第四話
続きです。
ん〜〜!日差しがあったかいねぇ……。いい朝だね。昨日のことを忘れるなら。
布団をばっとめくる。しかし意外なことに、そこに雪愛の姿はなかった。
どうやら、先に起きたらしい。
変なことされてないか、部屋を見渡して体をあちこち触ってみるも、変わったところはない。
よかった、少なくとも良識はあるタイプだった。寝込みを襲われる心配はしなくて良さそう。
………あれ?布団に侵入されるのは寝込みを襲われることになるのかな…?
もうわかんないからいいか。
とりあえず、顔を洗おうと部屋を出ると、何やら鼻の奥にツーンとくる、お酢みたいな匂い。ついでに何かが焦げた臭い。
急いでキッチンへと向かうと、なぜか倒れてるおじいちゃんと、手にミトンをつけて生成したのであろう、ダークマターを持つ雪愛の姿。
「あ、おはよ〜ございます〜ご主人様ぁ。朝食、作ってみたんですよ〜?」
雪愛の手にする黒焦げの物質から何か新しい生命が生まれそうな、そんな禍々しさを感じた。
少しでも油断すると、気絶してしまいそうなほど、危険な臭いも放っている。
「……えぇと、ちなみに何を…?」
「オムライス作ってみました〜。」
雪愛の手にする物質を見る。なるほど、形はオムライスに見えなくもないけど…無理。どうやっても見えないこれ。どう頑張ってもフォローできない。
……雪愛の屈託のない笑顔を見る感じ、頑張って作ろうとしたことはわかる。
わかる、わかるからこそさ、色々言いたくなるんじゃん?
というかシンプルに朝からオムライスは重い。
「ご主人様〜?もしよろしければあたしがアーンしても〜?」
「やめて、絶対やめて。されたくないとか以前にそれ食べたら多分死ぬ。」
「え〜?酷いじゃないですかぁ…ちゃんと美味しく……」
そこで雪愛が一口。よく行ったなそれ。
ガシャァン!!と音を立てて料理(?)ごと皿が床に落ちる。ついでに雪愛も床に倒れ落ちる。
えっと、おじいちゃんが倒れた理由もわかった。よく味見しようと思ったねおじいちゃん。
というか、どうしよ。この状況。
2人は気絶してるし…仕方ない。私が朝ごはん作ろう。
さて、床の掃除と2人を片付けたところで、今日の朝食は……シンプルに味噌汁と卵焼きでいいかな。
おじいちゃんが作るみたいに、わざわざ昆布と鰹節から出汁を取るのはめんどくさいし、粉末の出汁を使わせてもらおう。
そして、味噌汁の具材は、もやしとじゃがいもと玉ねぎと乾燥わかめ。
まずは、玉ねぎとじゃがいもを食べやすい大きさに切って、強火でお湯を沸かした鍋に入れる。
玉ねぎの色が透明っぽくなってきたところで、中火にしてから粉末だしともやし、わかめを少し入れる。
私はわかめ多めが好きだけど、ホントに思ったより膨らむから、ひとつまみ程度でいい。
ワカメが膨らんだら、火を止めて味噌を入れる。
一口味見……っづ!?あっつい!!ヤバい水水水!!
……はぁぁぁ。熱かったぁ…まだベロがヒリヒリする。火傷したかもこれ。
でも、味は美味しくできてたからよし。
さてと、次は卵焼きを……って、そういえば今日、時間何時から!?
スマホを見ると、9時ぐらいの集合がいいとのこと。
ええと、今は…8時半!?
ヤバいもう時間ないから急がないと!ええと、朝ごはんはもうご飯と味噌汁だけでいいや!
早く食べて準備しないとええと、櫛ってどこに置いてたっけ…?ええと…ええと…!?
