第三話
続き書きました
……はぁ、今日は疲れたぁ…。帰ってきてからの方が疲れたんだけど。
水面に浮いたアヒルのおもちゃをギュッと摘んでみる。
空気を搾り出してキューっと音が鳴って、潰れた形が元に戻っていく。
すぐに飽きて、肩までお湯に浸かる。チャプッと水面から音が聞こえ、水面の揺れる感覚に身を任せる。
この、体の疲れを溶かしてくれる感じが好きなんだよねぇ……
ふわぁぁ……眠くなってきた。そろそろお風呂から上がって寝ようかな。
立ちあがろうと、湯船のふちに手をかける。
「ご主人様〜!背中流させてください〜!」
お風呂のドアがとんでもない勢いでバンっと開き、どこか鼻息の荒い様子の雪愛が入ってきた。
「ちょっ…!入る前にお風呂に入ってこないでって言ったよね!?」
私は体を腕で隠しながら、雪愛の色白な体を見る。眩しいくらいに全身が白い。猫又の姿の毛並みと関わってるところあるのかな?私も尻尾と耳は髪の毛の色と同じで黒だし。
「やぁん♪ご主人様〜?そこまで見つめられるとあたしも恥ずかしくなってしまいますぅ〜。」
なんだか体をくねくねさせているが無視だ。
だけど一つ困ったことがある。このままではここから出れないということだ。
厳密には出ることは余裕で可能なのだが、こいつに裸を見られたらどうなることやら……例の写真もまだ出所がわかってないし、何が起こるかわからない。
タオルも脱衣所の方だ。しまった。詰みかもしれない。
仕方ない。あとで乾かすのは大変だけどあの手を使って……
「ご主人様〜?一緒にお風呂入るのはダメですかぁ?」
捨てられた子猫のような潤んだ瞳でそう言われ、私の良心に刺さる。
よく考えなくても、この子は誰かに気づいて欲しかったって言ってたし、ただ単に寂しいだけかもしれない。
私をご主人様と慕ってるのも、さっき言ってた動機以外にも健全な理由があるかもしれないし。
たしかに、それを知ろうとせずに逃げてた私も悪かったかもしれないよ?
でもやっぱり言動自体は変態だからどうしてもこの葛藤が……
「駄目ぇ?」
首を傾げて懇願するような表情で雪愛が言ってくる。
……反則でしょその顔は。
結局、私が折れて、雪愛のことを洗ったり、雪愛が私を洗おうとして転んだりと、色々あって休まらないお風呂になりましたとさ。
……休まる暇ないじゃん!お風呂くらいは休ませてよ!
…ふぅ、今日はどっと疲れた…お風呂に入ってのぼせたからかは分からないけど、頭と体が重くて怠い。
体調不良的な怠さではないからいいんだけど。
電気を消して布団に入る。
すると、スマホから着信が鳴りはじめた。
なに?寝ようとしてたのに……でもまだ十時くらいだからくることもあるか。
誰かと思って画面を見ると、彩奈からだった。
「もしもし!?彩奈!?無事なの!?」
『あ、やっほ〜海莉ちゃん。無事って…どうして?』
「いやあんた、今日救急車で運ばれてたじゃん!」
いつもと変わらない様子で、明るい声で電話の向こうにいるのは、私の幼馴染の狼崎 彩奈だ。
この子は今日怪我したと言うのに、何事もないような様子。
『あ、知ってたんだね。ボクが怪我してもすぐ治るから平気だよ。あの時、おばあさんに瓦礫が落ちてきてた方が危なかったし。』
「だからといって怪我するなんて……心配したんだからね!?」
『ごめんごめん、安心してよ。怪我は完全に治ってるし、この通り元気ピンピンだからさ。』
「それならいいけど…」
よく考えなくても、この子も力を持ってるんだった。
この子はたまに機嫌がいい時、犬の耳と尻尾が見える。特に好きな食べ物……パフェを前にすると、尻尾をブンブン振る。本当にワンちゃんみたいに見えるんだよね〜。
それ以外は特に変わったところはないんだけど、似たような力を持ってるからって言う理由もあって、私たちは仲良くなった。
この話は今は置いとこう。話し始めると思い出話が一生頭を駆け巡る。
「そういえば、急に電話かけてきたけどどうしたの?」
『あ、そうそう。海莉ちゃんが知ってるかは分からないけどボク、今日、人を何人も助けられたんだ〜♪』
ご機嫌そうに言ってる様子から、耳がぴこぴこ動いてそうな様子が見える。
だけど、この報告をしたということは、何かを待っている様子でもある。
「へぇ、すごいじゃん。みんなのヒーローっていうか、番犬になれるんじゃない?」
『反応薄くない?ホントに人をいっぱい助けたんだから、ちゃんと褒めてよ〜。』
とまぁ、この通り褒められ待ちである。
「人を助けて偉いし、かっこいい。よっ、みんなのヒーロー。助けた人たちの中に何人か彩奈に惚れた人いるんじゃない?」
『いやぁ、そんな大袈裟な……照れちゃうよ〜♪』
褒めたら褒めたで照れるのなんとかしてくれない?これ。
