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20話

「礼!さようなら」

今日も大した問題もなく終わってくれたなあ。

午後は部活でまた牧野に会わなくちゃいけないけど。

「佐山!今日さ、俺部活無いんだけどさゲームしねぇ?」

中島が、廊下を歩いているときにこえをかけてきた。

「俺今日は部活・・・」

「牧野が今日は無いって言ってたぜ?」

「あれ?無いの?」

「牧野が言ってるんだし、そうなんじゃね」

まあ、牧野が言うならなそうなんだろうな。

「あ、けど今日他の奴と遊ぶ約束してる」

「えぇ?そんなあ」

中島が派手に落ち込んで見せる。中島とも遊びたいけど、絵空との約束は破りたくないし・・・それに、ちぐもいるはずだから。

「いや!ちぐは別にいいよな!」



「は?何?」

廊下でいきなり大声をあげた俺に、まわりからの白い目線と中島の恥ずかしそうな顔が刺さる。

「いや、何でもねぇ」

「何だよ。狂ったかと思ったぜ」

「う、うるせぇ!!」

「佐山、本当に大丈夫か?給食は問題無かったぞ」

「う、うるせぇ!」

「医者を呼ばないといけな」

「ああ、もう!本当に大丈夫だから」

中島と顔を見合わせて爆笑する。

「本当は今日ちぐの家で絵空と」

「絵空?」

「あ、ごめん。ちぐの家で、ちぐの弟の絵空君とゲームする約束してたんだけど、中島もちぐの家来る?」

「え?ちぐって、一ノ瀬だよな。弟いたのかよ」

小島と居るときは、<一ノ瀬>ではなくて<ちぐ>と言って話しているから、<ちぐ>で通じる。

「ああ、小四くらいだったような」

「へぇ?お前と一ノ瀬って結構深い仲なんだ」

「ま、まぁ」

「俺も行って良いわけ?」「さあ?」

「おい・・・俺なんかが一ノ瀬の家に・・・」

「は?」

「いや、冗談。本当に行っていいのかよ」

「うん」

「言ったね、言ったな。俺には何の責任もねぇぞ、言ったからな」

「何の責任だよ」

「まあいいじゃないか!で、何時から何時まで?」

「じゃ、五時に俺の家に来いよ。八時くらいまで俺は居るけど」「八時!?おまえらどんな関係?」

「何を想像してる」

「ごめんごめん」

「八時までは無理か」

「いや、俺は佐山んち行くって言えば平気だけどさ。俺、一ノ瀬と話したことすらないんですけどいいのかな・・・」

「さあ?」

「あ、そこはうんじゃないんだ」

「言っとくけど、一ノ瀬の家を他の女子と同じような感じと思うなよ。

俺も二年ぶりだけど・・・間違っても五十嵐みたいな部屋じゃない」

「ああ五十嵐?けど、普通に女子の部屋じゃね。

なんつうか・・・やっぱり女子の部屋って緊張するよな!!

俺、結構女子んち行ったことある方だと思うけどな」

「その緊張。多分ないから安心しとけ」

「は?」

ま、行ってみれば小島とちぐ結構気が合うかもな・・・。

「言っとくけど、ちぐの弟とゲームする約束してたほうが先だったんだから、お前も了解しとけよ?やるゲームとかも絵空優先だから」

「どんなゲーム?」

「戦闘系。てか、それくらいしかない」

「やっほーい!!」

万歳をして、派手に小島が喜ぶ。

「じゃあ、早めに来いよな!」

小島の家の前で別れるときに一声かけてから、走って家に帰る。

二年ぶりのちぐの家。

不思議と、緊張する。

二年ぶりだから?

今までこんなことはなかった。

それに、今日は絵空に用があるんだから・・・。


全力疾走して、顔に当たる爽やかな風が下腹がうずくような感覚を吹き飛ばしてくれるよう願いながら、微笑んだ。



●○●○●○●



着替える服を選ぶのが面倒で、ジャージに着替えて黒にライトブルーの線が入っている鞄に

スポーツ飲料のペットボトルと自転車の鍵、みんなで食べる予定のチューインガムを入れて家を飛び出す。

自転車にまたがって、道路に出るとちょうど

小島が来た。

「おっ!ちょうどじゃん。いこうぜ!」

何で中島、乗り気?

