表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

ニッポン人の誇り、戦意あるものは徹底的に、なきものには慈悲を

 ガルザークが地に沈んだ瞬間、魔族軍全体に動揺が走った。

 指揮官を失った黒い波は崩れ、あちこちで統率が失われる。

 悲鳴と怒号が入り混じり、やがてそれは一つの流れとなった――総崩れの退却だ。


「逃がすな!」

 城壁の上から現地兵が叫ぶ。

「今なら殲滅できる!」

 門が開きかけ、兵たちが武器を手に駆け出そうとする。


 だが、その前に特攻兵が立ちはだかった。

「やめろ」

 低く、しかし全員の耳に届く声。


「何をしている! 今こそ――」と兵の一人が叫ぶが、特攻兵の眼光に言葉を詰まらせる。

「ニッポン人は、戦意のない者は襲わない」

 その言葉は静かで、しかし鋼のように揺るぎなかった。


 アッツ島の男が続ける。「背中を斬るのは勝ちじゃない。臆病者のやることだ」

 占守島の守将は短く言った。「追撃は士気を削る。勝ちは守ればいい」

 硫黄島の将は油壺を置き、肩を竦めた。「また会った時、もっと楽しめる」


 現地兵たちは唇を噛み、しかし剣を下ろした。

 門は閉じられ、退却する魔族軍をただ見送る。


 その光景を、森の向こうで振り返った魔族の生き残りが目に焼き付けた。

 ――自分たちを追わず、ただ静かに立ち尽くす四人の人間。

 その眼差しは怒りでも憐れみでもなく、獲物を逃した獣の余裕に満ちていた。


「……なぜ追わない……?」

「わからん……だが、あれは……怖い」

 魔族たちは互いに囁き合い、より深く、より速く森の奥へと消えていった。


 こうしてベルダン防衛戦は、人族側の勝利で幕を下ろした。

 そしてこの日から、大陸のあちこちで噂が広まる。


『戦場に現れた四人の死なぬ鬼――ニッポン人』


 その名は、恐怖と共に魔族の耳へ届き、決して忘れられることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