ふぅ…なんとか準備間に合った……寝癖がまだ跳ねてるけど、それはもう仕方ない。アホ毛みたいなものってことにしとく。
時間は8:58分。集合はちょうど彩奈の家なので、すぐに着く。
靴を履いて、玄関の扉に手をかける。
「いってきまーす。」
リビングの方向へ向けて声をかけるが、反応はない。どんだけの劇物だったのよあれ……
泡吹いたりだとか、心拍が乱れてたり、呼吸が乱れてたりとかはなかったから、シンプルに気絶しただけなんだけどさ、スタン性能抜群の料理って何。
あれはもう料理と言っていいのかわからない段階にあるけどね。
玄関のドアを開けると先にいたのか、ちょうどインターホンを押そうとする彩奈の姿が……
ゴンっと音を立てて彩奈のおでこと玄関扉がぶつかる。
あっ、ヤバい。扉と彩奈の距離が近すぎてぶつかったちゃった。
「ごめん彩奈、大丈夫?」
「ダイジョブダイジョブ。ボクはこれくらいじゃ怪我しない……」
「おでこ!おでこから血が出てるって!怪我してるよ思いっきり!」
痛そうに抑える彩奈のおでこからは少量ではあるものの、血が垂れてきていた。
「あれ、ホントだ。じゃあ、これあーんして?」
そう言って彩奈が私に渡してきたのは、ミルク味のキャンディー。
私は包装を開けて、彩奈の口元へと持っていく。
「ほら、早く食べて。じゃないともっと傷口が開くかも。」
「は〜い。ハムッ。」
彩奈は私の指ごと飴を食べた。すぐに指は引き抜く。
普段食べてるものと変わりないだろうに、ほっぺたをおさえて、満面の笑みを浮かべる彩奈。
耳と尻尾が生えてパタパタ揺れている。ついでにおでこの傷も塞がった。
「う〜ん、やっぱり彩奈からあーんしてもらった飴はいつもの100倍美味しいよ。」
「そんな大袈裟な……いつもと変わらないでしょ?」
「海莉ちゃんの手から貰うってのがいいんでしょ。」
ここら辺は犬っぽいところが出てる。まぁ、可愛らしい範囲だから全然いいんだけど。
「さ、いつまでもここにいないで、早く出かけよ?どこに行くの?」
このままだと今度は頭を撫でてほしいとか言ってきそうで、一生進まない気がしたので、話を変える。
「んっふふ、それは着いてからの秘密。ボクに着いてきて。」
彩奈が指を鳴らすと、彩奈の腕に赤いリードのようなものが現れる。
そして、私はそのリードの先を持っていた。一応、他の人には見えないらしい。
これは、彩奈の能力のうちの一つなんだけど……私もよくわかってないから今は置いとこ。
これではぐれないからちょうどいいんだけどね?
彩奈に引っ張られるまま着いていくと、とある店の前にたどり着いた。
「じゃ〜ん!猫ちゃんカフェです!前からずっとこういう場所行きたいって言ってたから連れてきちゃった♪」
彩奈はリードを消して、中に入ろうとする。
私はそれを引き止める。
「待って待って、え?前にここら辺きた時はこんなのなかったよね?いつの間にできたの?」
「ん〜と、ボクが聞いたのは昨日。それでも、ここができたのは1週間くらい前だって。」
へぇ〜。それなら知らなくても納得。というかここら辺あまり来ないから知らなかったし。それでも1ヶ月に一回くらいはきてるけど。
「そうそう、今日はボクが奢るから安心して。」
「え?い、いや、悪いからちゃんと自分の分は払うよ。」
「いいの。いいの。これはボクからの初任務達成祝いだからさ。」
……ん?初任務達成祝い?
「待って、なんでそんなこと知ってるの?」
「当然、海莉ちゃんのことなら全部知ってる!」
えぇ、やだ…こわっ……
「…というのは流石に冗談だからね?だから離れないで!」
思わず距離をとってしまっていた自分に気がつき、コホンと咳払いをする。
「それで?ホントはなんで知ってたの?」
「ホントは、昨日、海莉ちゃんのおじいちゃんから電話が来てね、ものすっごく嬉しそうに話してくれたんだ〜。」
なるほど。おじいちゃんなら周りに言いふらすね。
「そういうことね。でも、やっぱり奢られるのはさ…」
「いいからいいから〜。ほら、早く中入ろ?」
彩奈に押されて猫カフェの中へと入る。
若干ビクビクしながら入るも、中は案外広くて静かで落ち着く空間だった。
普通の猫たちが気ままにキャットタワーの上に乗ったり、他のお客さんのいる机に乗ったりしている。
しかも何より、猫の種類が多い上に、可愛いのベクトルがみんな違う。
ざっと見ただけでこんなに輝いて見えるのに、触れ合ったらどうなるのだろうか。
思わず期待に胸を高鳴らせる。
席へと案内され、メニューを見ながらチラチラと猫たちの方へと視線を向ける。
