魔族将軍、ニッポン人の強さを見誤る
〈赤紋の牙〉が全滅し、戦場の喧騒が一瞬だけ止まった。
その静寂を破るように、低い地鳴りが近づく。
城門前の兵たちがざわめき、視線が一点に集まった。
――ガルザークが歩み出てきた。
漆黒の魔鎧は幾百もの戦で刻まれた傷を誇らしげに晒し、背に負う戦斧は人間の胴を易々と両断できる大きさ。
その眼光は氷のように冷たく、しかし奥に獰猛な炎を宿している。
「面白い」
低く響く声が戦場を震わせる。
「この私の精鋭を殺し尽くす人間がいるとはな……何者だ、お前たちは」
特攻兵が一歩前に出た。
血と汗と土にまみれた顔で、しかし笑っている。
「――ニッポン人だ」
ガルザークの目が一瞬だけ細くなる。
「聞いたこともない名だ。だが、すぐに忘れられる――死体となってな」
次の瞬間、巨斧が唸りを上げて振り下ろされる。
その斬撃は地面を砕き、衝撃波で後方の兵が吹き飛ぶほどだった。
だが、特攻兵は身をひねってかわし、同時に剣を斜めに振り上げる。
刃がガルザークの鎧に火花を散らし、深々と切り込んだ。
アッツ島の男が側面から突撃し、脚を狙って斬りつける。
占守島の守将は背後に回り込み、槍で動きを封じ、硫黄島の将が油壺を叩きつけて炎を上げた。
「ぐぬぅ……!」
炎に包まれながらも、ガルザークは咆哮を上げ、斧を振るう。
だが四人は一歩も退かず、四方から畳みかけた。
最後に特攻兵が跳び上がり、全身の力を込めて剣を振り下ろす。
刃はガルザークの兜を貫き、その咆哮を断ち切った。
巨体がゆっくりと崩れ落ち、地面に沈む。
その瞬間、城壁の上から人族の歓声が爆発した。
特攻兵は剣を振って血を払い、低く呟いた。
「ニッポン人を、なめんなよ」