「おう」

自転車を漕ぎ出す。

中島と並走しながらちぐの家を目指す。

「てか佐山ジャージ?」

「うん」

中島は赤いチェック柄のシャツの下に白いTシャツ。

黒っぽいロールアップジーンズにスニーカー。

俺も私服の方が良かったかな。

「別にいいけどなあ」

「おう」

たわいもない事を話しながら、漕ぎ進めるとあっという間にちぐの家についた。

「ここ」

「意外に近いんだな・・・」ちぐの家を見上げながら中島が呟く。

自転車を止めてインターホンを押す。

「待ってたよ!さや兄!」

「おっす!」

「?」

勢いよく飛び出してきた絵空が、中島を見て首を傾げる。

中島は固まっている。

「あのさ、絵空。この人俺の友達なんだ。こいつも一緒に遊んじゃだめか?」

「中島塔夜です!絵空君、よろしく」

「よ、よろしく・・・」

「絵空が好きなゲーム、中島得意なんだぜ。一緒にやろうぜ?」

「さや兄の友達なら、いいよ」

「よし!いい奴だな絵空」中島が満面の笑みで、絵空の頭を撫でる。

「へへっ」

絵空も悪い気はしないようだ。

「じゃ、二階きてね!」

絵空はそう言い残して二階に消えた。

「ああ、良かった・・・拒否されたらどうすればいいか考えてたんだよな、俺・・・」

「良かったな!じゃ、いこうぜ」

二階に上がる階段の先に部屋が二つあった。

奥には、ドアに<絵空>のプレート。

手前には<千雲>のプレート。

絵空は<千雲>プレートの部屋に躊躇なくはいっていった。

そういえば、この姉弟も勝手にお互いの部屋に出入りしてるな・・・。

「ちょっとたんま!」

中島がドアノブに手をかけた俺を止めた。

「なに?」

「いま、一ノ瀬いないよな?部活で!

勝手に入ったらまずいだろ!?」

「いいんじゃない?」

「へ?」

「この家のゲーム類、全部ちぐの部屋にあるし」

「へえ・・・て!」

「大丈夫だから、ちぐが帰ってきたら説明すればよくね?」

「うん・・・」

ドアノブをひねって部屋に入ると、絵空が携帯型ゲーム機を三台床に並べて、ソフトを選んでいた。

ちぐの部屋は、一ノ瀬家でリビングを除いて一番広い。

奥に勉強机と野球の道具と松井やイチロー、阪神タイガースのポスターが壁中、天井にも張り巡らしてある。

入口から見て右側にベッドと本棚。

本棚の中身は漫画と参考書のみ。

漫画は少年漫画が三種類、物凄い巻数で並んでいる。

参考書の数は、さらに漫画を上回る。

左側には大型の薄型テレビと携帯型ゲーム機と、テレビに接続するタイプのゲームがビデオデッキにならんでいる。

絵空の分もならんでいるため、すごい数になっている。

本棚の上には、あの写真がある。

リレーで優勝した時の写真・・・。

「うおお!すげえ!!」

中島が部屋に入ってなり食いついたのは、本棚。

「この漫画、全部お姉ちゃんの?」

興奮した様子で、中島が絵空に問い掛けた。

「あ、うん。僕も読むけどね」

「そうなんだ!全巻そろってるんだな!

