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18話

土曜日の午前練習。

あの日の衝撃は今も覚えている。

あの時、教育者としての理性を失うべきでは無かった。

あの興奮を抑えられなかった・・・。


●○●○●○●


「おはようございます!」野球部員がすでに整列して待っていた。

「おはよう。早速だが、今日のメインは一年生の実力テストだ。それぞれで準備運動しておけ。二年生、三年生はポジションごとに固まれ」

「ういっす!!」

「一年生も希望ポジションごとに固まれ」

「はい!!」

上級生を中心にグループが出来てきた。

「最初はサードから行くぞ。他のグループは、野球部について分からない事などを上級生から聞いておけ」

「ういっす!!」

「サードグループこい」

「はい!!」

サードだけでもかなりの人数いるな。

レギュラー争いが激しくなるなあ・・・。

ノックと送球テストを行うと、やはり上手い奴とそうでもない奴の差が出てきた。

でも、このテストだけでレギュラーが決まる訳ではない。

これから先、特に夏休みの練習を経てレギュラーが決まる。

このテストはあくまで、現時点でどれくらい力があるかを見るだけのものだ。

上級生から見ても上手い奴は何人かいた。

サードが終わって、セカンド、センター、ファースト、ショート・・・・。

次にキャッチャーの番が来た。

今まで、上級生の中ではキャッチャーは一人しかいなかった。

今年のキャッチャー希望は二人。

何故かキャッチャー希望は毎年少ない。

上級生のピッチャーにボールを投げてもらい、捕って送球をしてもらった。

あの頃は、緑川が上手かった。

まだ足りない所もあるが、じっくりと育てれば良い選手になると思った。

「よし、ありがとう。次はピッチャー、こっちにこい!!」

最後にピッチャー。

ピッチャー希望は十人。

「先輩のキャッチャーが捕るから、全力で投げてくれ。全部で十球、変化球もありとする!」

「はい!!」

「お願いします!!」

最初の生徒がマウンドに立った。

背が高く、体つきが良い、男子生徒だった。


まずストレートど真ん中。外角、内閣、低め・・・変化球は投げなかった。速さは並、フォームに癖がある感じだった。

「お願いします!!」

二番手はニキビ面で長身の男子生徒。

一発目にカーブ、ストレート、カーブ、ストレート・・・。

カーブとストレートを交互に投げた。

速さはあるが、コントロールが悪い。カーブも勢いがない。

「お願いします!!」

三番手は小柄で細身の男子生徒。

ストレートを投げた。

変化球は投げなかったが、コントロールも速さもあった。細身のせいか、球に重みがかかっていないようだったが。

・・・・その後も、同じように進んでいったが、今までだと三番目に投げた生徒が一番、今の段階で力がある生徒だった。


そして十人目、一ノ瀬の番が来た。

今までの生徒とは違い、一礼するだけの挨拶。

他のポジションも興味津々で一ノ瀬を見つめている。

振りかぶって-------

投げる。

特に変わったフォームではない。服装も、ボールも、グローブも、他の生徒と同じ物・・・。

「なっ・・・・!!」

私は思わず声を上げてしまっていた。

一ノ瀬が投げたボールは勢いよく回転しながら今までとは、比べものにならない程・・・いや、上級生よりも速いスピードでキャッチャーのミットに収まった。

「うお!?」

キャッチャーが尻餅をついた。

重みも相当だったのだろう。

周りな反応を全く気にもせずに二投目にかかる。

「ちょっか・・・!?」

二投目はフォークだった。速さはそんなに無かったが角度が・・・。

「直角!?」

上級生の現ピッチャーが声を上げた。

実際は直角ではないが、直角に見えなくもない。

落ち度が半端ではなかった。

一ノ瀬は、表情に微塵の変化も見せず三投目・・・。

内角のストレート。

「い・・・・痛え」

キャッチャーのミットからポロリとボールが落ちる。

しかし、先輩として恥ずかしくなったのか顔を赤くしてすぐに一ノ瀬にボールを返した。

四投目はカーブ。

「速い・・・。」

五投目もカーブ。


「ありがとうございました」


一ノ瀬は十球を投げ終わり、礼をしてマウンドをおりた。

一斉に一ノ瀬の周りにできる人だかり。

「おい、一ノ瀬。お前、本当に女かよ」

「速いなあ・・・コントロールも・・・」

「やばい。伝説じゃん!」一ノ瀬の周りに集まっているのはほとんどが上級生だった。

一年生はただ、呆然と一ノ瀬を見ていたり、小さい声で話している。




・・・・あの時なんだ。

あの時・・・緑川と同じように、じっくり育てようと思っていれば・・・・・。

興奮を抑えられなかった。一年生で女子、先輩がいるというプレッシャーの中で、冷静にものすごい速さで投げた、目の前の・・・・一ノ瀬という・・・・一年生の・・・・女子を・・・目の当たりにしてしまったから。教師としての・・・・理性を・・・・置いてきてしまった・・・・。

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