「ふふっ、耳も尻尾もピクピクしてる。よほど楽しみだったんだね。」
彩奈に言われ、思わず耳と尻尾が飛び出していたことに気がつく。
マズイ、この姿あまり人前で見せたらダメな……
「無理に戻さないでリラックスしよ?私も出せば、ちょっとはしゃいじゃってるだけにしか見えないから。」
そういって、彩奈も耳と尻尾を出現させる。
すると、興味が湧いてきたのか、猫たちがこちらへと寄ってきた。
尻尾や頭の上の耳をスンスンと嗅がれて、その鼻息がくすぐったい。
かと思えば、腕や足に顎すりしてきた。どうやら、気に入られたらしい。
恐る恐る触ってみると、体を持ち上げて撫でられに来たので、可愛すぎてつい撫でてしまう。
どことなく視線を感じて、彩奈の方を見ると、羨ましそうにこちらを見ていた。
確かに、あまり猫たちが寄ってない。
どこか心に優越感を感じながら、この時間を堪能したのだった。
「ん〜!最高だった〜!」
店を出て座ったままで固まった体を伸ばしながら、そう口にする。
「猫ちゃん、あんまりボクのところに来てくれなかった……」
私とは対照的にどこかしゅんとした様子で項垂れる彩奈。
「まぁやっぱり?私が猫又の力持ってるから寄ってきてもらえたんじゃない?」
「いいなぁ。ボクも猫ちゃんの力が良かったよ〜。」
「まあまぁ、彩奈の力にも良いところはあるから。ほら、例えば……」
なんだろう…なんだろうね。うまく説明できないけどあれだよそうあれ。
「やっぱり良いところないんだね…ボクの能力。」
「いやいやいやいや、本当にいいところあるから!ありまくりだから!羨ましいくらいあるから!」
ただ、それが言語化出来てないだけで。
と、そこで、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
彩奈と顔を見合わせると、同時に駆け出していた。
現場はすぐ近く。そこには、謎の白い液体をばら撒く男と、その不審者から逃げる人たちがいた。
「おいおい、そんなに逃げなくて良いだろ!こっちは親切してやってんのによぉ!」
男は何故かキレ気味に言っているが、見ているこっちが困惑する。
あんな色の液体撒き散らしてどこが親切なんだ。
というか、コイツ、手に何か持ってるし。
って、そうじゃん、依頼内容にいたよコイツ!
スマホを開いて確認すると…うん、間違いない。手にボウルのような何かを手に持ち、謎の白い液体を撒き散らす、迷惑な奴がいるって。
ということは、あの液体にはもしかしたら何かあるかもしれないから、気をつけないと。
「ねぇ!そこのあんた!」
私は大声で男に声をかける。
「あん?お嬢ちゃん、俺の液体かけてもらいに来たのか?」
漢が気持ち悪い笑みを浮かべて手をかかげる。
「そんなわけないでしょ!とっとと撒き散らすのをやめて!」
普通に身震いした。
「失礼な!こっちは親切でやってんだ!この研ぎ汁にはな、保湿と美肌の効果があるんだ!」
研ぎ汁…?なんの?
「そんなの知ったことじゃないでしょ!知らない男にそんなのばら撒かれたって誰も嬉しくないの!」
「へっ、それだけじゃないぜ?保湿と美肌以外にも、文字通り肌の性質を若返らせる力もあるから、この研ぎ汁をかけると赤ん坊が如くのモチモチ肌を手に入れられるぜ?」
何それ気になる。いやいや落ち着け。仮に効能が本当だとしても、相手は圧倒的に不審者。
どの道、依頼に乗ってるくらいには悪いやつだから、やっつけないといけない。
「あんたの研ぎ汁だかなんだか知らないけど、迷惑行為はやめてよね。」
「だーかーらー!俺は親切でやってんだ!それになぁ、俺の家系は代々研ぐことには特化してんだ。ひいひいひいばあちゃん…くらいのそこら辺の代からなぁ!」
そして、手元の何かをいじくる。
う〜ん、やっぱり、話は通じないみたい。
こうなったら実力行使で止めるしか…!
「ねぇねぇお兄さん、ボクと遊ばな〜い?」
いつのまにか、男の背後に立っていた彩奈。茶色のしっぽと耳を生やして、屈託のない笑みを浮かべている。
男が驚いて振り向くと、途端に彩奈の耳と尻尾の色が灰色に変わる。
「はい、お兄さんの負け〜♪」
蠱惑的な笑みを浮かべて、男の首を一突き。男は倒れた。
……今のは一体………?いつの間に彩奈があんなところに…
そして、男は手に持ってたボウルを落とし、何かをばら撒いた。
それを見て、私は安心だか、気が抜けたかで一言。
「お米のとぎ汁かよこれ…。」
最近、かなり筆が乗っててペースも早いですが、続きです。4月ぐらいからはペースが落ちると思います。