俺も、めっちゃ好きなんだけど小遣い足りなくてまだ二十巻しか持ってなくてよ・・・」

中島が好きだという漫画は完結していて、全部で七十八巻。

俺は、中島が好きな漫画をちぐが全巻持っている事を知っていた。

だから、気が合うかもなあと思っていた。

キラキラと輝く目で漫画の山を見つめる中島を、絵空が見つめている。

「絵空、早くゲームやりたいもんな」

「うん!さや兄は赤ね」

俺は赤色のゲーム機を手にとる。

「僕は、黄色!」

「んじゃ、俺は緑だな」

絵空の視線に気づいたのか、中島もやってきた。

絵空が選んだのは、中島が持っているゲーム。

俺は、ちぐのソフトを借りた。

「てか、一ノ瀬ん家何台ゲームあるんだよ」

「さあ?」

「さあ?」

俺が答えると、絵空も俺のマネをして笑う。

こういうとき、弟が欲しいと本気で思う。

<さや兄>と絵空に呼ばれる度に何となく、くすぐったいような暖かい気持ちになる。

「まじもう一ノ瀬ん家最高。俺、今日から絵空の部屋に住む」

「そう?僕ね部屋狭いけどいい?」

「余裕!絵空と一緒に寝てやるよ」

「蹴り飛ばしてやる」

「おっ、上等だぁ!!」

中島がそう叫んで俺のキャラクターに強烈な一撃を喰らわせた。

「おい、中島!!この野郎!絵空ものらないの!」

「なかなか乗りがいいぞ、絵空。少なくともこいつより上」

「そう?さや兄は鈍いんだねぇ」

「鈍くない!乗りが悪くて悪かったな・・・・あぁ!?」

絵空のキャラクターが持つ剣でザックリやられて、俺のキャラクターはやられてしまった。

「いえぃ!」

「うぅ・・・」

絵空と中島がハイタッチする。

チェッ。



-----それから、六時半位までソフトを取り替えながら三人で遊んだ。

「いけっ!佐山!!」

「了解!!」

テレビの画面の中の俺がでかい怪物に向けて、青い光線を発射する。

怪物が倒れた。

画面いっぱいに現れた<クエストクリア>の文字。

「えぇい」

三人でガッツポーズ。

「俺様の指揮は最強だな。佐山よ、よくやった」

「なんか悔しい・・・・」

「本当にヨル兄は強いんだね。何で攻略本に載ってない裏技知ってるの?」「ヨル兄・・・?」

中島がキョトンとした顔で絵空を見つめた。

「中島君の名前、塔夜でしょ?夜っていう字があるからヨル兄!!」

「ヨル兄か・・・ヨル兄ね・・・なんか、照れるし!」

中島は無造作に頭を掻きながらも、嬉しそうに笑っている。

「さや兄とヨル兄。仲良しなんだね!

さや兄酷いんだよ?二年も僕と遊んでくれなかったし・・・

けど、ヨル兄も来てくれたからさや兄も許すんだあ」

「そうかそうか!絵空、いい奴だぜ。かわいい奴め!」

中島と絵空も仲良くなったし、良かった・・・。

絵空が怒ったらどうしようかと思った・・・。

「じゃ、次行くぜ次」

ゲームのコントローラーを、中島が握りなおした。



------ガチャ




「おかえり、姉貴」

「ただいま・・・あれ?いらっしゃい」

ちぐが、帰ってきた。

緑色のTシャツと黒のジャージ姿のちぐの髪は濡れていてシャンプーの香りがした。

「ちっす」

「絵空、大輝と遊ぶ約束してたんだね」

「うん!あとね、ヨル兄も来た!」

ちぐの目線が中島に向く。

「えっと、中島君でいいんだよね?」

中島の背筋がぴーんと伸びた。

「はい!おじゃましてます!えっと、佐山の友達であの・・・」

「いいよ、絵空の相手してくれてありがとう」

ちぐは、慌てている中島に向けて微笑んで言った。

「いや!こっちも楽しいんで大丈夫です」

あれ?何故中島は微妙に敬語なんだ?

「おら、ちぐもやるんだろ?」

コントローラーを差し出すと、待ってましたとばかりに笑いながらコントローラーをうけとった。

「もち。いま何クエスト目?」

「三十」

中島が画面に顔を向けて答えた。

この二人、ゲームに向かうとすごい真剣な顔するんだよな。

「三十?中島君やるね」

「ふっ、俺結構強いっすよ?」

「ヨル兄、姉貴を舐めたら駄目だよ」

「ははは!絵空、心配するなよ?俺が一発でぶったおしてやるからな!」

「おいおい、一応協力プレイだからな?