『そうだ、海莉ちゃん、明日一緒遊ぼ?ボク、行ってみたい場所があるんだよね〜。』
明日…明日かぁ。まぁ、さっき見た感じ、緊急っぽい依頼の内容はなかったから、後回しでも良さそうだね。
「わかっ…」
ふと、布団の中に別の体温を感じる。嫌な予感しかしなかったが、布団をめくる。
そこには私の腰にしがみつく雪愛の姿が。
「お、おい、雪愛今すぐ離れろ、これ聞かれたらめんどくさいことに…(小声)」
「やだぁ〜あたし、ご主人様と一緒に寝るぅ…」
駄目だおやすみモードに入ってどきそうにない。
『…海莉?』
あ、マズイこれは非常にマズイ。
「は、はい…えと、どうしたの…?」
『そこに誰かいたりする…?』
「い、いや誰もいない!誰もいないから!」
訝しむ彩奈の声に、若干震えつつも、なんとか答える。
「んもぉ…ご主人様ぁ〜、そこ触らないでくださいよフヘヘヘヘヘ〜。」
雪愛の寝言。しばしの沈黙。
『…………。』
「えっと、今のはテレビの音だから。テレビの音だからね?だからできたら窓は…」
言い切る前に窓が大きな音を立てて割れた。
「あぁぁぁぁぁ!!窓がぁぁぁ!!」
思わず耳と尻尾が飛び出してしまった。
「海莉ちゃん?ボクとの約束忘れちゃったの…?」
気がつくと、犬のグレーの耳と尻尾を生やした彩奈が私の上にまたがっていた。普段はこの子は茶色の耳と尻尾なんだけど、怒ってる時はこの色になる。
というか、上半身は彩奈にまたがられて、下半身は雪愛に抱き付かれてるってどんな状況だこれ。
「い、いや、忘れてないけど、あれは子供の時の戯言というか、なんというか……でも、本当に彩奈が友達として好きなのは本当だよ…?」
「忘れてないんだったらなんでボク以外の子を部屋に連れ込んでるの…?やっぱりボクとの約束は嘘だったの…?」
「いや、だからあれは約束っていうよりは…」
「小さい頃言ってたよね!?大きくなったらボクと結婚してくれるって!」
こうなると彩奈は言うことを聞かなくなる。
小さい頃にそんな会話してた記憶はうっすらとあるけど、もはやここまで引きずるとは思わないじゃん?
しかも私たち女の子同士だし。いやでも、もうこうなった彩奈を止める方法は一つしかないのが……
私は彩奈を抱きしめて、頬に軽くキスをする。
「ごめんね?私はまだその気持ちには応えられないから、これで許して?」
「う、うん、それなら…許す…。」
彩奈の顔が真っ赤に染まる。ついでに私の顔も。
たまにこうなることがあるけど、やっぱりこうしないと彩奈は落ち着いてくれない。
こうなることがなければ、いい親友なんだけどねぇ……
「この子は、私のいとこ…?みたいな感じだから。誓って連れ込んだわけでも、何かあったわけでもないから安心して!」
「……ぇ?う、うん、信じる。だからそのぉ……」
彩奈が起き上がり、私の上から降りる。
「失礼しました……!」
消え入りそうな声で窓から自分の部屋に戻って行った。
……修理費一万かなぁ…………。
たまに暴走するうちの親友は、度々窓を突破して部屋に侵入する。
多分、飼い犬が構って欲しい一心で物を落としたり、飛びかかったりするのと同じなのかもしれない。
いややっぱ、改めて考えても様子はおかしいよね?
まぁ、普段彩奈に助けられてるのは確かだし、遊んでて楽しいから、ここに目を瞑れる私も大概おかしいとは思う。
明日ね…時間聞いてなかったな。
とりあえず彩奈に集合時間の確認のメッセージだけ送って、ベッドに寝転んで目を瞑る。
……ふと思ったんだけど、おじいちゃんは…まぁまだいいとして。私や彩奈、雪愛といい、こんな感じの能力持ってる人って、全員どこか頭のネジ飛んでるのかな…?
なくはない。この状況を受け入れられてる私もそうだし、他2人は言うまでもなく。
私も何度かプッツンしたときの記憶がないし。多分そこで何かやらかしてる。
ということは、これから遭遇する奴らって能力は当たり前として、性格的にも相当厄介なんじゃ……
やっぱりこの仕事引き受けたの間違いだったかもしれない。
でもまぁ、やるって決めたからにはちゃんと依頼はこなさないとね。
相手の性格が厄介でも、すぐに倒して関わりを持たなければいいだけだし。
腰にしがみついてる雪愛を少し見て、ため息をつく。
明日、雪愛がついてきたらどうしよう……また彩奈が暴走するかもしれないし……
よし、今のうちにストーカー対策でこいつを縛ろう!
面倒ごとは避けたいし、何より常に雪愛に警戒しながら彩奈と遊ぶって言うのもキツいだろうし!
そう考えたが、雪愛の緩んでだらしない顔になった寝顔を見て踏みとどまる。
やっぱり、縛り付けるのはやめておこ。流石に可哀想だし。
はぁ。明日もまた気力的に疲れそうだなぁ……
前回の続きです。筆が乗ってだいぶ早くなりましたが、楽しんでいただければなと。




