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灰路の旅  作者: 灰ノ森鬚
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波紋の夜に

目を覚ました瞬間、世界は上下を失っていた。

 確かに足元には、確かな感触がある。

 だが、その地面の先には底知れぬ星空が広がり、空を見上げても、同じように無数の星が瞬いていた。

 上も、下も、境界のない夜。

 音はない。

 風もない。

 ただ、真空のような静けさだけが、そこにあった。

 ――ああ、そうか。

 胸の奥で、何かが静かに崩れ落ちる。

 俺は、死んだんだ。

 何かを成し遂げたわけでもない。

 誰かを救ったわけでもない。

 生きる意味を見つけることすらできず、ただ、擦り切れるように終わった。

 何も、できなかった。

 心に空いた巨大な空白に耐えきれず、俺はその場に膝をついた。

 その瞬間、足元に波紋が広がった。

 まるで水面に触れたかのように、円を描いて、静かに、どこまでも。

 驚いて視線を落とすが、地面は濡れてなどいない。

 それでも、確かに世界は、俺の絶望に呼応するように揺れていた。

 俯いたまま、感情が堰を切った。

 止めようとしても、涙が勝手に溢れ出す。

 一粒、また一粒と、この虚無の世界に零れ落ちるたび、波紋は重なり、波となって広がっていく。

 俺は、ただ泣いていた。

 理由は単純だった。

 悔しくて、空しくて。

 そして何より、もっと必死に、泥を啜ってでも「生ききりたかった」という想いが、今さらになって胸を刺した。

 ふと、重なる波紋の先に、違和感を覚えた。

 揺らぎの向こう側。

 いつからそこにいたのか、誰かが立っている。

 ゆっくりと顔を上げる。

 そこには、一人の女性が佇んでいた。

 艶やかな黒髪が夜に溶け、白いワンピースがこの星空の中で淡く発光しているように見える。

 その表情は穏やかで、俺の情けなさを責める色はどこにもなかった。

 ただ、すべてを見届けてきたかのような、深く、優しい眼差し。

 彼女は何も言わず、波紋の揺れる世界の中心で、静かに俺を見つめていた。

 まるで――

 その涙も、後悔も、すべてを許してくれる存在のように。

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