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正しさの終着点
これまでの人生で、良いことがあったかと問われれば、彼は首を横に振るだろう。
佐藤歩生。
それが、彼の名前だった。
学校を卒業し、安定した職に就いた。
誰もが「正しい」と言う道だった。
だがその日々は、やりがいと呼べるものとはほど遠く、同じ朝と同じ夜を繰り返すだけの、色褪せた時間だった。
――このまま生きていて、何になるのだろう。
胸の奥に沈んだ澱のような疑問は、消えることなく、ただ静かに積もり続けた。
答えを見つけるため、彼は足掻いた。
誰もが勧める「安定」を捨て、未知の世界へ手を伸ばした。
生まれてきた意味を、生きる証明を刻むために。
結果は、無残な失敗だった。
手元に残ったのは、挑戦の誇りではなく、周囲の冷笑と、重くのしかかる借金だけ。
彼の努力も、選択も、この世界には不要なものとして切り捨てられた。
それでも、彼は投げ出さなかった。
罵声を浴び、泥水をすするような日々。
借金を返すことだけが、彼に残された、唯一の「生への執着」だった。
――まだ、何かあるはずだ。
そう信じて、歯を食いしばり、視界が白むまで働き続けた。
だが、心より先に、肉体が限界を迎えた。
終わりは、呆気ないほど静かだった。
誰にも見取られず、灰色の空の下で。
歩生の人生は、そこで静かに幕を閉じた。




