小人!?うそっ!」
妖精「小人じゃない。妖精」
なみ「妖精?あなたが?」
妖精「そうだよ。」
妖精「お前の名前ってなみって言うんだろう?」
妖精「あっ!いけねー。おいらの名前は、ロン!」
なみ「あなたいったい何なの?」
なみは、少し混乱している。
ロン「だから妖精だよ。お前だけしか見えないんだよ」
なみ「おまえって!何であなたにそう呼ばれなきゃいけないのよ!!」
ロン「怒ったぁ♪怒ったぁ♪」
ロンは、楽しそう。
なみ「……」
ロン「圭介、えりか、圭介、えりか…」
なみ「何でそんなことまで…」
ロン「知ってるのさぁ お前の事は全てお見通しさっ!」
なみは、泣き出した。
ロン「おいおい泣くなよぉー」
ロン「おいらは、お前に恋してもらう為に来たんだよ」
なみ「えっ?」
ロン「だからー 恋!」
ロン「おいらは、恋愛女学院の生徒!」
なみ「女学院って…あなた男でしょ?」
ロン「男だよ。でも妖精だからいいんじゃねえっ!」
なみ「なんて勝手な!」
ロン「なみ!おいらと契約しないか?」
なみ「えっ!契約?」
ロン「なみの夢を叶える為の契約だよ。恋愛契約、女学院に入校するための契約」
ロン「恋愛女学院には、なみの様な子がいっぱい居るんだよ。」
なみ「あなたの様な失礼な妖精君となんで私が契約しなければならないの?」
ロン「『私って一人ぼっち』ってなみの心の中の悲しみの叫びがおいらを呼んだんだよ」
ロンがなみの心の中の悲しさや寂しさをまた、思い全てを理解しているのかどうかわからなかった。
なみは、妖精のあり得ない出現が、現実と夢が交錯している。
しかし、なみはそのあり得ない現実に賭けてみる決断をした。
なみ「わかったわ。契約してもいい。ロン。あなたを信じることにする。」
ロン「本当にいいのか。」
なみは、頷く。
ロン「じゃあ、契約の儀式を始めるよ。」
ロンは、呪文の様な言葉を唱えている。そしてなみとロンは白い眩しい光に包まれた。
ロンは、その満ち溢れた光の中でなみとキスをした。