11話
「おはよう、中島」
「おはよ!」
朝は、中島の家の前で待ち合わせしてから学校に行く事になっている。
「今日怠ぃよ。どうせ、委員会だの決めるだけだろ?絶対寝る」
「確かに・・・。けど、俺委員会入るぜ」
「はあ?面倒臭っ。よく出来るよな」
「別にいいだろ」
実は、昨日のちぐとのメールの続きで、ちぐが体育委員をやると言っていたから、俺もやろうと思った。
「何やるわけ?」
「体育委員かな」
「体育委員?面倒臭。何?委員会での出会いとか期待してるの?」
「んな訳無いだろ。お前じゃ無いんだから」
「じゃ、体育委員会の顧問か!!歳の差?」
「阿呆!顧問は男だ!!」
「出会いかぁ、俺も委員会入ろうかな」
「だから、出会いじゃない!」
そんな、たわいもない事を話ながら歩くと、学校に着いた。
何やら校庭が騒がしい。
「なんだ?騒がしいな」
「あれ、一年の集団じゃん。あそこは・・・野球部だから、部活見学してるんじゃね?」
「けど、女子もいる」
「ん?確かに、二年もいるな。俺らも見てみるか」
野球部が練習している場所は、校庭を校舎からみて左側半分。
田園中は、野球部が代々強い。
何でも、俺が入った年からは最強なんだそうだ。
見物客が密集している所は、一年と二年、三年と自然に別れている。
中島はわざと一年の集団の中に紛れ込む。
「おい、中島」
「いいの、いいの!後輩の意見を聞きたいからな」
ま、放っておけば大丈夫だろう。
俺は少し離れて、校庭を見回す。
ちぐの姿をさがしながら。
「一ノ瀬先輩、すごい・・・」
「今の、フォーク直角?」「130kmのカーブって・・・」
一年の集団からそんな声が聞こえてきた。
一ノ瀬・・・ちぐ?
一年の集団の中に加わって校庭を見ると、キャッチャーに向かって投球するちぐがいた。
キャッチャーが指で何かの指示をだすと、軽く頷き、振りかぶって投げる。
ボールが、ものすごい速さで回転しながらミットにおさまる。
は・・・速。
野球に関しては、素人の俺にはこんな感想しか言えない。
野球部員希望の一年生らしく見える、坊主頭の一年生は尊敬の目線でちぐを見つめている。
一方、一年生の女子生徒は、また別の視線を向けている。
「一ノ瀬先輩、格好良いよね・・・」
「一ノ瀬先輩、何組だろう?」
「格好いいなぁ・・・」
顔を赤くして、ちぐを見つめている。
ま、まずい・・・。
一ノ瀬先輩の性別が君達と同じだということを教えなければ・・・。
その目線は同性に向けたら駄目だ。
「一年?残念だったねぇ。一ノ瀬先輩格好いいのにね」
俺が言うより早く、中島が声をかけている。
軟派しているようにしか見えないが。
「あの、一ノ瀬先輩、彼女いるんですか?」
笑いを抑えるのに、苦労しているのか、中島が手で自分の背中を叩いている。
「彼女はいないけど・・・」
「そうなんですか?よかった・・・」
胸を撫で下ろしながらも、女子の集団の中で視線が激しくぶつかっている。
俺は、遠くで見ているが吹き出してしまった。
「君達、女の子と結婚したいの?」
「へ?」
爆笑。
俺は腹を抱えて笑った。
中島も俺に気づいて、手招きしてきた。
「さっき、こいつが言ったとうり。一ノ瀬先輩は、一ノ瀬 千雲っていう名前で、女だよ」
俺が解りやすく解説を入れる。
「えぇぇぇ!?」
絶叫する女子。
はぁ、女子っていう生き物はたまに、超音波を出す生き物だ。まったく。
「おい、中島。そろそろ教室戻るぞ」
「ええ?もうちょっと見てこうぜ。はら、一ノ瀬すごいぜ?」
「じゃ、先に行ってる」
俺は、教室に向かって歩き出す。
「え?一ノ瀬先輩って、女だったの?」
「けど、野球・・・」
「けどやっぱり格好いいよ・・・」
一年生の女子の間から声が少し聞こえた。