表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰路の旅  作者: 灰ノ森鬚
6/6

灰塵に灯る火種〜後編〜

深夜。

 灰の降り積もる静寂を、この世の終わりを告げるような轟音が打ち砕いた。

 ――ズ、ドォォォォンッ!!

 激しい振動が穴蔵の底まで伝わり、ヴィルとカイトは飛び起きた。

 灰塵城グラードの南門が、エステリア軍の放った攻城兵器によって爆砕されたのだ。

「何だ!?」

 カイトが鋭く叫ぶ。地を這うような重低音のほら笛が幾重にも重なって鳴り響き、鉄と鉄がぶつかり合う音と、兵士たちの怒号が闇夜に響き渡る。

「……始まったか!」

 カイトがすぐに状況を察し、混乱する奴隷たちを促す。

「おい、ボサッとするな! 奥の崩落してない頑丈な岩場に隠れろ! 固まって動くなよ!」

 ヴィルもまた、怯える老人たちの背を押し、安全な場所へと誘導していく。だが、避難を終えたヴィルの視線は、戦音が最も激しく響く南門の方角へと向けられていた。

「カイト……南門の方が、すごく騒がしい。あっちに、まだ逃げ遅れた人たちがいるかもしれない」

「ヴィル、正気か!? あそこはもう戦場だぞ。エステリアが攻め込んできたってことは、守備隊の奴らもなりふり構わず暴れてるはずだ」

 カイトはヴィルの肩を掴んで止めようとしたが、ヴィルの瞳に宿る決意の光を見て、わずかに毒気を抜かれたように息を吐いた。

「……あー、クソッ! 分かったよ。お前のその『放っておけない』病気には、もう付き合うって決めてるんだ」

 二人は混乱に紛れ、兵士たちが城壁へ向かう隙を突いて南門へと走り出した。

「いいかヴィル、無理だと思ったらすぐに引くぞ! 死んだら家族にも会えねぇんだからな!」

「分かってる! でも、あの日モルガスに言われたんだ……『次は無い』って。ここで逃げて誰かを見捨てたら、僕は二度と自分を許せない気がするんだよ!」

「お前って奴は……! まったく、ひょろひょろの体のどこにそんな意地が詰まってやがんだ!」

 カイトは悪態をつきながらも、ヴィルの前を走り、落ちていた鉄の棒を武器代わりに拾い上げた。

「……もしヤバくなったら、俺の後ろに隠れろ。エルフの意地、見せてやるからよ」

「ありがとう、カイト。……行こう!」

 燃え盛る火の手と、立ち込める灰の煙。その向こう側、血生臭い風が吹く南門の戦地へと、二人は足を踏み入れた。

 ふと、駆け出すヴィルの視界の端で、隣を走るカイトの力強い足取りが映った。

 32歳の人生を無気力に終えた「歩生」だった頃の自分なら、きっとこの恐怖に足がすくみ、動けなくなっていただろう。けれど今は違う。自分を信じて背中を預けてくれる相棒が隣にいる。

 ヴィルは、胸の奥に灯った「小さな勇気」を、そっと確かめるように息を吸い込んだ。

 それは、吹き荒れる絶望の風に今にも消されそうな、弱々しい火種の光だった。けれど、その微かな熱があるからこそ、凍てつく闇の中でも足が前に進む。

 カイトもまた、隣を走るヴィルの気配を感じ取り、口端をわずかに綻ばせた。

 死を待つだけだった穴蔵の底で、初めてヴィルの瞳に意志を見たあの日から。二人の間に生まれたこの小さな火種は、いつの間にか、灰の世界で唯一の温もりになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