あと絵空、いつから姉貴って読んでんだ?」

「忘れた。さや兄のマネしてみた!」

「そっか。・・・・おぉ!?」

本日二回目。

いつの間にかクエストが始まっていて、三人に置いてかれていた。

「キタァッ!俺三十一きたの初めてだし」

「あれ?ヨル兄初めて?」

「え?だって」

「姉貴、全部クリアしてるからさ。見慣れてるんだよね、僕。見てるだけだけど」

「全クリ!?」

画面にこれまたバカでかい怪物が現れた。

現れたなり、赤い光線を次々に発射している。

ちぐ以外のキャラクターには全員当たった。

一撃でライフが半分削られた。

ちぐの指がコントローラーの上を走り、光線を簡単にすり抜ける。

中島のキャラクターが大刀を構えて怪物に切り掛かった。

連続して切り掛かると、怪物のライフも減っていく。

怪物が怯んでいるうちに、絵空のキャラクターが時間をかけて魔法を発動するための用意をして、発動させる。

大ダメージを与えた。

魔法の衝撃でしばらくの間は、光線を発射できなくなった怪物に俺が攻撃力を上げた拳をたたき付ける。

怪物のライフが残り僅かになった。

「よっしゃ!!」

佐山も俺も絵空もテンションが上がっている。

ちぐは、さっきからコントローラーの上に指先を走らせてちぐのキャラクターの足元に黄緑色の魔法陣を展開している。

その魔法陣がオレンジ色に変わったとほぼ同時に、怪物のライフが回復して特大の光線を発射した。

ちぐを含めて全員に攻撃が当たり、ライフが一気にゼロになってしまった。

「はあ!?今のありかよ!」佐山があぐらをかいた状態で膝を揺すって言った。

「まだ続くよ。佐山君」

ちぐが言うと、みるみるうちにライフが回復していった。

全員がライフの半分を回復した。

「え?」

佐山は驚きながらも、ちぐの指先の動きに見とれている。

どうやらさっきの魔法陣がライフを回復させる魔法だったようだ。

素早く俺は右足に攻撃力を集中させて怪物に走り寄り、飛び蹴りをくらわした。

左側によろめいた怪物の下に、絵空が魔法陣を展開させて一気に爆発させる。

すかさず、中島が日本刀の様な形をした刀を三本。右手と左手、口に加えて走りだし怪物に突き刺した。

怪物のライフがまた僅かになると、さっきのようにまたライフが回復しはじめた。

ライフが回復しきるまえに、ちぐのキャラクターが怪物の下に潜り込んで拳を連打する。

延々とヒット数が嵩む。

怪物のライフの回復も止まり、ライフがどんどん減っていく。

ちぐは、連打をやめて肩に大きいバズーカを構えて下から押し上げるようにして打ち放った。

怪物が宙を舞い、崩れ落ちる。


画面いっぱいに<クエストクリア>の文字が現れた。

「やりい!!」

俺とちぐハイタッチを交わした。

ちぐがするゲームはいつ見ても痛快だ。

「ちえ。姉貴、あの魔法陣教えてくれよぉ」

「やだ」

「うわぁ!」

こんな絵空とちぐのやり取りを、キラキラと輝く目で見つめてるのは・・・

「中島・・・」

中島が爆発した・・・。

「佐山!一ノ瀬さん借りるぜ!」

言うなり一ノ瀬と向き合う形で座った。

「凄いなぁ!!あの魔法陣、組むの目茶苦茶速かったし!

全員分の回復ってあんな早くできるものなんだったんスね!!

