自由のかたち
掲載日:2026/03/23
朝、目が覚めると、世界は変わっていた。
人間が、いない。
いや、正確には——みんな猫になっていた。
通勤電車は止まり、会社も閉まっている。
代わりに、道のあちこちで猫たちが寝転び、気ままに歩き、時々、餌を取り合っていた。
最初は戸惑った。
だが、すぐに気づく。
働かなくていい。
誰にも怒られない。
義務も、責任もない。
ただ、腹が減ったら食べ、眠くなったら眠るだけ。
「……悪くないな」
そう思った。
数日もすると、完全に慣れた。
いや、慣れすぎた。
ふと、違和感がよぎる。
何も考えなくていい日々。
未来の不安もない。
夢も、目標も——いらない。
ある日、鏡を見た。
そこに映っていたのは、猫だった。
驚きは、なかった。
ただ、少しだけ考えた。
「これで、よかったんだっけ」
その問いも、すぐに消えた。
腹が減っていた。
外に出ると、他の猫たちが餌を奪い合っている。
自分も、その中に混ざった。
引っかき、奪い、食べる。
満足すると、日なたで丸くなる。
やがて、考えることは、何もなくなった。
ただ一つ、時々…
人間だった頃に、
何か大切なものを持っていた気がする。
そんな気がするだけで、
思い出すことは、もうできなかった。




