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23話

「遠田ぁ!!テメェなにをやっているんだ!」

「すみません・・・」

エラーをしたショートの選手に、中東野球部の顧問、安盛が怒鳴りつけた。

「アマの打球が、捕れねえのか!遠田!

初っ端かまされてんじゃねえぞ!!」

安盛の容赦無い罵声とも叱責ともつかない声が遠田にぶつけられた。

「それと、田中ぁあ!」

「はい」

「いきなりヒットの打ち放題じゃねえか。しかも何だ?あのアマには借りがあんじゃねえのか?え?

様子見はいいから本気でいけよ、ゴラァ」

「すみませんっした」

中東中学の安盛は、試合になると口が悪くなることで有名だ。

そのせいで、

ドナルド(怒鳴るど)というあだ名がついた。

中東中学近隣の中学では、ドナルドで通じる。

生徒からの人気は最悪に限りなく近いが、何故か父兄からの人気がある。

「しまってけよ。三年になったばかりで調子乗る時期かもしんねーが、テメェの代わりなんざいくらでもいんだからな?田中よお」

「はい」

「・・・行ってこい」

「はい!!」

田中は、グラウンドに戻る途中で遠田に「気にするなよ」と声をかけておいた。

確かに、初っ端この流れはまずい。

しかし、原因は自分だ。

一ノ瀬や緋汰の強さは、充分知っていたはずなのに、様子見なんかしたのは愚策だった。

田園中のベンチは盛り上がり、一ノ瀬が揉みくちゃにされているのが見えた。

とりあえず、一回は二点に抑えたい。

攻守が交代しても、一ノ瀬から点をとるのは楽じゃないはずだ。

『四番、セカンド-----南野君』

細身で小柄な少年がバッターボックスに立った。

一投目。

田中が振りかぶって投げる。

「お?」

田園ベンチの奥に座っていた小島が小さく声を出した。

「ストライク!」

速さは普通だが、コントロールがいいストレート。明らかにさっきとは違った。

南野は空振りだった。

ニ投目。

今度は、スピードのある内角を突いてきたストレート。

田中は、特にコントロールを磨いたようだ。

もともと、中学生で変化球がいくつも操れる中学生などほとんどいないはずだ。

一ノ瀬は、特例-----

いわゆる、天才。

なのだろう。

女子というハンディキャップをカバーするための練習姿勢や圧倒的なセンスは、例え女子でも天才としか言いようが無い。

それを分かっていても、田中は一ノ瀬に勝ちたかった。

努力すれば----勝てる。

信じて、ドナルドの厳しい練習にも堪えた。

久しぶりに一ノ瀬を前にして、いきなり点を取られたので目が覚めた。

今度こそ、討ち取る。

「ストライク!」

ニ投目も決まった。

南野は、田中の気迫に押されて、なかなか球をとらえることができずにいた。

三投目もストライク。

田園中のカウントにアウトが一つたされた。

「どんまい!南野、きにすんな!!」

ベンチにうなだれて戻ってきた南野に、チームメイトが優しく、手荒に慰める。

「まだ、一回。焦んなよ、大丈夫だから」

一ノ瀬も声をかけた。

『三番、ファースト-----大和田君』

「行っけー!行け行け!大和田!!」

応援席から声援が沸いた。

大和田はチームのムードメーカー。

チームのふいんきをよくしてくれるし、笑わせてくれる。

三年三組の、照岡のような存在だ。

「大和田いっきまーす!」

バッターボックスに立つなりそう叫んだ。

「おう!いけよお!」

会場がざわめく。

一投目、田中が投げる。

キーン!!!

田中のバットが球をとらえた。

さして飛ばなかったが、ギリギリで一塁に進出した。

逃しかけた流れを、少し引き戻した。

「大和田!ナイス」

ベンチのふいんきも、戻りかけた。田中だけが努力してきたのではない。

田園中の選手も相当努力してきた。

そして、中東の選手も。

『五番、サード-----左古君』

二年生生になったばかりの左古がギクシャクしながらグラウンドに出た。

「左古!楽にいけー!」

緋汰が叫ぶ。

「はいっ!」

一投目。

左古のバントが成功した。

-----と思われたが。

田中がバントを読んで、前進していた。

すぐに球を拾い、二塁に送球。

「アウト!」

大和田が滑り込むのが少し遅かった。

しかし、それだけでは中東は終わらない。

一塁に向かっていた左古が一塁を踏む前に、送球した。

「アウト!」

ダブルプレーだ。

「アウト!チェンジ!」

中東と田園の攻守が交代した。

「すみませんでした」

左古が先輩達に謝った。

「左古。気にするな」

先輩がこたえるまえに、顧問の小島が答えた。

「一回で二点、いいペースだ。コールドゲームになるより、うちのエースの見せ場がなきゃつまんねえ」

大和田が左古の肩を叩いて言った。

「かましたれ!一ノ瀬」

「当たり前だ」

一ノ瀬も、左古の肩に手を置いてマウンドに向かった。

小島と緋汰、そして大輝は、マウンドに上がる一ノ瀬に不安げな目線を向けていた。

大輝はその反面、一ノ瀬のピッチングに期待していた。

「ほら!千雲だ!キャーッ、頑張れ千雲!!」

里美は一ノ瀬がマウンドに立つと、大輝の腕をバシバシ叩きながら応援した。

『中東中学の攻撃です。

一番、ピッチャー-----田中君』

田中がバッターボックスに立ち、構えた。

田中がニヤリと笑うと、一ノ瀬も口の端を上げた。

一投目。

男子顔負けのフォームで、投げた。

内角、ギリギリのストレート。

「ファール!」

ギン、と、鈍い音をたてて打たれた球は、後ろにとんだ。

「痛て・・・」

速くて、重みのある内角のストレートを無理して打ったことで、田中が手首をプラプラと振った。

マウンドの上で、一ノ瀬が笑みを浮かべる。

肩は本調子じゃないものの、田中が自分の球を打ち返してくれている事が嬉しかった。

どうせ試合をするなら、ピンチだってなきゃつまらない。

ニ投目。

物凄い角度で落ちる、フォーク。

直角のように落ちるフォークは、一ノ瀬の武器でもあった。

しかも、スピードが半端づはない。

「ストライク!」

田中は空振り。

三投目にかかるとき、もう一ノ瀬の顔から感情は消えていた。

一ノ瀬も、手を抜かないつもりでいく。

肩の事があるにしても、自分のできる範囲で、全力でいく。

三投目。

キーン!!

快い音をたてて、田中のバットが球をとらえた。

「いけーっ!!」

中東のベンチがわきたった。

-----が。

「アウト!」

田中が打ったはずのボールはバウンドせずに、真っ直ぐ一ノ瀬のグローブの中に飛んで行き、グローブにおさまった。

「・・・!」

何が起きたか分からないとような顔で一ノ瀬を睨みながら、田中がベンチに戻った。


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