まじ強え!!」「ああそうかな?ありがとね。あと一ノ瀬さんってさん付けしなくてもいいよ?」

「まじ?んじゃ、<いち>って呼ぶわ!俺も中島でいいからな」

「よろしく」

「あと、この漫画・・・全部いちの?」

中島の野郎、早速<いち>って呼んでやがるし。

「うん。好きなの?」

「超好き。けど小遣いなくて読めねぇ」

「そっかあ、貸そうか」

「やりぃ!!いち!まじありがとう!」

「ういー」

中島は嬉々として漫画を鞄に詰め込んでいる。

「なあ、ちぐ」

「ん?」

「今日八時までいていいか?」

「ああいいよ」

「よっしゃ」

「あ、絵空。あんたはそろそろ上がりな。母さんが呼んでる」

「分かった。ヨル兄、さや兄ありがとう!また遊ぼうね」

「おう!」

「じゃあな、絵空!!」

絵空がいなくなると、少し空間がさみしくなった感じがした。

「いち、佐山、このソフトやんねぇ?」

中島が持ち出したのは最近発売されたばかりの新しいソフト。

俺は持っていない。

「あっ!そのソフト、よく買えたね。予約も厳しかったでしょ」

「まあな、楽勝だぜ」

「どっちだよ。

俺はそれ持っていないから二人の見てるぜ?」

「大輝ごめんね。あたしもこのソフト一つしか持ってないから・・・」

「気にすんなって。見てるのも楽しいから大丈夫だから!」

申し訳なさそうな顔になったちぐに笑いかけると、ちぐも笑顔になった。

「もしかして、俺は邪魔かな?」

「うるせえ!さっさとやれよ」

三人でベッドに背を付けて並んだ。

ちぐ、俺、中島の順で。

ゲームが始まると、携帯型ゲーム機の画面の中には対峙する、男女のキャラクター。

「その額当て!レア物じゃね!?」

佐山がちぐのキャラクターを見て声をだした。

「まあそんな感じ」

ちぐはいたって冷静。

「俺もすんげえの持ってるッスよ」

そう言って、画面内の中島のキャラクターが手に取ったのは複雑な模様の黒い短剣。

「それもレア物じゃん。あたし持ってないや」

「へへーん。行くぜえ!」

二人が取っ組み合う。

中島もゲームは強い。ちぐも強い。

一進一退のゲームが続いた。

「・・・・・ああ!」

中島が声を上げたのに驚いて、中島の画面をみると<エラー 通信が切断されました>のテロップが流れていた。二人のキャラクターの姿は消え、黒い画面に赤い文字のテロップ。

「いち・・・!?」



--------トンッ



ん?

何か右肩が重い・・・。

「あらら」

中島がちぐの方に顔を見て微笑を浮かべた。

右側の方に視線を向けると、ちぐが眠ってしまっていた。

俺の肩に寄り掛かりながら、寝息をたてている。

「いち、寝ちゃった・・・」

「部活きつかったんだよ。俺らもそろそろ上がるか」

時計は七時四十分を指している。

「佐山ぁ。まさか、いちをこのまま床に寝かせるなんて訳無いよなぁ?」

「え?」

いちは、俺にべったり寄り掛かっているから俺が立ち上がればそのまま倒れてしまうだろう。「んな訳ねぇよなぁ?」

中島がニヤニヤしながら俺を見ている。

「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」

「そりゃあ・・・」

「何だよ!」

「んー・・・・。お姫様抱っこでベッドに寝かしてあげれば?」

「ばっ!馬鹿!!」

ちぐが触れている部分から体がほてって、赤く染まるのが自分でも分かった。

「ええ?んじゃ、俺は先に退室します!外で待ってるから!」

そう言い残して、手をヒラヒラと振りながら部屋を出ていってしまった。

二人きりになった部屋には、ちぐの寝息だけが響いていた。

「ちぐ・・・・ちぐ?」

呼び掛けて、頬を指でつついても、起きない。

・・・どうしよう。お姫様抱っこ?

どうやるんだよ、それ。

自分の手の平を見ると、真っ赤になって小刻みに震えていた。

中島じゃあるまいし、何を考えてんだよ・・・。

ただベッドに乗せてやればいいだけだし。

けど、やっぱり緊張した。

俺だって思春期真っ盛りの男子。

密室に二人きりで、相手は超無防備。

すぐ後ろにはベッドがある・・・こんな、こんな。

あぁ!もう!!

何だよ、俺。

絶対おかしい。

こんなことをちぐに対して考えてる自分が嫌になる・・・。

「おし」

意を決してちぐの膝に右手を入れて、左肩を背中に回した。

案外軽くて、すぐに持ち上げられた。

胸の当たりに、ちぐの寝息が当たって温かくなって、いっそう恥ずかしくなった。

シャンプーの臭いがしていて、小さく柔らかい体の感覚が俺の全身を温めた。

すぐにベッドに乗せてしまえばいいのに、ずっとこうしていたいと思った。

この柔らかい体を包み込んで、ずっと、ずっといられたら・・・。

ちぐを激しく求めてしまう自分が、いた。

自分でもなんだか、悲しい気持ちになって、ちぐんそっとベッドにおろす。

俺は、ちぐの事・・・何にも知らねえんだな・・・。


小学生の時から、男友達みたいに想っていた。

けど、違う。

俺よりでかくて。

でも、今は違う。

誰とも仲が良いようで、何かをしまっていて。

けど、俺が何を知ってる?自分の目の前で眠っているちぐという、一人の人が愛しくなった。

同じくらい、不安になった。

好き-----そんな二文字で表していい感情じゃなかった。

俺はちぐに布団をかけて、部屋を後にした。

気付いてしまったこの気持ちを、整理することができなかった・・・。

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